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「勘弁してくださいよ…!」

横浜から離れた森に向かって進む車の中で、俺は困惑した声を出した。

「美味しいところ連れてってやるから、って入間さんが言うから着いてきたら……なんですかこれ!」

俺はヨコハマ署勤務の警察官で入間さんと同じ部署で働いている。あの泣く子も黙る入間銃兎さんが美味しい飯を食わせてやるなんて言うものだからありがたいと思って信じてついて行けば……これはいただけない。

「後輩に美味しいご飯を食べさせてあげようとしているんですよ。感謝してほしいくらいですね」

運転席でハンドルを握って運転する入間さんに俺はこれから行く先が言われなくてもどこか分かっているため反抗した。

「いや、この方面って…もしかしなくても理鶯さんのところですよね?!」

「察しがいいじゃねぇか。」

後ろの後部座席から喉を鳴らして笑った人間に目を向けて俺は唸った。

「碧棺…!お前…!分かってて…!」

碧棺左馬刻。ヤクザのくせに入間先輩と繋がっている青年だ。俺と同い年で気性の荒い奴。

何度殴りあったか分からないけど、俺も先輩の入間先輩についているうちにこの碧棺と話すようになった。

「美味い飯が食えるんだぞ?先輩ポリ公に感謝しろよ」

「…っ、俺は美味い飯でもゲテモノを食べたいわけじゃ…っ!!」

「なまえくん、理鶯はなまえくんが来ると言うと、ご馳走を用意すると言って喜んでいましたよ。」

「…うぇっ…」

理鶯さんのご馳走なんて想像しただけで食欲がなくなりそうだ…。

「くくっ、あいつに気に入られるなんててめぇも終わりだな」

「私たちが行くたびに今日はなまえは来ていないのか、と言っていますからねぇ」

「うぅ… 」

そう、俺は1度この2人に連れられて理鶯さんの住む所に行ったことがある。

元海軍だけあって、屈強な肉体に最初は警戒していたが美味しいご飯をご馳走してくれてすぐにその警戒は消えた。

美味しいなぁと舌鼓を打つと入間さんと碧棺がニヤニヤしているものだからなんだと思っていると理鶯さんの口から山ネズミの肉だ、なんて言われて吐きそうになったことがある。


でもせっかく作ってくれた理鶯さんに悪いので必死に飲み込んで喉から絞り出されたような声で美味しいですと返した。その時の理鶯さんは嬉しそうで俺の方は罪悪感がとんでもなかった。

俺はあの時ほど二人を恨んだことはない。逆流してきそうなものを堪える俺に碧棺は爆笑し、入間さんは楽しそうにしていた。2人とも下衆だ。

そんな2人とMAD TRIGGER CREWを組んでいる理鶯さんは2人とは違い温厚な人だ。(戦いのときはすごいらしいが…)

ただ温厚だからと言って、俺はもう2度とあのゲテモノ料理を食べるのは御免こうむりたい。

無理、絶対無理。

それなのに車は止まることなくスイスイと道を進んでいく。

「お腹痛くなってきそう…」

「心配ありませんよ、味、見た目は最高ですから。」

さ、着きました。と車から降ろされて今度は山道を歩いていく。

いっその事逃げ出すか…と腹を括ろうとているとどこからとなくいい匂いがしてきた。何かを焼いている美味しそうな匂い。


…ああ…、逃げる間もなく着いてしまった…。

「理鶯、来ましたよ。」

「銃兎、左馬刻、」

「それから、なまえくんも。」

「…っ 、なまえ、久しぶりだな。」

俺を見た瞬間嬉しそうな顔になったのは見間違いだと思いたい。

「…お久しぶりです…理鶯さん…」

「今日はなまえが来ると聞いてご馳走を用意した。食べていってほしい。」

ご、ご馳走…。
確かに目の前に並ぶのは美味しそうな匂いをした食べ物ばかりだけど何で出来ているのか…想像するのが怖い。


「こ、これは…何の料理ですか…」

震えそうになりそうな声で理鶯さんに尋ねる。


「カラスの焼き鳥に、タランチュラのスープ、デザートも用意してある。」

見せてくれたデザートは一見普通のゼリーみたいだったけど、理鶯さんの虫のエキスを使ったという発言を聞いただけで泡を吹きそうになった。

「こ、これを…食べろと…?」

「なまえに食べてくれると…嬉しい。」

「そうですよ、理鶯が腕をふるって作ったこの美味しそうな料理。食べないと損じゃないですかなまえくん。それで、理鶯。私たち2人の分はこちらの食材で頼みます。」

入間さんを見ると肉や野菜、お米やパスタなど普通の食材を手にしている。

「はぁっ…?!ちょ、入間さんそれっ…!」

「ああ、これは私と左馬刻の2人分しかありませんから、なまえくんはその美味しそうなご飯をいただいてください」

メガネを押し上げてキリリと微笑む入間さんが鬼に見えて仕方ない。

「な、なんで俺のだけ……」

「なまえ、温かいうちに食べてほしい。」

鉄仮面の理鶯さんが軽く微笑んで料理を差し出してきた。

うう…期待に満ちたその目が痛い。

「……………うぅ…い、いただきます…」

スプーンでスープをすくって口に含んだ。

コクのある味が口の中に広がる。美味しい。味はすごくおいしい…。これがタランチュラで出来たものじゃなければ…。

タランチュラを想像して血の気が引いた。

「うっ…」

「なまえ、どうだ。美味しいだろうか?」

美味しい、美味しいけど…。素直に喜べない…!

口に手を当てたまま黙る俺に理鶯さんはエプロン姿のまま少し俯いた。

見上げると悲しそうな雰囲気を纏っている。

「……なまえの口に合わなかっただろうか。」

しょぼん、という表現が1番合いそうな顔だ。

うわぁ罪悪感が…。慌てて手を降った。

「お、おいしい…です…」

そう言うと、理鶯さんはぱぁぁっと顔を上げて、周りにぽこんぽこんとお花が咲いているような嬉しさを顔に浮かべている。

「ありがとう、嬉しい。もっと食べてくれ。」

どんどん出てくるご飯に青ざめながら俺は一生懸命飲み込んで料理を残すことなく食べた。

最後あたりは泣いたけど。

そんな俺の隣で入間さんと碧棺は出来たての美味しそうなパスタを食べていた。解せない。

何の罰ゲームなんだと思うと涙がポロポロ出てきて大の大人が情けなかった。

「うぅぅ…」

涙を飲みながら食べ終わった俺は満身創痍という感じで胃を撫でていると理鶯さんが俺の隣に膝まづいて後ろから何か出してきた。

「なまえ、これを渡したくて今日森でとってきたんだ。」

理鶯さんの大きな手に掴まれているのは花だった。

「……花…?」

ええ…?俺に…?なぜ…?と訝しげに首を傾けた。

「綺麗な花を見たら……。なまえにあげたいと思った。」

……いやいや、真っ直ぐな目が痛いです!
アメリカと日本のハーフ、透き通った目が真っ直ぐ向けられて思わず仰け反った。

「は、花…っ?俺に…?」

「くはっ、外国は花束渡すのが普通ってか。」

「理鶯はなまえくんのどこが気に入ったんですか。」

「…小動物みたいなところだ」

「しょっ、小動物っ?!」

どこがだ…!!そりゃ3人に比べたら俺は身長も低いし小さいかもしれないけど平均身長だ、3人がでかいだけだろ!

「俺の作った料理をハムスターみたいに詰め込んで食べてくれたのが嬉しかった。」

ああ、それはまだあれが何の食材か知らなかった純粋な時の俺だよ。

次もまたたくさん料理を作って待っているから来てほしいという理鶯さんに、これ以上俺は我慢して食べ続けられないと思った。

おずおずと理鶯さんの目を見て覚悟を決めた。

「…理鶯さん…っ!俺は…、普通の料理が好きなんです……!こ、こういう…サバイバル料理じゃなくて…!」

「…そうだったんだな。」

うわぁぁ、理鶯さんがしょぼんとしている!
何か俺が悪いみたいな雰囲気なんだこれ!

「いや、まぁ理鶯さんの手料理ってすごく美味しいですし…っ!好きですけど!」

「…好き…。

…では今度は銃兎や左馬刻と同じような料理をたくさん作る。だから…また来てくれるか?」

「そ、それなら…もちろん…」

「わかった、ありがとう。」

ほっとしたあと、嬉しそうに小さく笑った理鶯さんに俺はなぜか肩の荷が重くなった気がした。

そっと俺の手に渡された赤とピンクと白の花。

大きな手と迷彩柄の服には似つかわしくないその花がアンマッチすぎて俺は少し笑ってしまった。

「小さなものは守らなければならない。自然の危険から、敵の攻撃から。…守りたいと思うものが小官にもできた。」

「は、はぁ…」

理鶯さんの言うことがよく理解できなかったがとにかくこれからは普通の料理が食べられるのなら俺はこれ以上言うことは何もない。

よかったと、安堵して入間さんと青棺と理鶯さんの住処を後にした。


帰りの車の中で俺はやっと家に帰れると気が抜けていた。

「それにしても理鶯の気に入りっぷりには驚きましたねぇ」

「お前プロポーズされてんじゃねぇか」

「はぁ?何を言ってるんだ青棺は。」

「守りたいとか言われてわかんねぇほどてめぇもバカじゃねえだろうが」

「あれは…!、というか!俺の方が守る立場にある!市民の平和を守る警察の俺の義務だ!」


とにかく俺はもうゲテモノを食べさせられることがなければ何だっていい。
だから理鶯さんの意味深な言葉は頭の中から徐々にすっかり消えていった。

それから数週間してヨコハマ署にライフルを持った軍人が入ってきたという騒ぎが起きて俺は1番に駆けつけた。

なまえにご飯を作りに来た、という理鶯さんにああ、そういえば最近連絡取れてなかったなと思い出した。

頭を抑えながら必死で周りに説明して事なきを得た俺は急いで理鶯さんを自分の家に連れてかえった。

「り、理鶯さんいきなりどうしたんですかっ?!」

「…最近なまえが来ないので小官から出向いた。」

「い、忙しくてですね…。というか何の為にここへ?!」

「なまえに料理を振る舞いたい。」

あぁぁ…そんなこと言ってたな…。

「えーと…じゃあ、このキッチンを使って…お好きにどうぞ…」

「ありがとう、好きなものを言ってくれ。何でも作ろう」

ああ、俺の部屋に大男が1人…。

レッツクッキング、と流暢な英語で呟いた理鶯さんに俺はいつか自分までもクッキングされてしまうんじゃないかと唾を飲み込んだ。

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