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俺のクラスにはとてもかっこいい子が一人いる。
山田三郎くん。背が高くて、頭も良いし何より人当たりのいい笑顔が女子から人気だ。
でも三郎くんはあんまり人を寄せ付けないから誰かとずっといるところを見たことがない。
三郎くんってやっぱりかっこいいなぁと思う。
あと5分でお昼休み。
シャーペンのカチカチしながらチャイムの音を待った。
***
お昼休みになれば皆机を寄せたり自由に食べる。
俺も弁当を取り出していつもの場所に向かった。
「三郎くん…!お待たせ!」
「…遅い。僕は5分も前からここにいたんだけど。」
三郎くんといつもお昼ご飯を食べる場所へ来ていた。じとりとした目で見る三郎くんにごめん、と苦笑いを返す。
「ったく、これだから時間を計画的に使えないなまえってバカだよね」
三郎くんが鼻で笑った。多分こういうところが友達が少ない原因なのかもしれない。
でも俺は平気だった。
「で、でも三郎くんのとこに早く行きたいな…って思ってた…。」
正直に気持ちを伝えると三郎くんの頬が少し朱く染まった。
「はぁ?そういうの別にいいから。」
そっぽ向いた三郎くんの耳も赤くて、嬉しくなった。ああ、三郎くんちゃんと俺のこと好きでいてくれてるんだな、って。
そう、俺は三郎くんと付き合ってる。
ダメダメなお前と付き合えるのは僕しかいないだろ、なんて上から目線の告白だったけどすごく嬉しかったんだ。
俺も三郎くんのことが好きだったから。
こうして2人で過ごすことが多くて俺には順風満帆な生活を送っていたけど、1つ気になることがあった。
「三郎くん、この間うちに来てくれた時、うちの母さんが三郎くんかっこいいってすごい言ってた。」
「ふぅん。まぁ否定はしないけどね」
「あははっ、…俺、三郎くんの家にも行ってみたいなぁ…」
この間三郎くんは放課後に俺の家に遊びに来てくれた。その時母さんが三郎くんを見てかっこいいと連呼していたのだ。
2人でボードゲームをしたりして遊んだあと、俺は三郎くんの家にも遊びに行ってみたいなあと思ったのだ。
だから、やんわりと行ってみたいと言ってみた。俺も三郎くんのお兄さんたちと会ってみたいなぁって。
三郎くんは何だかんだで優しいからいいよ、って言ってくれるかなとちらりと見上げると三郎くんはパンを持つ手を下ろして、床の1点を見つめていた。
それから顔を上げて、「無理。」と小さく答えた。
「えっ…」
無理という答えは想像してなくて、少し驚いてしまった。それは…お兄さんたちに俺の存在を教えたくないってことなのかな…。
恋人じゃなくて友達としての紹介すらも無理ってことなのかな…。確かに俺みたいな平凡なやつを友達なんて紹介するのは嫌かも…。
少し滅入って俺も弁当を食べる箸がゆっくりになった。
「…勘違いしないでよね。無理なのは、兄ちゃんが不良だから…。なまえに突っかかったら面倒だし。それに…1番上の兄ちゃんには…」
三郎くんが俺を思って言ってくれてるのはわかる。だから、うんわかったと答えたけどやっぱり少しショックだった。
それから三郎くんと何を話したかあんまり覚えていなくて気づけば放課後だった。
お昼のことばかり考えていてあっという間だった。
いつもは三郎くんと帰るけど…今日は一人で帰りたい気分だな…。
携帯を操作して三郎くんに今日は一人で帰るね、とメールを入れた。
カバンを持って学校を出る。
1人で歩きながら俺が三郎くんみたいになんでも出来てかっこいい人間だったら三郎くんは家に連れていってくれたのかな…なんて考えていた。
でもどうやったってそんな自分になるのは無理な話だからため息が出た。
はぁと息をついていると後ろから走ってくる足音が聞こえた。それからガシッと肩を掴まれて無理やり振り向かされた。
「っ、三郎くん。ど、どうしたの…?」
少し怒ったような顔の三郎くんに驚いて聞くと、三郎くんは眉を潜めた。
「どうしたの、って何で先に帰んの?」
「あ、ごめん。メール入れたんだけど…」
「見た。何で、って聞いてんの」
「…ちょっと…一人で頭冷やしたいなって…」
「はぁ?昼のこと気にしてんの?」
「っ、そういうわけじゃ」
「嘘つき。…はぁ、いいよ。今から僕んち行こ。」
「えっ…?」
「別に連れていきたくないわけじゃない…。ただ…」
濁すような三郎くんに俺は見上げて首を傾げた。三郎くんは俺をちらりと見て、俺の手首を掴んだ。
「行くよ。」
「えっ、わっ、」
くい、と引っ張られて三郎くんに引かれながら歩いた。
三郎くんは終始無言でお家についたときにやっと声を出した。
「ここ。」
山田と書かれた玄関。
三郎くんは扉を開けて、玄関の靴を見下ろし「…最悪」と呟いた。
何が最悪なんだろうかと恐る恐る見上げたけど三郎くんは何も言わなかった。
お邪魔しますと小さく呟いて俺も玄関で靴を脱いで入った。
「僕の部屋に行くから。」
「う、うん…」
ここが三郎くんのお家かぁ、と三郎くんの後をついてあるくと三郎くんが立ち止まった。
「ぶへっ、」
三郎くんの背中に当たってしまい焦っていると三郎くんの前から声が聞こえた。
「よぉ、三郎。早いお帰りだな友達いなくて遊ぶ相手もいねぇのかよ。」
三郎くんの手が後ろに回ってきて俺を庇うように背中に隠された。おかげで三郎くんの前が見えない。
「…二郎。お前なんでここにいるんだよ。不良ならバカな不良らしく外で喚いてろよ。それで一生ここに帰ってくるな」
「ぁあ?自分の家にいて何が悪ぃんだよ?やんのか、ぁ?」
いつもの三郎くんとは違って低い声で挑発するような言葉に不安になって三郎くんの裾をくいくいと引っ張った
「さ、三郎くん…」
三郎くんの背中から覗き見るように前を見た。
三郎くんより背の高い、三郎くんと同じオッドアイの目をした人が立っていた。
「あ…??」
その人は俺を見て目を細めた。少し怖くて三郎くんの裾をぎゅっと握らせてもらった。
その人は俺を見て、それから三郎くんを見てニヤと笑った。
「はっ、三郎お前友達出来たのかよ!」
「二郎には関係ないだろ。」
「おーい、お前ら何騒いでんだよ。ん…?客か?」
さらに奥からまた三郎くんと同じオッドアイの人が出てきた。
「一兄!」「兄ちゃん!」
取り敢えずここで挨拶くらいしておかないと、と思って三郎くんの後ろから出た。
「あっ、なまえっ」
「初めまして…三郎くんの友達のみょうじなまえです…。」
「おっ、三郎のダチか!珍しいな三郎が連れてくるなんて!今までなかっただろ」
「い、一兄…っ。その話はしないでくださいっ」
「すまんすまん。俺は三郎の兄貴で一郎、こっちが次男の二郎、よろしくな」
そう言って三郎くんのお兄さんの一郎さんが俺の頭をポンと撫でた。
「よ、よろしくお願いします…」
まさかあのThe Dirty Dawgのメンバーの一人が三郎くんのお兄さんだなんて…。
ドキドキしながら俺の頭を撫でた一郎さんを見上げた。
「なまえ!行くよ!」
そんな俺を見て、三郎くんが俺の腕を掴んだ。
「あっ、」
「一兄、僕はなまえと部屋で過ごすので…、二郎、お前は外に出ておけよ。なまえが怖がるだろ。」
「はぁ?」
三郎くんに凄んだ2番目のお兄さん二郎さんは池袋で有名な不良で俺も話には聞いたことがある。
実際に本人を前にして見ると身長も高くて凄んだところを見ると怖い。
ビク、とした俺は二郎さんの色違いの瞳と目が合ってしまった。
「…、まぁゆっくりしてけよ」
二郎さんは眉間に皺を寄せていた顔をゆるませて俺の頭を一郎さんみたいにぽすりと手を置いてから玄関に向かって行った。
噛み殺されるかのような表情だったけど、戻ったあとは普通の友達のお兄ちゃん、という感じだった。意外だなと視線を奪われていたところで三郎くんが俺の腕を引いた。
「早く。」
「う、うん」
三郎くんの部屋に入ると整った綺麗な部屋でここで毎日勉強や音楽聞いてるんだと思うと部屋に入れたことが少し嬉しい。
「…三郎くんのお兄さん、2人ともすごい人達だね」
「……二郎はすごくないけど一兄は世界で一番尊敬してる。」
「…ふふっ、さっき見てて三郎くんがお兄さんたちのことすごく好きなのわかったよ」
「…引いただろ。」
「え?なんで?」
「一兄には全然違う態度だし、二郎とはああやって喧嘩ばっかりしてるし…俺がこんな奴だって知って…。」
「そんなことないよ!そんな三郎くんも三郎くんで、こんなダメな俺にも付き合ってくれるくらい優しいし、…三郎くんはお兄さんたちに俺の事なんか話したくないんだろうなって思ってたから連れてきてくれて嬉しかったんだ…。」
「…僕がなまえを連れてきたくなかったのは…一兄たち見て好きになっちゃったら困る…から。」
「え…?」
「…一兄も二郎もかっこいいだろ…。なまえが一兄たちを見て好きになったら…って考えたら連れてきたくなかった…」
三郎くんはそんなこと思ってたんだ…。確かにかっこいいお兄さんたちだった。でも。
「三郎くん、俺は三郎くんが好きだよ。ボードゲームが得意なところも、何だかんだ言って優しいところも…好きだよ…。気持ち悪いかな…」
二人でベッドにもたれ掛かるように床に座っている。三郎くんに好きだと伝えた恥ずかしさに床に置いていた手をきゅっと握りしめた。
「…っなまえのくせに生意気。」
ちらりと三郎くんを見ると耳がほんのり赤くなっていて俺も伝染したいにかああ、と顔が赤くなった。
「ご、ごめん」
ぱっと下を見て俯くと床に置いていた俺の手を隣から伸びてきた手がそっと握った。
びっくりして三郎くんを見ると三郎くんは真っ直ぐ前を見たまま唇を尖らせていた。
「…僕以外を好きになったら許さないから…」
「……っ、ふふっ、うん」
俺には充分すぎる言葉で自然と笑みが零れた。
「…笑うなよ。」
むぅとした顔なんてきっとクラスの皆は見たことないだろう。
繋がれた手は温かくてこれ以上ないくらい幸せで甘かい時間だった。
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