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「バレンタイン一色ですねぇ…」

入間さんとパトロールに出かけると世間はバレンタインデーということでチョコやハートが様々なところで目に付いた。

「浮き足立ってる今こそ私たちは気が抜けませんからね」

「そうっすね…!でも入間さん今年も女性陣からのチョコすごかったじゃないですか」

入間さんは朝からヨコハマ署の女性警官や事務の女性からラッピングされたものを手渡されていた。

「あぁ…1人で食せる量じゃありませんが…」

「さすが入間さん…モテる男は違う…俺なんか清掃のおばちゃんからもらったチ〇ルチョコですよ?」

「なまえくんは心配しなくても愛情たっぷりのチョコがもらえるでしょう」

「え…?いやいや俺人生の中でバレンタインのチョコとか義理しかもらったことないですからね?」

全否定する俺の隣で意味深な笑みを浮かべる入間さんに俺はそれがどういう意味なのか理解できないまま車を走らせた。

パトロールが終わって署に戻りデスクワークを終わらせるとあっという間に終わる時間になった。

明らかにプレゼントされた箱が溢れそうな袋を持って帰る入間さんに声をかけられて俺もリュックを手に取った。

「それじゃなまえくん明日の出勤に支障のない程度にしてくださいね。」

「……えっ?何がですか?」

「彼の体力は無尽蔵ですからねぇ」

「えっ?えっ?」

「ではお先に。」

「えっ…」

なに?明日の出勤に支障のないように?えっ…?どういう意味…?

俺の頭の中のハテナが消えない内に入間さんは帰っていった。

「え…何だったんだろう…」

今日の入間さんは意味深なことばかり言う…。思い返してもピンとくるものがない俺は首を傾げながらリュックを背負って駐輪場に向かった。

自転車に乗ってアパートまでの道のりを走る。

冷たい風が顔にぶつかって鼻や頬が冷えた。途中コンビニでホットドリンクを買って数口飲んだあとリュックにいれてまた自転車に跨る。

「うー…さむ…」

コンビニの窓には大きくバレンタインデーの広告が貼られていた。陳列されている商品もチョコばっかりだった。

「バレンタインかぁ…」

俺には全く縁のないイベントだ。早く帰って鍋でも食べて暖まりたい。

寒いけど強く漕いで急いでアパートに帰った。自転車を置いて自分の部屋に向かう。

ポケットの中から鍵は出さずにドアノブに手をかけると想像通り玄関の扉はドアノブをひねるだけで空いた。

「帰りましたー」

声をかけると迷彩服に身を包んだ理鶯さんが出てきた。

「なまえ、待っていた。」

そう…。理鶯さんのテントは今も俺の部屋の中にあってそのテントで寝泊まりをしている。

たまに森に帰るけど俺の部屋にいることも多い…。
俺の見立てでは最近寒いから部屋の中が居心地良いのかな…とか思ったりするけど理鶯さんなら冬でも夏でも関係なく外で生きていけるからやっぱりそれはないだろうな…。

「待ってた…?何かありました?」

「…今日はバレンタインだ」

「そうですねぇ。外はどこもバレンタイン一色ですよ。」

ダウンを脱いでハンガーにかけた後リュックを床に置く。理鶯さんは仁王立ちしたまま俺を真っ直ぐ見た。手を後ろにしたまま立っているから俺は首を傾げた。

「…理鶯さん?」

「バレンタインとは愛を伝える日と決まっている」

「…うん、まあ」

「これは小官からなまえへの気持ちだ。受け取って欲しい。」

ぶわりと甘い匂いが部屋に溢れた。

理鶯さんの大きな体の後ろから出てきたのは真っ赤なバラの花束だった。

「えっ…?」

目の前に出された大きな花束に俺は目を見開くことしかできない。

「こ、これは…」

「小官の気持ちだ。あと…これもある。」

さらに理鶯さんが出してきたのはラッピングされた箱だった。

「日本では愛する人にチョコを渡すと聞いた。小官はこの日のためにカカオ豆から作った。」

カッ、カカオ豆えぇっ?!
はっ?!理鶯さん何者?!ショコラティエかっ?!

バラの花束とチョコを差し出されて俺は開いた口が塞がらない。
ていうかまず愛する人にチョコを渡すって…。いや、俺理鶯さんに愛されてるのか…?えっ…?

気に入られてるなぁ、っていうのは感じていたけどまさかのほんとにLoveの方?

「えっと…」

「受け取ってくれないか?」

俺の目の前で跪く理鶯さんに1歩後ずさった。
いやいや、そこまでされたら無下にはできない。だって理鶯さんの作る弁当やご飯はまじで美味しいし…俺の胃袋は完全に掴まれているため断るには気が引けた。

「あの…じゃあ…ありがたくいただきます…。」

そっと理鶯さんからバラの花束とチョコを受け取った。理鶯さんの嬉しそうな顔が眩しい。

「ありがとう。」

「いえ、こちらこそ…チョコもお花もいただいて…。初めてです…。こんなちゃんとしたチョコもらったことなくて…あ、ほら今日だって女性にもらったのはこんな小さなチョコで。」

へらっと笑ってリュックから取り出したチョコを自虐的に理鶯さんに見せるとカチャリと音が部屋に響いた。

ん…?と思って理鶯さんを見るとライフルを俺の持つチ〇ルチョコに向けている。

「ちょっ、ちょっ、待って!理鶯さん?!打たないで?!」

目を細めてスコープを覗きながら今にも引き金をひきそうな理鶯さんに全力で止めにかかった。

「敵だ。敵からもらったものは毒が入ってるかもしれない。」

いやいや、チ〇ルチョコはそんな物騒なものじゃないからね?!まるで親の仇を見るような目で小さなチ〇ルチョコを睨みつける理鶯さんを宥めてライフルを没収した。

「これはそんな危ないチョコじゃないですからね!…そ、それより理鶯さんからこんなに貰ったんだしお返し!ホワイトデーのお返し何がいいですかねーっ?」

話題をそらそうと理鶯さんにお返しの話を振る。

「お返しは不要だ。小官はなまえで良い」

「…んー…えーっと…ははは…」

入間さん助けてください。俺は理鶯さんが何を言っているか分かりませんけど!

「と、とりあえず俺、お腹空いたから理鶯さんが作ったチョコ食べたいな〜…。あ、理鶯さんも一緒に食べましょうよ。」

「大丈夫だ。小官はなまえを食べる。料理は得意だ」

上機嫌に頷く理鶯さんに俺は帰り際入間さんが言っていた言葉の意味を分かりそうな気がして理鶯さんお手製チョコを片手に必死に思考を停止させた。

このチョコを食べたら俺の何かが失われそうな気がするのは俺だろうか…。


2019.02.14
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