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(宮 侑)

最近、なまえが調子に乗っている。

買い出しに2人で出かけた日、挑発するような目で見てきたなまえの顔が忘れられない。

口角を上げて、こちらの意を分かったように煽るあの顔。

あれは何回か見た事がある。自転車に乗っている時やスポーツテストで持久走の競走をした時。

あの顔…思い出しただけでも不愉快だ。
不愉快なのに、また見たいと思う自分も一緒にいて相反する気持ちにモヤモヤとしている。

あの表情…。ムカつくけど、腹立たしいけど…なんやクセになんねん…ックソ!

ギリギリと歯を食いしばっていると隣になまえが来た。


月1回早朝、寮生で定期的な寮周辺の清掃活動をしている最中だ。
ゴミ袋を手にしたなまえが、俺の手にある火バサミを指差す。

「なあ〜火バサミ貸して」
「嫌や」

条件反射的に拒否する。
今までは俺の回答に困った顔や拗ねた顔が返ってきていたものだから、その顔を内心楽しんでいたのに、今は少し考え込んだ後、顔を上げた。

「…ふーん。じゃ、いいや。治んとこ行こ」

は??

俺の隣から離れようとするなまえに咄嗟に口を開いた。

「……っ!ちょお待ち」
「…なに?」
「…ん!」

何だか非常に納得いかないが治のところに行くぐらいなら、と手にある火バサミを突き出す。
目の前に差し出された火バサミになまえの唇がゆるりと弧を描いた。

クッソ腹立つ。なんやこの誘導されとる感じ。

圧倒的な不利感に悔しくて仕方がない。
嬉しそうに俺から火バサミを受け取るなまえを睨む。

分かっとってやっとるやろコイツ…!!

「さんきゅっ」

あー、まじで調子ええやっちゃな。
苛立つ気持ちのまま、そこらへんの雑草を掴み、ぶち抜いた。




***



バレーの練習を終えて男子寮に帰ってきた俺はいつものように食堂で晩御飯を前に手を合わせた。

「今日のオムレツも美味いわぁ…!」

今日の献立はオムレツにチキンライスがメインで洋風だ。
治が幸せそうに食う横で角名がなまえに声をかけた。

「なまえ、ケチャップ取って」
「ほい」

角名がオムレツにケチャップをかけた後、俺も受け取り自分のオムレツにかける。
なまえのオムレツを見ると、まだケチャップはかかってない。

「かけたるで」
「ん、ありがと」

ニヤリと笑ってケチャップを押し出す。

「ストップ」
「……」
「おいおいおいストーーップ!!かけすぎ!真っ赤だろ!」

ギャンギャン騒ぐなまえに喉を鳴らして笑う。

そうそう、これやねん。
なまえは俺にイジられとったらええねん。

ケチャップの味しかしないと嘆くなまえに飯が進む。あー、美味しい。


満足して晩御飯を食べた後は風呂に直行した。
あとは寝るだけの状態にしてなまえの部屋に向かう。

部屋の中ではなまえがテレビゲームをしていた。

隣に座ってなまえのゲームスキルを眺める。相変わらずステルスゲームは上手い。

「明日何の日か分かっとるよな?」
「ん?明日?」
「忘れたとは言わせへんで」

なまえがカレンダーに目をやった。
「おっ誕生日!侑と、治の!」

おい、絶対何の日か分かってへんかったやろ。

「明日、部活終わるの待っといて」
「明日?…えーどうしよっかな」
「は?待っとく以外の選択肢はないねんぞ」

俺の強制的な言葉になまえが考えるように首を傾げた。

「三分達と帰りどっか行こうかなーって思ってて
…」
「はあ??」
「まぁ、でも侑がどうしてもって言うなら、待ってあげてもいいけどな」

また、あの表情。自分が有利に立ってますといいたげなその顔にピキピキと血管が収縮する。

「侑がどうしてもって言うなら、優先するけど」

侑がお願いするならな、とぬかす。

あ、無理。もう我慢でけへん。

2人きりのこの場で仕掛けてきたことを後悔しろよ、となまえを見下ろす。

「……なまえクン、なんや最近調子ええなあ?」

俺の反応になまえが空気を読んだのか、笑顔のまま固まった。察したなまえは俺から目を逸らして少し距離を取ってきた。

「いや…調子は可もなく不可もなく…ってところですけど…」

ずい、となまえに近づくと肩が揺れた。笑顔で話しかける。

「調子、乗っとるよな?」
「…なんの事だかさっぱり…」
「ん?分かっとんねやろ??」
「……、」
にっこり笑ってやるとなまえもヘラりと笑った。その笑いは一時しのぎのものにしか過ぎない。

「なあ、楽しい?」
「…何が…てか近い…」

また俺から距離を取ろうとするものだから、すぐに脇腹を鷲掴みにしてやった。

「ぎゃっ!」

急所を掴まれたなまえがコントローラーを投げ出して床に崩れる。
こうなればこっちのものだ。

今になって俺に仕掛けたことを後悔しているだろう。

「調子乗って楽しいかもしれへんけどなぁ」
「乗ってないって!てか、手ぇ離せっ」
「倍返しになるけど、ええん?」
「………」
「煽った分だけ倍返ししたるけど、ええんよな?なぁ?」
「………」

後悔してますと言わんばかりの苦悶の表情に笑みが漏れる。

「謝ったら許してやらんこともないで」

優しく言ってやるとなまえがピクリと動いた。
鷲掴みされた脇腹に手をかけてきた。

「……あ、謝るのはおかしいじゃん…」
俺悪くないし、というなまえにムカついて指を動かした。

「ぅあっ!!」
「調子に乗ってごめんなさい、て。ほら」

もう一度動かす。

「ぎゃっ!!」
ビクリと跳ねるなまえを鼻で笑う。

「…っ、…くそっ、」
「ほら、早く言うて」
「…っ、、調子に乗って…!ごめんなさ…っ」

悔しそうに俺を見上げるなまえに加虐心が生まれる。

「明日はちゃあんと待っとけよ??」
息絶え絶えのなまえはコクコクと頷いた。

「約束破ったら、分かっとるよな」
必死で頭を動かすなまえに満足して解放してやると、ジャイアンめ…と暴言を吐くので手を伸ばすとハムスターみたいに部屋の隅に逃げていった。

弱いくせに虚勢を張るなまえが、面白くてニヤける。

24時まで残り2時間もない。
それから俺はなまえの部屋に日付が変わるまで居た。

0時になった瞬間、なまえを見るとベッドでコントローラーを持ったまま寝ていた。

「10月5日になった!なまえ!」
寝ているなまえを揺すって起こす。
「ん…ぁ…」
目が開ききっていないなまえに10月5日に日付が変わったことを告げる。

「ん…たんじょーび、おめでとう…」

一番真っ先に聞いたお祝いの言葉に満足して俺は部屋に戻った。

治はすでに寝ていて俺も布団の中に入るとあっという間に夢の世界に落ちていった。



***


10月5日、誕生日。
18歳になった俺と治は朝起きて互いに今日は平和に過ごそうと約束した。

「ついに18や。大人の階段登ったで」
「今日は喧嘩なしや」
「サムが喧嘩売ってこおへかったらええ話や」
「あ?何で俺が悪い前提なんや」

早速始まりそうな雰囲気になりながらもお互い自制する。

「今日なまえも一緒に帰るで」
「ほーん、なまえ練習終わるまで待っとくん?」
「うん、ちゅうか俺の誕生日やし待つ選択肢しかないし」

真顔で言えば治が呆れたような目で見てきた。

「なまえに同情するわ」
「あ?喧嘩売っとんか?」

一触即発の雰囲気になりながらも、食堂で朝ご飯を食べた後、角名と一緒に出発した。

朝練後に教室に入るとなまえはすでに登校していて、俺を見ると手を上げて「おめでとー」と言ってきた。

「ありがとう」
お礼を言うとなまえは目を見開いた。

「なんや」
「いや、侑のことだから 俺のこと祝って当たり前やろ、祝えみたいなこと言うかと思った」

俺のイメージどんだけ悪いねん。
そんな酷い奴ちゃうし、と言うとなまえがまた目を見開いた。

「無自覚、怖ぁ」
「うっさい。今日の放課後忘れなよ」
「分かってるって。待ってる」

求めていた返事に満足してヨシ、と頷いていると俺の席の前に他組の女子が歩いてきた。

「侑くん!誕生日おめでとう!」
作ったんだけどよかったら食べて、と女子から渡された小さな小包。
お礼を言って受け取ると顔を赤くして帰っていく。

「はー、何でジャイアン侑がモテるのか分かんねぇー理解不能ー」
そんなことを後ろの席で言うなまえに、とりあえず頬を掴んで黙らせておいた。



***


夕方、練習が終わり陽が落ち始めた頃。
着替え終わった俺はロッカーの扉を閉めた。


「ツム、着替えんの早すぎやろ。早替えか?」

それなら文化祭のステージ、早替え担当やれや。と言ってきた治に、はよせぇと一喝する。

「俺、先出とくわ。角名、銀、後で合流な」
「りょーかいー」
「「お疲れ様ですっ!」」
後輩の挨拶に返事をして部室を早々に後にした俺は待っているなまえの元へと向かった。

携帯に入っていたメッセージでは図書室にいると言っていた。
一応、終わったと送信したが既読がないということは寝ている可能性が高い。

図書室にたどり着いて入ると机に突っ伏したなまえの背中が見えた。

図書室に残っているのはなまえだけのようだ。

静かに近づいてなまえの横に立つ。

机の上には課題途中だったのか広げたノートと問題集が散乱していた。

ノートにはミミズのような文字にひょろひょろとした線が走っている。
なまえは手の甲に頬をつけたまま気持ちよさそうに寝ていた。

涎垂れてないか?大丈夫かこいつ?と覗き込むとちゃんと口は閉じていた。

面白くて寝落ちしているなまえを携帯のカメラに収めた。
今度これで揺すってやろうと悪いことを考える。

「………」

人差し指をなまえの頬にふに、と差した。

「ん…」
つんつんしているとなまえの目が開く。
「…ぁ?」
「もう終わったで」
「まじ?ぁー…よく寝た…」

両手を広げて伸びをしたあと、机の上に散らばるノートやらペンケースやらを黒いリュックの中に入れていく。

なまえのリュックについているバレーボールキャラクターのキーホルダーを見て俺があげたやつ、と優越感に浸る。

自転車部のなまえがバレーのものを付けるなんて普通有り得ないだろう。
無関係なそのキーホルダーをつけていることが、首輪みたいに俺のものであるかのように錯覚させる。

まだ、俺のもんじゃないけど。
いつになったらコイツは落ちてくるんだろうか。
俺を煽ってくるということは分かっているはず。
俺が、何を求めているのか。

「はよ行くで」
「ん、」

なまえと図書室を後にして校舎の外に向かう。
治達と合流して男子寮に帰る前に学校近くの商店街を目指した。

誕生日の俺達が今日は食べたいものを食べようと買い食いするためだ。
誕生日ということで角名、銀、なまえの3人が奢ってくれるらしい。

治はたこ焼き、俺は豚まんを食べたかった。

「サム何にする?いっちゃん高いやつにしよ」
「おい、治ここぞとばかりにトッピングつけまくんなよ」
「デラックスにせえへん?DXやって、DX。何か凄いの出てきそうやん」
「俺、このいっちゃん高い豚まんにしよ〜♪」

奢ってくれたたこ焼きと豚まんを頬張る俺達の横で、角名となまえ、銀はコロッケを齧っていた。

「「「「うまー」」」」

5人で食べ歩きをしながら商店街を出た。
銀と別れてバスに乗り男子寮に帰る前に途中下車してドラッグストアに寄る。

お菓子やジュースをカゴに入れている治を放置してコスメ売り場のコーナーにふらりと足を運んだ。

「侑。何見てんの」
しゃがみ込んで商品を手に取る俺になまえが近寄ってきた。

「爪ヤスリ」
「あー、いつもやってんな」
なまえが俺の手元を覗き込んでくる。

「何か違いがあるのか?」
「んー、スポーツ用もあんねんけどなぁ、種類むっちゃあるし気になるやん」
「ふーん。どれ気になってんだ?」
「これ」
「へえ。てかDKがドラストのコスメ売り場で真剣に爪ヤスリを見比べる図、えぐいな」

図体デカすぎて尚更ギャップがある、とケタケタ笑うなまえ。
喧しいわ、と小突いていると治から「払うで」と声がかかった。また今度買ってみるかと、商品を元に戻して治の後を追った。


各自で日用品を購入して帰路に着く。
角名となまえが文化祭の準備について話す内容を聞いていると寮についた。

食堂で晩御飯を食べた時、なまえが小さなカットケーキを出してきた。

「スーパーで買ったやっすいやつだけど食べる?」
「「食べるっ」」

あ、その前に。となまえが背中に回していた手を前に出した。

パンッ

破裂音に火薬の匂いが鼻を掠めた。なまえの手にはクラッカー。俺と治にカラフルな紙テープが降ってくる。

「誕生日おめでとー!」

紙片が舞う中、俺と治は目を見合わせる。意表を突かれた俺達に歯を見せて笑うなまえとちゃっかり動画を撮っている角名。
なまえがクラッカーは角名が用意したんだ、と言う。

「「ありがとう」」

笑いが込み上げてきて治と一緒に笑う。
なまえが買ってきたスーパーのケーキはいつもより数倍美味しく感じた。



食べ終わった後は、風呂から上がってなまえの部屋に入り浸る。

月バリを読んでいるとなまえが思い出したようにリュックを漁っていた。

「侑」
「なん?」
「誕プレ」

なまえの手には俺がドラストで迷っていた爪ヤスリがあった。

「…っ!!!」
「迷ってたからとりあえず買ってみた」

女子みたいなラッピングも何もない裸のプレゼントをリュックから取り出して渡してくるところに、案外適当なところがあるなまえらしさを感じる。

「あ、りがとう…」

まさかそんな贈り物があるとは思わなくて嬉しさと驚きで瞬きをした。

「あ、治にはないから、俺からってのは内緒な」

なっ!サムにはなくて、俺だけ!!?
俺だけ!

ナマエの言葉に今日が誕生日でよかった、と訳の分からない思考に至る。

「〜〜〜っ!」
「侑?」

なんやそれ!最近調子乗っとったかと思えば、こんなんしてくるし!

何なん?!俺のこと遊んどるつもりか?!これはもう好きっちゅうことやろ?!


あ〜〜っ、……惚れてまうやろ!!
くっそ!!あかん!やっぱ好きや…!

頭を抱え込みたくなるほどに悶絶させるナマエを恨む。

「あ、すまん。要らなかったら誰か後輩セッターとかあげるなり「要る!使う!!」お、おう…」

誰があげるか、後輩なんかに!
俺がもろたんやで。誰にもあげんわ!

手の中にあるなまえがくれた爪ヤスリを見下ろす。一番嬉しいプレゼントだ。


あかん、俺ばっかり好きになっとるやん……。

もう一度もらった爪ヤスリを見る。

あぁぁー…せやけど、やっぱ好きや…。

悔しいほどに翻弄してくるなまえを恨めしく思う。

「ん?」

キョトンとした顔をして、何も知らないようななまえを前に、絶対にコイツを落としたると強く決めた。

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