04

家の最寄り駅で、改札から出てくる人達を眺める。周りから頭一つ分抜き出た金髪を見つけて声をかけた。

「侑〜」

目が合い、手を振って位置を知らせる。肩にスポーツバッグをかけた侑が近づいてきた。上から下まで、よそ行きの格好で決めている侑に眉を上げる。

「家に来るだけなのに、何でそんなに気合い入ってんだよ」

俺は適当にスポーツ用のトレーニングウェアを着て駅へ来たのに、侑は街歩きの格好だ。

「どこが?いつもと変らんやろ」
「いやいや、どう考えてもそれは街歩きスタイルだろ」

自分だけ何かいい感じな雰囲気出してるのずるい、と少し妬ましくなったが俺が気合いを入れたところで侑との差は歴然だなと考えるだけ無駄だと悟った。

「こっち、」

侑を誘導して自分の家までの道のりを歩く。

「今朝、治に車で送ってもらったんだろ?さっき治から俺が駅まで送ったった、てメッセージ来た」
「サムの運転、ブレーキ甘いし、死ぬかと思って途中で俺が変わったんやけど」
「ふぅん?」
「アイツに任せたらあかん思て、運転変わったのに途中で『ツムの運転怖すぎて信用ならん、スピード出しすぎや。俺はまだ死にたない。やることぎょうさん残ってんねん』とか言い出してん」

「車内の言い合いが頭に浮かぶ…」
「ほんで、またサムに変わって駅のロータリーで降ろしてもろた」

多分、双子の言い分はお互い様なんだろうな、と口元を緩ませながら歩を進める。

「なまえんち、駅から近いんやな」
「うん、仕事行きやすいように近くを選んだらしい」
「なぁ、俺、変やない?!」

侑が金髪をくしゃりと触って整えている。どうや?と俺を見てきた。
どうや、と言われましても…

「別に何も変じゃないけど?」
「印象って大事やん、かっこええ?普段の3割増くらいかっこええよな?」

本気で聞いてくる侑に呆れて笑ってしまう。ここで出してくる自信満々なところが相変わらずだ。

「ふっ、誰も見ないだろ、うちの母さんくらいじゃん」
「せやから、ちゃんとバッチリ決めとんやろがっ。なまえの最初の印象は最悪やったからな、俺はあれで人の印象っちゅうんは最初が肝心なんや、て学んだ」

神妙な顔で頷く侑に昔の話を掘り出してくるな、と目で訴える。

「最悪って何だよ、俺は普通に入寮の時から居たし特に悪目立ちしてなかっただろ?」
「目立つどころか存在薄すぎて気づかんかったし、いっちゃん最初の印象『いきなり殺人鬼みたいな顔で睨んできたヤツ』、やったもん」
「はぁぁっ?!善良な寮生だった俺をそんな見方で…っ」

やいのやいの言っているとマンションに到着してオートロックを解除した。

「はぁぁ、何や緊張する…」

侑の表情が珍しく堅くなっていて、面白くて隣でケラケラと笑う。自分の玄関にたどり着いて、ドアノブに手をかけ、引いた。

「ただいまぁー」
「おかえり〜」

部屋の奥から母親の声が返ってきた。
玄関先に置いてあるロードバイク専用のディスプレイラックには自分が使っている自転車を掛けている。

「ロードバイク、ここに置いとんや」
「うん、室内保管」

侑を連れて廊下を歩きリビングに顔を出す。母親の姿を探してソファにでも座っているかと思いきや、キッチンに立っていた。

「母さん、侑連れてきたー」
「あら、侑くん!いらっしゃい〜」

今丁度お昼ご飯作ってるところなのよ、と言いながら侑に笑いかけた。

「お邪魔シマス…!」

なぜかカチカチの侑に、我慢ならず隣で噴き出した。
何でそんなに緊張してんだよっ。

「はぁっ、背高い!かっこいい!すごい、うちの中が一気に華やかになった!」
「そ、そうっすか…」
「いや、母さんそれは言い過ぎ。ガタイの良い奴が家に来て圧迫感あるだけだから」

幅とるんだよな、とニヤニヤ笑う俺を侑がじろりと睨んできた。いつもならシメてくるが手を出さないのはうちの母親がいるからだろう。

「これ、うちのおかんから…デス」
「えっ?!そんな気遣ってもらって悪いわぁっ。なまえが前に泊まりに行った時もご馳走してもらって…」

ありがとう、と手土産を受け取る母親は侑を見上げて、感嘆の息を漏らした。

「はぁ…目の保養…うちのお父さんが家にいるより侑くんが居てくれた方が癒しになるわね、ふふふっ」

冗談を言う母親に「父さんが可哀想すぎる」とツッコミを入れておく。

「侑くん、彼女とか大丈夫なの?!なまえはいつも暇人だから良いけど、予定があったんじゃない?」
「いや、俺も得になんも予定なくて…」

『彼女』を強調して含み笑いで話す母親に嫌な予感がしてくる。

「なまえなんかより女の子優先してあげてね?侑くんはかなりモテるでしょ?なまえは恋愛の『れ』の字も感じさせないから…。…ねぇ、侑くん、うちの子、女の子の影あったりした?贅沢は言わないから、いつかちゃんと連れてきてくれたらねぇ」

なまえに相手ができるか心配なのよ。と頬に手を当てて困り顔で、侑に聞く母親を止めに入る。

「もうっ、母さん!いいから!」

話はそこまでっ余計なお世話だっ!と無理やり遮り侑の手から荷物を奪った。

「部屋に荷物、置いてくる!」
「はいはい、照れちゃって」
「ほんとに…っ。侑、こっち!」

廊下を歩いて自分の部屋のドアを開けながら、母親の会話を思い返して、どこの親も同じなんだな、と少し前のことを思い出していた。

前に侑のお母さんとの会話で『侑のことを分かってくれる女の子ができたらいいのに』と聞いた時、侑が好きだった俺は胸を抉られるような思いをした。

悪意のないその言葉に、勝手に沈んだわけだが自分の母親も同じようなことを侑に言っているところを目の前で見て、周りの思うことなんてそんなもんだよなと考えさせられる。
部屋の中に入り、侑に向き直った。

「ごめん」
「何が?」
「母さんが言ったこと。…彼女、とか嫌な気持ちにさせたかな、って」
「別に?誰が何言おうと、何思おうと俺に関係あらへんし」

サラッとそう言ってのける強さを持っているから、コイツすごいなと思ってしまうのだ。今までも、そして今も。侑は、強い。

何のダメージも受けていない侑を見て、人の言葉に反応して一喜一憂している自分を思い返した。確かに、周りに俺達の関係を主張して理解しろと言ってるわけでもないし、世間一般では母親みたいな考えをする人の方が多い。

いちいち気にしたって仕方の無いことだよな…

吹っ切れたような気になり、顔を上げて侑を見る。ただほんの少しだけ、うちの母親が申し訳ないという罪悪感は拭えず、気持ちの弔いとして勇気を出して伝えてみる。

「…母さんが彼女とか何とか言ってたけど、俺は…侑のことちゃんと好きだから」

言ってる途中で恥ずかしくなって目を逸らす。

「バレーしてる侑はかっこいいし、真っ直ぐブレずに突き進んでくところに惚れて「ちょっ、待て待て待てっ!!」

いきなり口を手で塞がれた。侑を見上げると顔を赤くしている。恥ずかしいのか照れているのか少し怒ったような顔で見下ろされた。

「ちょお待ちっ!いきなり何や?!殺す気か?!」

キレ気味な侑に軽く手を上げて、否定する。

「え?いや不安にさせたかな、て」
「意味わからん…っ、ここで漢気出してくんなや…」

口元に手をやり、恥ずかしさを隠すように眉を寄せる侑を見ていると面白くてさらにからかいたくなる。

「照れんなよ侑クン」
「照れてへんし、アホ」

「皆かっこいいんだけど…俺には侑がコートの中で一番かっこよく見えてるぞ」

一歩、近づいて侑の顔を覗き込みながら言ってみた。目と目があった瞬間、侑が瞬きをして両手で顔を隠した。

「お、まえ…っ!覚えとけよ!調子乗んな!絶対泣かしたるっ」

侑の反応が面白すぎてキャッキャと笑う俺を睨んでくるが全然怖くもなんともない。

「侑クン、可愛いー」
「アホ!ボケナス!アンポンタンッ!」

はいはい、ご飯食べるぞと笑いながら、ガルルと唸っている侑に手招きをした。



▽▽▽

(宮 侑)

なまえの家に遊びに来たのは初めてだ。なまえの部屋はどんな感じなんやろ、とか住んでいる街の雰囲気とか気になって朝からソワソワしていた。

なまえに関係することは自分も知りたい、と思うのは恋人なら当たり前なはず。

駅に着いた時から、中学でここに引っ越してきたんやなぁとなまえの過去をなぞるように見ていた。

なまえのお母さんはよく笑った。冗談も多く、お茶目という言葉が一番近いかもしれない。

外面では大人しく愛想の良いなまえも、仲間うちだとケラケラと笑い調子が良いことも多い。そこを受け継いどるんかもな、と人知れず考察する。

そんな中で、いきなり漢気をかましてくるなまえに心臓停止寸前の大ダメージを受けながら、なまえの部屋からリビングに戻った。

「「いただきます」」
「どうぞ〜」

テーブルについてなまえのお母さんが作った料理に手を合わせる。目の前には手の込んだ料理が並べられていた。

「ん!美味いッス!」
「ありがとう、嬉しいわぁ」
「やば、いつもと全然違うし」
「この間ね、3階の〇〇さんと料理教室に行ってみたのよ、ちょっと試してみたくって」
「料理教室…へぇー」

適当に頷くなまえに母親の前だとこんな感じなのかと新鮮味を覚える。

「なまえも料理くらいできるようにならないと、この先大変よ?」
「俺もそう思いマスッ」

全力で賛同する俺に、なまえはじとりと面白くなさそうに見てきた。

「侑、お前、人のこと言えないからな?」
「得手不得手があんねん。よろしく頼むで。(俺はなぁ、栄養と健康を考えたもんがええ!)」

こそりと希望を伝えておくと、信じられないという顔をするから、笑ってしまう。

「そうやってすぐ人にさせようとするっ」
「なまえも料理教室行ったらええんちゃう」
「…じゃ、治に教えてもらおっかな」
「…それはあかん」
「何でだよっ」

いつものように言い合っているとなまえのお母さんがクスクスと笑った。

「楽しそうねぇ」
「今の楽しんでる場面じゃないからっ」
「侑くん、何日でも居てくれていいからね?なまえにこんなかっこいい友達がいるなんて…」
「あ、あざっす」

「まぁた言ってる!分かったから!」
「はいはぁい。さてと、私は後ちょっとで出発するから荷造り終わらせるわね。何かあったら呼んで?」
「わかったぁ」

東京の引越し先へ行くというなまえのお母さんは準備のためにリビングを出て行った。

「はぁ母さん、いつもテレビとか見て、あの子可愛いとかかっこいい〜とかすぐ言うから…」

ため息を吐くなまえにお前も大して変わらんぞ、と言いたくなった。

誰でも彼でもすぐにかっこいいとか言って目をキラキラさせるところ、自覚してないんか?
「…確実に遺伝やんけ…」

遺伝というどうしようもできないところに矯正の余地はあるのか。
本心からの羨望と称賛の目を、惜しげも無く向けてくるコイツに、揺らぐ人間がこの先いないとも言いきれない。

ご飯を食べ終わる頃、「なまえ、部屋に来客用の布団、出しておくのよ」と言われたなまえが立ち上がった。

「ちょっと待ってて、部屋に布団出してくる」
「ん、」

一人になったリビングで部屋の中を見渡す。テレビ台の近くに複数の写真立てがあり、近づいてみた。

ハイハイをしている様子や、保育園のお遊戯会なのか、頭にブロッコリーのような被り物をしたなまえが写っていて少しニヤける。

小学校低学年の頃なのか、少し成長したなまえが控えめに笑う写真もある。

中でも目を引く写真は『〇〇湖ジュニアロードレース』というタイトルの下で賞状を手に満面の笑みでピースサインをしているなまえが写っていた。

開催年が書かれていてちょうど小学5年の頃だと知る。嬉しそうに歯を見せて笑うなまえは今の笑顔よりも幼いが、面影は十分に残っている。

はち切れんばかりの笑顔に口元が緩む。やっぱこの笑顔好きやなと思いながら、じっと見ていると背後から声をかけられた。

「一人の写真ばっかりでしょ?あんまり友達と撮ってるところ、なくってねぇ」
「…転校、多かったんすよね?」

「そうなのよ…親の都合でころころ住む場所変えて寂しい思いさせたのもあって、ずっと心配だったんだけど、今は侑くんがなまえと友達になってくれて本当に嬉しいの、ありがとう」

「や、自分は別に…」

「高校も一年生の時は、学校どう?って聞くと『適当にやってる』って素っ気なくてねぇ。寮生だし、仲良い子できなくて楽しくないのかなー、なんて思ってね…。でも二年生になってから自転車部の茶川くん達とは、また違う友達が出来たって、楽しそうにしてたの」

思い出すようにくすりと笑う姿はなまえと似ている。

「自分から輪に入りに行く子じゃないでしょ?基本的に相手の顔色みて距離を取る癖があるから…」

「確かに周りにばっか気ぃ遣うてますけど…見えへんとこで芯は強いし、漢気あるヤツなんで…俺はなまえのそういうとこ好きです。あと、むっちゃオモロいです」

「ふふふっ、なまえは友達に恵まれてるわねぇ。去年の春高の時も、家の中で大騒ぎしながら観戦してたのよ?侑くんが出たら『見た?これ俺の親友!』って」

その言葉にじんわりと胸が温かくなり、素直に嬉しくなる。

「マジ、すか…」
「大好きなのよ、侑くんが」

茶目っ気満載で笑うなまえのお母さんの後ろから声が飛んできた。

「誰が、大好きってぇぇ???」
腰に手を当てたなまえがリビングの入口に立っていた。

「あら、布団出し終わった?じゃあお母さんそろそろ行くわね〜」

なまえの視線をものともせず、床に置いていたキャリーケースを掴む。

「作り置きしてるご飯は冷蔵庫にあるから、温めて食べてね。買い出しは車を使っていいけど、新免マークを忘れないこと!範囲はいつも行くお店まで!わかった?」

「わかってるって」
「最低でも一週間は帰らないから、ちゃんと戸締りして、掃除して、火の元の確認は怠らないこと!わかった?火の用心!」

パチンと手を叩く母親を前に面倒くさそうに肩を竦めるなまえが面白くて肩が震えた。

「はいはい…わかってますぅ」
「侑くん、何もない家だけどゆっくりして行ってね〜!じゃ、いってきまーす」

なまえのお母さんを送り出して、リビングに戻る。
両手を伸ばして「自由だ〜〜っ」と解放的な様子のなまえにさっきの続きを聞いてみた。

「…俺の事、大好きなんや?」
「イイエ?」
「あ?素直になった方がええでなまえクン」

「おま…、母さんが出ていったら、急に態度変えるの何?!さっきのいいこちゃんに戻れ!」

「なんの事ぉ??」
「この猫かぶりっ」
「猫は被ってへんけど、羊の皮なら被っとるかもぉ」
「…いや、被れてないし…常に肉食なの自覚しろ?」

「いいか、身の危険を感じるから俺の半径2m以内に近づくなよ」と言うなまえにケラケラ笑う。

アホやなぁ、誰がそんな言う事聞くと思う?
聞くわけないやん。

「まぁまぁ時間はたっぷりあるし、ゆっくり過ごそ♪」
「……来るなっ、あっ!2m以内!入ってくんな!」

俺を指差して指摘するなまえを簡単に掴まえる。

さあて、ナニして遊ぶ?♪

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