男子寮の日常 (2年ズ+3年生)
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双子と角名、俺を含め4人でキッチンルームのテーブルを囲んでいた。
目の前には日用品の買い出しに行った時にノリで買ったインスタント食品がある。
パッケージには『地獄の辛さ 激辛ソース焼きそば』と印刷されていて、ネットでも辛すぎるとバズるほど世間的に大ウケした商品だ。
侑が面白そうに食品売り場から走って来て「これ試そ!激辛やって!」と嬉々として買い物カゴに入れ込んできたのだ。
箸を持つ俺と治をじっと目の前で見守る侑、とその隣で面白そうに携帯を構える角名。
「…覚悟はいいか?治…」
「……ぐ…匂いがもうすでにあかんやろっ!」
じゃんけんをして負けた人が生贄になる、というルールで実験台に決まってしまった俺と治。
「あかん、匂いから辛さが伝わってくる…」
「目が…目がぁ……っ」
中々食べようとしない俺たちに侑が机を叩き始める。
「はよ食べてみいなっ!どんな辛さか気になるやろ!はよう!はよう!」
治は他人事のように早く食べろと急かす侑を睨んだ。
「ほんならツムお前が食え!優しい俺が譲ったるわ」
「俺はええわ。遠慮する」
「あぁ?!」
椅子から立ち上がりガンを飛ばす治の服を引っ張り、落ち着けと制する。
「あー…これはやばそう。マジで、やばそう、治、せーの、で食べよ」
赤信号、みんなで渡れば怖くない。
そんな言葉をネットのどこかで見たことがあった。似たような心持ちで危険を感じる世界に飛び込もうとしている。
「よし…いくぞ…」
「なまえ…達者でな…」
「治…生きて会おう…」
箸で激辛ソースの絡まった焼きそば麺をつまみ上げる。ごくりと唾を飲み込んだ。侑と角名は興味津々という顔で俺たちを見ている。
「「せーの…」」
治とお互いに目を合わせ合図の後、麺を口の中に入れた。恐る恐る数回咀嚼してみる。
「…ん?」「…おぉ」
口に広がる麺の甘さに そんなに辛くないかなと思った瞬間、後追いで舌に強烈な痛みが襲ってきた。
「!!!!っっ!ン゙!!?」
口に手を当て立ち上がる俺に対し、治は隣で白目を向いている。侑が俺たちの反応を見てキラキラした目で瞬きした。
「ぶはははははっ!!あかん!そんなに辛いん?!」
「んんんゥゥ!!!?」
辛すぎる!ヤバい!人体の危険を感じる!!
テーブルを叩いて水の入ったコップを手にした。早くこの辛さを洗い流したいと、水を口に含むとその水さえも刺激になって咳き込みそうになった。
「ゴフッ!!」
俺達の必死の悶絶を見て爆笑する侑。角名は眉を下げ笑いを堪えながら携帯で録画している。
「や、ば…っ!!かっら!!!」
「治ヤバいじゃん、生きてんの」
「白目剥いとるわコイツ、おいサムぅ一口で撃沈かぁ?弱い男やなぁ」
侑の言葉に治が生き返ったように咀嚼している。
「お、俺は負けへん…!こんな激辛に…っ、かっらぁぁぁッ!!……やっぱ無理っ!!」
「んぅぅぅ…っっ」
熱々のたこ焼きを食べているかのようにふぅふぅと頬を膨らませる治は空気も刺激になるようで舌を出して痛いと叫んでいる。
あまりの辛さに口を開くことも水を飲むことも出来ず、でも動かせば激痛なのでどうすることも出来ずに口の中が慣れるのを待つしかない。
ああ、でもやっぱり辛いものは辛い!痛い!辛い!!
「角名!見てみ!なまえ泣いとるで!」
「泣くほど辛いんだ」
「んんんんぅっ!!」
生理的な涙が出てくるのは仕方ないだろう。それほどに辛くて痛いんだから!
お前らも食べてみろ!と箸を侑に持たせる。
「大袈裟やんなぁ、2人とも昨日のリアクション芸人のテレビ見て感化されとるだけやろ。あれはヤラセやからな。こんなん余裕で食べられるわ」
俺やったらサムよりも倍食べれるからな、と余裕綽々に箸を持った。
悶絶する俺と治を鼻で笑った後、こんもりと箸で焼きそば麺を掴む。
ああ…その量はヤバいって侑…!致死量だって!
俺が手を伸ばして首を振ると同時に、激辛麺を大きな一口の中に入れ込んだ。
「…ん?なんや普通にいけるや、ん………」
二、三度咀嚼したかと思えば、途端に無表情になる侑。
「侑?」
動きを止めた侑に角名が声をかけた。
「………〜〜〜っ!!辛ア゙ァァァッ!!!!」
後ろに倒れそうなほど頭を振り切りジタバタとする侑に、俺達の辛さが分かったか、と目で訴える。
やっと麺を飲み込んだ俺は何度も水を飲むが舌に残る辛さは一向に消えてくれない。
「うぅぅ辛いっ!ベロ痛いっ」
「ひーーっ!水…水やっ…!!」
侑が悶絶しながら水を求めて俺のコップを掴むから「は、な、せ!俺のコップ!!」と抵抗するも呆気なく奪われて飲み干された。
侑が俺の水を飲み干す中、治も一口目を食べ終わったがげっそりとしている。
「あーーやばい…俺の舌ダメになって一生味覚治らんかと思った……」
一口で十分、と水を何度も口に含みながら、これはあかんとしきりに呟いている。
立ち上がり、空になった侑と俺のコップに水を注いで持ってきてやるも、俺達の倍以上食べた侑はまだ机に伏せてピクピクしていた。
「侑KO負けじゃん、生き残れなかったな」
「あんだけ大口叩いとったん誰やねん。ダッサいわ」
「あんだけ大盛り食べたら、まぁこうなるわな。辛すぎる」
「俺まだベロあかん…」
「俺も…今、痛みしかないっ」
治と2人で角名に視線を向ける。
「……何。俺は食べないからね」
「いや、ここまで来たら角名も食べるべきだろ」
「は?じゃんけんで負けた奴って話だったじゃん」
「角名、男やろ、この激辛を食べてこそ本物の漢や」
「絶対嫌だ」
「角名、考え方を変えるんだよ、この辛さを体感してみるって経験の一つじゃん?何事も経験って言うじゃん?」
「せや、昨日の授業で先生も視点を変えて考えましょう、て言うとったやん。経験値を増やす、て考えんねん」
「何なの2人とも、俺は絶対食べないから。あんな状態になりたくない」
固まったまま動かない侑を指さす角名に、アイツは自滅しただけだから放っておけ、と宥める。
「意外と美味しかったぞ?いけるって」
「そやで、さっきもちょっとピリ辛やなぁって感じやった。余裕や」
「何その手の平返したようなコメント。さっきの反応からして全然説得力ないんだけど」
大丈夫、いけるって、と説得していると侑がむくりと起き上がった。
「……ここまで来たら道連れや…角名ぁ!お前も食べろ!」
「は?絶対やだ」
「俺が食わしたる!」
抵抗する角名に侑が手をかけ、もみ合いはじめた。そんな2人を横目に残りの焼きそばをどう食べようか考えているとキッチンルームに人が入ってきた。高身長の姿を見て声をかける。
「あ、尾白先輩」
「お?お前ら、何してんねん」
寄ってきた尾白先輩に、双子が後ろでごにょごにょと話し始めた。
「何食べとるんや?」
「焼きそば作ったんですよ、激か「アランくん!ええ所に来たなぁ!」
俺の言葉を遮るように侑が割って入ってきた。
「何や侑」
「今なぁ、美味しいて有名な焼きそば食べとったんや!ほんまに美味いし、アランくんも食べてみて!」
治が濃厚ソースがクセになるんよ、と付け加える。2人ともニッコニコのいい笑顔、いやイタズラする時の面白そうな顔だ。
コイツら…尾白先輩を嵌めようとしてる…!
「ほーん、焼きそばかぁ」
「お、尾白先輩!辛いの大丈夫ですか?!」
「なまえ!いらんこと言うなっ」
「結構な辛さですよ?!」
「おお、俺辛いのいけるで、ピリ辛好きや」
ピリ辛とはレベルが違うんですよ尾白先輩!
「ほな、グワッといったって!アランくん!男ならグワッと!」
持ち上げんな侑ぅぅぅっ!
「はい!アランくんここ座って!箸!はい!」
治も用意周到すぎる!
「ほんなら一口貰お」
わざと『地獄の激辛』と書かれた蓋を背に隠す侑はニヤニヤと笑っている。
「(俺は知らないから)」
口パクで関与していないと主張する角名。
「いただきまーす」
椅子に座った尾白先輩は何の疑いも持たず、濃厚な激辛ソース焼きそばを箸で掴み、口の中に入れた。
「うん、ソースが効いてええ…ぁ………」
咀嚼した瞬間、尾白先輩の言葉が止まった。
「「「…………」」」
次の反応を見守る俺達の無言が続く。
「「ア、アランくん…?」」
双子が恐る恐る聞く。
お、尾白先輩…大丈夫か…?
尾白先輩の顔は固まったまま、ごとりと机の上に突っ伏した。
「アアア、アランくんが倒れた!!」
「やばい!!激辛過ぎて意識失っとる!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ始める双子にキッチンルームはさらに賑やかになる。
「どないする!ここで北さんなんか来たらえらいこっちゃやで!」
「呼ぶなツム!その名を呼んだら現れるやろっ」
「ヴォルデモートかよ…」
尾白先輩、と背中にそっと手を添えてみるが反応がない。屍のようだ。
「サムぅ、まずは隠さな!そや、部屋連れてこ!部屋!」
「そうやなっ、角名の部屋連れてこ!」
「はっ?何で俺の部屋?無理 」
「とりあえず北さんに見つからんうちにアランくんを担いで……」
「呼んだ?」
凛とした声に全員がキッチンルームの入口を振り向く。
そこには背筋を真っ直ぐと伸ばした北さんが立っていた。
机に突っ伏した尾白先輩に手をかける双子は目を見開いている。
「ぎぃやあああぁぁぁぁっっ!!」
侑の叫び声が突っ走る。
「ブロック3枚!!」
治の声に双子が尾白先輩を見せまいと北さんとの間に立ちはだかる。壁のように立つ双子が俺の腕を引っ張ってきた。
「うぉ、」
俺もその壁に追加され、3枚ブロックになったようだ。
「侑、騒がしいで。何しとるん?」
「さ、さーせんっした!!何もしてません!今日もええ天気やなぁ、て思うてました!!」
「今日は雨やで」
「はぅぅっっ!!」
北さんが1歩、また1歩と近づいてくる。
「き、北さん!こっち来んといてください!」
「…何で?」
「い、今来たらとんでもない物を見てしまう可能性が…っ」
双子が言い訳苦しく首を振った。ボソボソと会話している内容が聞こえてくる。
「どないすんねんサムッ」
「このままやとバレるのも時間の問題やっ」
「アホ!友達失ったところなんか見せれるか!」
「どうやって隠すか…証拠隠滅…」
「隠す、って何を?」
「「ぴぎゃっ!!」」
双子と俺の目の前に北さんはやってきていた。
真っ直ぐな視線が双子を見上げている。
「何かあったん?」
「「な、何もありません」」
「…角名、何かあったんか?」
「…双子が…」
言い出す角名に侑が「言うたらどうなるか分かる?お前も道連れやぞ」と憎々しい目で睨んでいる。その視線を受けて角名が黙った。
「……なまえが知ってます」
「?!?!俺?!」
全てを全振りされた俺に北さんの視線が動いた。北さんの目にじっと見られると弱い。
そしてもれなく侑の視線も俺に刺さる。
だが、心配なのは尾白先輩だ。例え怒られようとも、人命救助が最優先なはずだ。
「みょうじくん、何があったん?」
「…双子が尾白先輩に毒を盛りました」「おまっ、なまえっ!」
侑の手が俺の肩を掴んだ。
「アランに毒…?」「はい」
「毒ちゃうやろが!!何も盛ってへんし、美味しく食べとったもん!アランくんにもお裾分けしたろ、思ってあげただけやもん!!」
「そのアランはどこにおるんや」
「ここに…」
体をずらし、ブロックを崩した俺は北さんに机に突っ伏したまま動かない尾白先輩を見せる。
「あぁっ!バレた!!」
「…侑と治は後で話しようか」
「「………なまえのせいや」」
「だって尾白先輩助けないと、だろ」
「アラン、おい、アラン」
北さんが呼びかけてもダメだ。
「何をしたら、こんなになったんや」
「これです。これを食べたら…」
事の経緯を説明し、北さんに地獄の激辛ソース焼きそばを見せた。
「めちゃめちゃ激辛で一口でもやられます…」
正直な感想を述べると横から2人がぶうぶうと文句を垂れてきた。
「アランくんが辛さに過敏なだけやった説もあるしぃ」
「他の人にとっては全然辛くない部類かもしれんしぃ」
俺ら悪うないしぃ、と双子は主張する。
「パッケージに『辛さに弱い人は注意してください』て書いてあるやろ。それを言わんと食べさせるのはあかんのと違うか?」
北さん、ご最もでございます。
正論パンチにやられ黙る双子を横目に北さんはもう一度尾白先輩に声をかけた。
「アラン、楽しみにしとったアイドルの番組、あと10分で始まるで」
その言葉に尾白先輩の肩がピクリと動いた。
え、まさかのアイドルで反応した??
「レクルーム行ってテレビ死守するなら今のうちやで、」
北さんの落ち着き払う声にもう一度尾白先輩の肩が揺れた。
「………ッ、ガハッ!!」
勢いよく起き上がった尾白先輩に「「「おお」」」と声が漏れる。
「か、辛ぁぁっっ!!!」
水を求める尾白先輩に急いでコップを渡した。
「アランくんが生き返った!ツム!生き返ったで!」
「ア、アランくん〜〜っ!!心配したで!このまま起きひんかったら角名の部屋に連れてって隠蔽するとこやった!!」
尾白先輩の周りで泣きつく双子に「俺を殺す気か!どアホォ!」と怒っている。
アランくんに怒られても全然怖ないぃ〜、もっと食べる?まだ残っとるよ?とぐるぐる回る双子に尾白先輩は双子に嵌められたと頭を抱えていた。
「そもそも、ほんまに美味いもんなら
「アランくん、俺はそんな食い意地張ってないで?」
「治、お前がいっちゃん食い意地張っとるわ!残った焼きそばどうすんねんっ」
侑は残った焼きそばを見てイヤイヤと首を振った。
「えー、無理。こんな辛いの食べられへん、アランくん、いる?」
「いらんわっ!」
「えー」
侑の声に北さんが「食べ物を粗末にしたらあかんで」と釘を刺す。
「ツムが言い出しっぺなんやし、お前が全部食べろ」
治と北さんに挟まれ、唸っている侑を他所に角名は皆が悶絶した激辛ソース焼きそばに興味が出たのか、じっと見ている。
「気になる?丸々一口は辛いけど、麺一本ならいけるって」
経験者は語る、と角名の背中を押してやる。
麺1本を箸で持ち上げた角名は小さく口を開いて、短い一本を口に入れた。
「どう?」
「……辛。これ一口は無理」
「ふっ、だろ?思いっきり食べるもんじゃないよな」
囲まれる侑を見ながら、お残しは許しまへんで〜のフレーズを思い出す。
「どうしたら食べられるかなぁ」
角名は携帯片手に調べ始めた。
「マヨネーズとかチーズが良いらしい」
「ほおー。侑ぅ、チーズとマヨネーズが辛み和らげるんだって!」
双子が俺と角名に寄ってきた。
「マヨネーズ大量にかけたらマシになるん?」
侑がもう俺はあんな思いはしたないんや…と腹をさすっている。
「せや小分けにして色んなパターン作ったろ!実験や!」
治が楽しそうにキッチンに向かっていった。
「俺はレクルーム行くで…例え満身創痍でも…狐っ娘が俺を待っとるんや…っ」
尾白先輩は激辛のダメージを庇いながら、キッチンルームを出て行く。
「北さんもどうですか?激辛ソース焼きそば、アレンジ試食会っ」
にししと、笑えば北さんは腕組みをした。
「…激辛がどんなもんやろ、とは思う」
やっぱり気になりますよね?!
「北さんも一緒に食べましょ!治が辛さも全部解消してくれます!な!治!」
「全振りやば…」
「おい、角名。お前もさっき俺に全振りしたの、忘れてないからな…?」
「……俺、部屋戻ろ」
「ストーップ、角名も最後まで食べろよ!」
逃げようとする角名を掴んで席に座らせる。
「お残しは許しまへんで〜!!サムぅ、はよぉ!!」
箸を持ってまだかまだかと机を叩く侑に残そうとしたのは誰だよ、と呆れながら笑った。
その後、治のアイデアで色々な味付けを試し、無事激辛ソース焼きそばを美味しくいただいたのであった。
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「チーズ美味いやん、ピリ辛ぐらいの辛さになるっ」
「調べたら、卵とかも良いらしいよ」
「卵?!卵とか買ってへんし!でもつけ麺風にしたら美味そうやな」
「もはやすき焼きのレベル… 」
「卵ならあるで」
「えっ?!北さん卵あるんですか?!」
「最近ばあちゃんが送ってくれたんや、冷蔵庫入れとったしほら、ここに…」
「おおお、すげぇぇ!」
「んっ!!卵も美味い!」
「これで完食や!!」
「「「ご馳走様でした〜っっ!」」」