社会人編 宮侑生誕SS
『世界共通侑くんデーを知らんの?』
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「なぁ、明日、何の日か分かる?」
部屋の中でテーブルの向かいに座る大柄な男は俺を見て、こてんと首を傾げた。
晩御飯を食べていると唐突に問いかけてきた言葉に侑の目を見る。
短めの金髪と刈り上げた黒髪に整った目鼻立ち。初めて見た時から変わらない真っ直ぐな意志を感じさせる力強い眼差し。
座っていても体格の違いを感じるガタイの良さは同性として劣等感を持ってしまうほど出来上がっている。
「明日…?何の日だったっけ」とわざと惚けてみると「あ??」と不機嫌そうな声が返ってきた。
侑の持っている箸が俺の皿にあるローストビーフを奪う。
「あっ!おいっ!」
奪い返す前に牛肉は侑の口の中に消えていく。
「こんのクソジャイアン…ッ」
ジャイアンなところはやっぱり健在で大人になり多少は周りを見て発言できるようになった(たまにやらかすけど)今でも、横暴で暴君なところは見え隠れしている。
それも外の話であって、家の中となるとジャイアンは全開だ。ジャイアン宮侑はここにあり、と言わんばかりに嫌な笑みを浮かべながらいじめてくるのだ。
「調子に乗るなまえが悪いやん?」
「乗ってないですぅ」
「なぁ、世界共通侑くんデーのこと、ほんまに知らんのん?」
「ぶはっ、おま、食べてる途中に笑かすなっ。何だよその日は。普通に誕生日だろ」
「俺の誕生を祝う日や」
「朝から出かけて24時間、侑に拘束される日か…」
独り言のように呟くと「は??拘束??どこが拘束や、シメられたいんか?」とキレ気味に睨んでくる侑が面白くて笑う。
やっぱり調子乗っとんな、とこつんと脛を蹴られた。長い足はテーブルを挟んでも簡単に俺の足元へ届くようで素足が足先に触れた。
「はいはい、おめでたい侑くんの誕生日ですぅ」
「言い方が腹立つんよなぁ。ええん?そんな調子乗っとったらほんまに立たんくなるまでするけど」
あ〜〜…これは目が本気のやつぅ…。
遊びすぎたとキレた侑を目の前にして今頃後悔してくる。
「…やっぱり数分前から忘れて?記憶飛ばしといて?」
「無理」
テーブルの下で侑の足が触れてきた。人よりも大きく長い足を擦り付けてくる動きに自分の足を引っ込めるも、阻止しようと脚を絡めてきた。
目を細め、ムッと侑を見るとニヤニヤと楽しそうに笑っている。
「もう、ご飯食べ中!」
「はぁー明日まで楽しみにしとこうと思ったけどどないしようかなー今日も明日もやるのもええなぁ…」
「何が?!なんの事?!」
「え?分からん?」
「いいから、脚の動き、や、め、ろっ」
睨むと侑の足が太ももまで上がり、ふにりと俺の股間を踏みつけてきた。
「ニ゙ャッ!!」
思わず口に運ぼうとしていたブロッコリーを皿の上に落としてしまう。
「お、おまっ、ほんと足癖悪いなっ!?」
侑はイタズラ少年のような顔でケラケラと笑う。
「行儀が悪いぞ!?」
「はぁー?聞こえんー」
「もうっ」
遊び始める侑を放置して残りのご飯を口に運ぶ。
「明日はなぁ、バッチリきめて、一日デートやで♪夜は…楽しみやんなぁ??♪」
さっきまでキレていたのに、すでにルンルンの侑に呆れて笑いそうになる。コロコロ変わる表情も昔から変わらない。
「楽しそうで何より…。てか、それも朝軽く走ってから、の話だろ?」
「まあな。休みでもちょおっとだけ体動かしときたいし」
ほんのちょおっとだけ。
と言う侑のちょっとだけはいつもちょっとじゃない。
「シーズン始まるからって興奮して強度上げすぎるなよ?コーチから怒られるぞ」
「ほんまにジョグ程度や。一緒に行くやろ?」
「うん」
2人で早朝に走る予定もしっかり入っているが起きれるかな、と少し心配にもなる。
侑はプロスポーツ選手として規則正しく健康的な生活を送っているが、俺はどちらかというと夜までゲームもするし、仕事が遅くなることもあるし100点満点の健康的な生活とは言えない。
始まるリーグ戦に侑の闘志は燃え上がっているようで、フィジカル面、テクニック面、メンタル面も全部丁寧に作り上げてきていた。
バレーボールに向き合い、本気で打ち込む侑を隣で見てきた俺自身も楽しみにしている。
「今シーズンも頑張れよ、応援してる」
「んっ!見とけよ、皆叩き潰したるからなっ、お祭りや!」
侑にとって強い奴らと本気でやり合うバレーほど面白いものはないだろう。
肉を頬張りながら、楽しそうに目の奥でメラメラと燃え上がる炎を見せる恋人にくすりと笑った。
「応援行くの楽しみだなぁーっ、倫太郎も見たいし、尾白先輩も」
「は?角名よりもアランくんよりも、俺やろが。俺だけ見とけボケ」
「でもやっぱ倫太郎が決めるところとか、あの高い位置から叩くスパイク見ると興奮する」
「あ?俺も打つ時あるやんけ」
「いや、まぁそうだけどぉ」
よそ見したら許さん、とまたプリプリ怒り始めた。さっきまでルンルンだったのにコロッと変わる表情はやっぱり侑だ。
「明日さ、治んとこ行く?2人の誕生日だし、何か持って行ってあげようか。ケーキとか。肉とか魚の方が嬉しいかな」
明日も営業するよな、とおにぎり宮に行くことを提案してみる。
「は??明日は俺のために捧げる一日やんか」
サムんとこなんかいつでもいけるやん、明後日でもええやんと唇を尖らせている。
「兄弟じゃん、お互い祝うもんじゃない?」
「明後日ならええけど、明日は無理!明日はお、れ、の、日っ!」
この日は俺のためにあるんやっ。
ふんと鼻息荒く腕組みをする侑。
「何でサムの喜ぶもん考えとん?俺が喜ぶもん考えんのが最優先やろ」
その言い分はまさにジャイアン…!
分かったよと手を上げ、じゃあ明後日行くかと提案すると頷いた。
明日は治におめでとうメッセージを送っておこうと決める。きっと侑は治に出かけ先で撮る自撮り写真を送りつけるだろう。
それで自慢すな、とか俺の方が豪勢や、とか言い合うのだ。2人のやり取りを見るだけで笑いが零れるのもいつものこと。
いつまで経ってもわがまま女王様みたいな侑くんはぺろりと皿の上のものを平らげ、満足気に手を合わせた。
▽
晩御飯を食べ終わり片付けた後、先に風呂に入り終わった侑はラグマットの上でストレッチをしている。
俺はソファに座り、日頃仕事に追われ出来ていなかったゲームを進めていた。
「はよ寝よぉ」
風呂上がりのシャンプーの匂いを纏わせた侑が横から伸し掛かってきた。
お、重たい…っ
「ぐぅ…潰れるぅ」
「カエルやん」
ケッケと意地悪く笑う侑はそれでも伸し掛ることをやめない。
覆いかぶさってくる熊のような男に負けまいと体に力を入れながらゲームキャラクターを操作する。
「風呂入りたいけど、まだこのステージ終わらないんだよなぁ」
「貸せ、俺が進めといたる。はよ入ってこい」
俺の手からゲーム機を取り上げた侑に「ここで回復薬使いすぎるなよ」と釘を刺しておく。
「俺を誰やと思っとるんや」と自信満々に唇をぺろりと舐めゲームをし始めたが、正直不安しかない。
戻ってきた頃には最初のステージに戻っていることも予想できる。
侑にゲームを託して風呂に入りに行く。全身を洗い、さっぱりとした状態で風呂から上がった後、バスタオルで水気を拭いていく。
ドライヤーで髪を乾かし歯磨きも終えた。
寝る準備が整い、ゲームはどうなっただろうかと部屋に戻ると侑の姿がなかった。
「お?」
もしや、と寝室を覗くとベッドの上で横になる侑を見つけた。
手にはキャラクターの動きが停止した画面のままのゲーム機。目を瞑りすぅすぅと寝ている侑にこみ上げてくる笑いを我慢した。
「寝落ちしてる…」
きっと眠たくなってベッドに移動したけど、それでもゲームを進めようと頑張ってくれたのだろう。
今日も練習があったし、侑の体は休息を必要としている。しっかり睡眠をとって大事な体を休めてあげてほしい。
日付が変わるまであと1時間。
手から抜け落ちたゲーム機を取り、静かに部屋のドアへ向かった。照明を消して寝室を出る。
あと1時間やったら寝よ…
進められるところまでは進めておきたい。学生時代、東京で出来た同い年のゲーム好きな友達とこのゲームでオンライン対戦する約束もしているし、強化しておきたいのだ。
集中していると一時間はあっという間だった。
部屋に置いているデジタル時計に目を向ける。ちょうど表示が0時になり、日付が変わった。
□10月5日□
今日は侑の誕生日だ。
楽しそうにしていた侑の顔を思い出し、どんな一日になるだろうかと考える。
ゲーム機の電源を落とし、定位置に戻した。ソファから立ちあがり、静かに寝室に入る。
クローゼットに近づき、侑にバレないように隠していた包みをそっと手にした。
侑への誕生日プレゼントだ。
枕元に置いてみる。
朝起きたらどんな反応をするだろう。
渡し方がサンタやんっ、まだ10月やねん!12月ちゃうわ!とか、ツッコミ入れてきそうだな。
想像するだけで笑えてくるんだから、侑って本当に面白いヤツ。
「ぐふっ…くくくっ」
手で口を覆い、堪えながら掛布団をめくり入り込んだ。
熊の冬眠並に寝るのだから、ちょっとの振動では起きない。
モゾモゾと横につき、侑の寝顔を見つめる。
初めて話をした高校2年のあの時から、俺達はずっと一緒にいる。
喧嘩して爆発する時もあるけど、仲直りしてはここまでやってきた。
今日は侑の誕生日。
この世に生を受け、バレーボールという競技に出会い、その楽しさに目覚め、強さを求めて治と一緒に全力で走ってきた。
野狐中から稲荷崎高校へ入りMSBYに入団しプロ選手になるまでの道のりの中、俺が侑と出会ったのは奇跡に近い。
関西へ引越しして来なければ俺は稲荷崎に入ることもなかった。
同じ男子寮でなければきっと侑と話すこともなかった。
俺は侑と出会って、初めて親友と言える存在を手にした。
お互いに悪いと思ったことは悪いと良い、良いところは良いと言う。
人の目を気にして、自分の意見を言わず流されるままの俺に真っ向からぶつかってきた。
ぶつかり合える存在なんていなかった俺にとって、直接言ってくる侑はいつも衝撃的だった。
友達と笑い合うのがどれだけ楽しいか、はしゃいでアホして、一緒に怒られて、毎日過ごす青春の日々がどれだけ輝いているのか、教えてくれたのは侑だ。
侑と出会わなければ、あのジェットコースターみたいに激しい高校生活は送れなかったかもしれない。
笑って、泣いて、喧嘩して、アホなことして、また笑って。
あの時の皆の笑顔を思い出し、口元が緩んだ。
指の腹で侑のまつ毛をするりと撫でる。
「んぅ…」
ぴくりと眉が動き、笑いを噛み殺した。
「侑、誕生日おめでとう。……出会ってくれてありがとう」
小さく小さく口の中で囁いた。
それで…俺の親友になってくれてありがとう。
侑の額に唇を優しく押し付けた。
俺からできる精一杯の贈り物だ。
侑は今、どんな夢を見ているだろう。
俺も目を閉じて、体に触れる温もりに身を委ねた。
侑がこれからも大好きで止まないバレーを全力で楽しめますように。
侑が侑のままでいれますように。
そんな飾らない天真爛漫な侑をこれからもずっと隣で見れますように。
夢の中にいる侑にもう一度おめでとうと心の中で呟き、眠りに落ちた。
▽
「ぅう…重たい…」
「はよぉ」
「……はよ…」
「なぁ、何これ」
侑は枕元に置いている小さな包みを手にしている。さすが高級店で買っただけあるなとオシャレな包装に満足する。
「…んぁー、…それ、誕プレ…」
「渡し方がサンタやんけ!」
目を擦りながら告げると予想したとおりのツッコミが来た。
「ぶはっ、言うと思ったー」
ケラケラ笑う俺を他所に開封して中身を見た侑は声を上げた。
「おっ、これ欲しかったやつや」
「俺は詳しくないけど、センスいいですねって店員さん言ってた」
侑の手にはメンズ用の香水。これええなぁ、欲しいなぁ、と調べていたものを選んだ。
「はぁ…成長を感じるわ…」
「何が?」
「誕プレとか適当やったやん、いつも」
「はっ?!適当ではないだろっ」
「高校ん時は爪ヤスリとか裸で渡してくるし」
「大体そんなもんだろ?!」
「そや、『あ、忘れてた』とか言うた年もあったなぁ??」
「うぐっ…あ、の時は…色々仕事に思考全部持ってかれてて…」
そこから喧嘩した後の流れを思い出しただけでも頭を抱えたくなる出来事だった。
あの時はガチギレ侑くんにそれはもう泣かされまくったのだ。
「で、今年はどうだっ。完璧だろ?」
「渡し方がサンタやけどな。どこにおるんやサンタみたいな渡し方する奴」
「ケチつけんなよっ、嬉しくない?」
「…嬉しいけどぉ」
「素直でよろしいっ!」
じいちゃんが飼っていたゴールデンレトリバー、チロルを撫でるみたいにわしゃわしゃと撫でくりまわすと侑がやめえ、と頭を振った。
ほんのりと赤くなっている頬に追い討ちをかけたくてぎゅう、と侑の頭を胸に抱き込み「誕生日おめでとう」と囁いた。
「っ!!」
照れたような怒ったような顔で見上げてくる侑に、くすくすと笑う。
「はぁ〜もう明日立てへんぞお前。確定や」
「はぁ?加減というものを知らないんですか侑くんはぁ」
「知らん。俺はいつでも本気やもん」
「はいはい、ジョグ行くか」
「本気やでっ」
「へいへいー」
腰にまとわりつく侑を引っ張るように起こし、侑が言う誕生日デートの一日がスタートした。
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(準備後、出かける前の鏡の前にて)
「今日もかっこええな、俺」
「まーた、自画自賛してる、この陽キャがっ」
「なぁ、見て。鏡に映るこの男。こんなにかっこええ奴おる??」
「やばい、鏡の中の自分見て何か言ってる、ヤバい奴だーー」
「はぁ、隣に立つ奴が霞むんも分かるわ…」
「それ俺のこと?俺のことだろ?」
「まぁ霞んでもらわんと困るわな。存在感あったら目立つし…それはあかん」
「さっきからひどいことばっかり言ってますよね?ねぇ?」
「よぉし、準備完了!!」
「はぁ〜…今日もバチバチにきめこんでる…」
「なまえからもらったこれ、つけよ」
「おっ。おお〜いい匂い」
「手首、出して」
「ん?ほい」
侑が自分の手首を擦り付けてきた。目を合わせ見つめ合えば、近づいてくる顔にそっと瞼を下ろす。
唇に触れる柔らかな感触。香水の爽快感を感じさせる香りが鼻を掠めた後、さりげない甘さを残る。
向けられた愛に応えようと受け入れた。啄み合う行為は香りよりも強く脳に刺激を送る。
「んぅ、つむっ」
侑の腕を掴むと名残惜しく離れた。擦り付けた手首に鼻を近づけると香りが強くなる。
「同じ香りや。俺のもん、て意味」
満足そうに見下ろしながらニヤリと笑ってくる。少し悔しいので侑の意表を突くような事を考えた。
「心配しなくても俺は侑のもんなんだけどなぁ…」
「え、」
「あ、今日限定な。今日は侑デーだから、な」
逆に笑い返すと侑は口を開いたまま固まっている。
「今日だけは好きにしてもいいけど?」
口角を上げたまま煽るように胸をトンと押して離れる。部屋の鍵を掴み、上着を羽織った。
支度も済んで後は玄関に向かうだけ。まだ放心中の侑に冗談だよ、と伝えるため手を振った。
「なーんて、「…おい、今の言葉忘れんなよ??一生俺のモンっちゅうことやろ」」
「いや、一生とは言ってない」
「いや、今日から毎日が侑くんの日て決まっとんねん」
「はぁぁ?そんな日はありません」
「今、俺が決めた」
「何それ」
「俺ルール」
「個人的なルールの持ち出しは禁止します」
「もう決まったことやし、無理ぃ」
「ぎゃっ、セクハラ!尻揉むなっ!」
「ふふん♪はぁぁ〜今日はどんだけ楽しませてくれるんか楽しみやなぁ♪好きにできるんやろ?俺が何しても好き、て言えよ?」
鬼畜な笑みにゾクッとする。怖いぃっ!
「くそぅ…言うんじゃなかったっ前言撤回!」
「無理ぃ」