(宮侑)
ソイツを見たのは2年に上がって組分けが発表された日、入学式の前日だった。
授業も午前中で終わり、治と勝負して一目散に体育館に駆け込んだ。
耳をすませば体育館まで届いてくる吹奏楽部の音。運動部の掛け声や硬球を打つ金属音が遠くに聞こえる。
練習合間の休憩中、スポドリ片手に体育館のドアから外を眺めていた。
丁度良い風が吹きつけ、練習で火照った体の熱を冷ます。
体育館横のドアから真正面に見えるのは校舎に向かって登ってくる学校裏の坂道。
運動部が外周練習の最後、心臓破りの坂として使っているコースだ。
さっきのサーブのフォーム、もうちょい上げた方が良かったかもしれへんなぁ、と考えながらドリンクを口に含んだ時だった。
ボコッ
何かが地面に落ちた、いや叩きつけられたような強い音が耳に入り、目を向けた。
坂道をちょうど登ったところで肩を上下させている生徒が視界に入る。
ヘルメットを片手に持ち、佇むソイツは体にフィットしたユニフォームを着ていて足元には自転車が横になっていた。
「クソッ!!」
悪態をついて、俯いていた顔が上がった。
その瞬間、俺はソイツに目を向けていたことを少し後悔した。
交わった視線の先には睨み殺されそうな程の鋭い目と、噛み締める唇。
ばっちりと合ってしまったソイツの目は恐ろしく殺気立っていた。
人一人、殺せてしまうんじゃないかと思うほど。
正直、一瞬息が止まった。
(何やねん、こっわ……)
俺と目が合ったことに気づいたのか、次の瞬間には視線を逸らして、足元のボトルを拾っていた。
自転車があるということは自転車競技部の奴なんだろう。
背中を向けたソイツのユニフォームには稲荷崎の文字がある。
何か見覚えがある。なんやっけ。
ああ、そや。組分けされた初日の今日。
同じ教室におった奴や。
名前、なんやったっけ。
それが、初めてみょうじなまえという人間を認識した日だった。