担任の授業中、誰かがこんな事を言い出した。
「先生ー席替えしたいですー」
「始業式から変わってないやないですか、席替えしたい!」
「したい!」
教室内から上がる席替え希望の声に担任が「わかったわかった。一回だけやで。小テスト終わってからや。小テストの間にくじ作るさかい、真面目にやれやー」と承諾すると教室内が沸き立った。
かく言う俺も良い位置の席がいいなあと内心思っている。
寝ていてもバレにくい席とか…窓側とか…一番前は避けたい。
後ろもいいなぁなんて思いながら小テスト後のくじを引いた。
番号は7番。
担任が黒板に書いたランダムな割り当てと見比べる。
7番は…よっしゃ、窓際!かつ前から3番目。まあまぁいい所じゃないか。
後は周りがどんなメンバーか、だなぁ。
「はい、移動開始ー」
担任の声に皆わくわくした表情で席を移動させる。
「げっ」
窓際前から3番目に来ると、視界に金髪頭が見えた。
うーん、侑の席が近いのか…?
自分の場所に机を持ってくると、俺の後ろの席に図体の大きい奴がガタッと机を置いた。
見ると金髪頭の宮侑だった。
「何や、その嫌そうな顔は」
「いや、俺は平穏で静かな学校生活を送りたいな、と思って…」
お前が後ろの席だと平穏という言葉が遠ざかって行く気がするんだが…!
「ふっふ、何や楽しなりそうやなあ」
その笑みが怖い。期待すんな!
くそう、侑が前の席だったらなあ…このデカい背に隠れてうとうとしてもバレないだろうに…。
「…なあ、俺と席交換しない?」
「するわけないやろ。どうせ俺の後ろやったら早弁してもバレへんとか思うてるんちゃうん」
「お前と一緒にすな。早弁は流石にない」
俺の申し出を却下されて仕方なく前の席につく。
まあ別に平穏な学校生活が送れるならそれで良いのだ。
***
昼休み後の授業はかなり眠たい。睡魔との勝負と言っても過言では無い。
必死に目を開けようとしても、瞼に石が乗ってるんじゃないかと思うほど言うことを聞いてくれない。
うう、現文の時間と午後はミスマッチすぎるだろ…。
睡魔に耐えていると先生からプリントが配られた。
前の席の生徒から受け取って、後ろに回す。後ろを見ずに、片手でプリントを回した。
が、反応がない。
取れよ、と振り返ると息が止まりそうになった。
「っちょっ、、ぶっ」
侑が白目を向いていたからだ。後ろを振り向いたら白目とか、想像してないだろ?
こいつ眠過ぎてすごいことになってんなと必死で笑いを堪え、肩がプルプルと震える。
「おまっ、おいっ」
プリントでバサバサと侑をつつくと
「んぁ…、?」
と黒目が半分戻ってきた。半覚醒の侑に「プリント!」と渡すと「ふぉ…」と言いながらのっそりと後ろに渡した。
プリントを見下ろしたかと思うとまた夢の世界にお戻りになる宮侑。
ダメだ、こいつ、完全に睡魔に堕ちてるな。放っておこう。
その後案の定、先生に「起きなさい!」と起こされてはクラスから笑われていた。
休み時間。
「ホラーだったぞ。俺心臓止まるかと思ったわ。後ろ向いたら白目って恐怖でしかない」
「嘘や。俺はそんなダサい顔はせん、風評被害も甚だしいで」
「いやマジだって。お前白目剥いてて…ぶっは、思い出しただけでも笑えるんだけどっ!」
ひぇーっと腹を抱えて笑っていると、段々侑の顔に怒りの表情が現れてくる。
「あんま笑うてるとその口塞ぐで?息の根止めたるぞ?」
「ふはは、いや、白目っておま、見た事ねぇしっ、ぶふっ」
呼吸も苦しいほど笑っていると侑の右手が俺の頬を挟む。唇が飛び出す形になり物理的に笑うことはできない。
「ひゃめろ!ぼうりょくはんひゃい!」
「ぶはっ、ブッサ…!何言うてんねん」
侑の右手から逃げ切って、己を守るように頬をさする。
「すぐキレるんだから…」
仕方ないという様に前に向き戻って、次の授業の教科書を出す。
ああ、ダメだ。今あの白目の顔でツボに入ってるから、思い出しただけで…無理だ。シュールすぎる。
「おい、笑うな」
「笑って、ない…だろっ」
「肩震えとんねん」
「震えてない、わっ」
「スマホのバイブ並に震えとんねん」
「ぐふっ、ぐふふっ」
「キモイ笑い方すんなや」
ドスッと後ろから突かれてまた肩が揺れる。
くそう、この席配置を恨む。笑いすぎて辛い。
次の授業で吹き出さないように深呼吸して精神統一に集中した。
***
午後の授業も残り10分。
授業が終われば清掃活動だ。睡魔が半端なく俺を落とそうとしてきている。
清掃活動が終わったら部活。授業が終わって清掃活動が始まるまで数分だけでも目を閉じたい。
あの気持ち良い夢の中に…。
授業が終わったと同時に数分だけ、と窓側を向いて伏せる。
目を閉じればすぐに意識が落ちた。
…カシャッカシャッ
…??
微かな音に目を開ける。
目の前に携帯のレンズがあった。
「…??」
机の横に立つのは金髪頭。
「ふっふ、涎垂らして寝る奴がどこにおんねん」
ニヤニヤしながら見下ろす侑。
涎なんて垂らすわけ…、頬を乗っけていた右手を見ると濡れている。
「ハッ!」
口の横を拭うと確かに垂れていた。
「なまえくん、幼稚園児でちゅかぁ?」
「おっま、撮ったな…?消せ!」
「消せ言われて消すアホがおるか。白目風評被害のお返しや」
「くっそ、」
「よう撮れとるで。ほら見てみ」
「あああああ、消せ消せ」
クリアに撮れている俺の口半開きの寝顔とヨダレ。
一生の不覚。
携帯を取ろうと手を伸ばすと上に持ち上げる侑。どう考えても身長差で届かない。
「今すぐに削除…っ!」
「ふっふ、取れるもんなら取ってみいな」
教室の外に走り出す侑を追いかける。
「侑…!」
「ほれほれ〜」
完全に俺をおちょくる侑に追いかけて階段まで行く、上に登っていく侑を追いかけて1段飛ばしで登る。
「なまえくんには一生届かんで〜」
ニヤニヤ笑いながら俺に振り向く侑。が、階段の上にいる人を見かけて俺は動きを止めた。救世主…!
「侑」
後ろから聞こえた静かなその声に携帯を上に上げたままの侑はギギギと、音が聞こえそうな動きで階段上を見あげた。
「き、北さん…」
「何しとん?今は清掃の時間ちゃう?」
「あ、はい、そうです…」
「追いかけっこしとる時間ちゃうよな?」
「す、すんません…」
静かに見下ろす北さんの横に背の高い褐色肌の3年が見えた。あれがバレー部エースの尾白先輩か。寮でもたまに見かける。
「なんや侑。また北に叱られてんのか」
「2人して追いかけっこしてる時間ちゃうで」
「すんません!でも、侑が俺のことおちょくってきて…」
階段下から本当のことを言うと侑がお前余計なこと言うなやオーラ全開で睨んできた。
知るか、お前が悪い!これは北さんにチクってやる!
北さんは侑の握っている携帯を見た。
画面には俺の口半開きの寝顔がバッチリ写っている。それはあんまり見て欲しくない。
そしてそれを見た尾白先輩も吹き出したので俺は少し傷ついたぞ。
「ちゃいます!これには深い訳が…!」
「…侑、あとでしっかり話そか」
「…っ…なまえ、お前…」
チクリやがってぇぇ、という念がヒシヒシと伝わってくる。
「みょうじくん、うちのやつが堪忍な」
うわ、北さんに謝られるとかこっちが申し訳なくなってくる。
「い、いえ…」
「今は清掃活動の時間やから、お互い早く担当場所に行きや。侑には後でよう言うとくから」
北さんと尾白先輩にべこりと頭を下げる。侑にはVサインを作って俺と侑の目と目を交互に指しておいた。
俺も許さねえからなという意を込めて…。
侑め、北さんにこっぴどく叱られろ!と 祈り、俺はその場を離れて清掃場所に向かった。