北さんを愛で隊!


北信介→←←←←吹奏楽部の平凡男主 な話


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「いってきまーす」

家から通っている稲荷崎高校を目指して、玄関のドアを開けた。

いつもの通学路を歩き、見えてきた我が校。正門を通過して昇降口に入る…前に。お目当ての光景を見るため体育館の方向へ足を進めた。

「んふふふ…」

堪えきれず口から漏れ出る笑いは誰かに聞かれたらドン引かれるかもしれないが、気にしてはいられない。

体育館から聞こえてくるシューズの擦れる音。足早に開いている扉へ駆け寄った。

今日も拝めるだろうか…俺が愛でて止まない…

「……北さんっっ!! 」

開放された扉から見える1つ上の先輩、北信介こと、北さんの姿を目に捉え思わず手を合わせた。

「はぁっっ!かっこいい…!」

今日も拝めた〜〜っ!
男バレ部の朝練は終わったようで汗を拭く北さんの姿に惚れ惚れして、手で口を押さえていると目の前に、ぬっと大きい影が現れた。
金髪頭のクラスメイトが怖い顔で見下ろしてきている。

「……宮…」
「おい、今日も覗き見かぁ? 」

ああ?と首を傾げるミャーツムをしっしっ、と手で払う。

「覗き見とは失敬な。ていうか退けよ、邪魔すぎて北さんが拝めないだろ!!」
「あ?毎日毎日、視線がうっさいんや」
「宮を見てるわけじゃないからな、勘違いするな。俺は北さんしか眼中にない」
「はぁ??何やと?その視線が練習の邪魔や言うてんねん」
「ああん?男バレ部の応援演奏する吹部に向かってなんだその口は。ミャツムの時だけ思いっきり外したるぞコラ」
「あぁ???」

そう、俺は吹奏楽部に所属している。何を隠そう俺が吹奏楽部に入部したのも全ては北さんを応援するがため!

一年の時、見かけたバレー部の北さんに惚れて、吹奏楽部に入部すれば近くで応援できるという何とも浅はか、かつ私益な理由で入部したのだ。

「俺がどんな想いで吹部に入部したと思ってんだっ、俺は北さんを応援したいという気持ちだけでここまでやってきたんだぞ?!」
「不純な動機のくせに『吹部に向かって』とは、よう言うたな!」

宮侑と言い合っていると「侑、片付けしたんか?」と凛とした声が耳に入った。

「「き、北さんっ」」

ハモリはしたが声色は全然違う。宮は青ざめた顔で、俺は敬愛の眼差しで北さんを見る。

「北さぁんっっおはようございますっっ!」
「みょうじくん、おはよう」

弾ける笑顔で北さんに朝の挨拶をするとキリッとした表情で挨拶を返してくれた。
北さんの返事だけで今日1日ハッピーデー、テレビで今日の運勢が12位だったことも全部上書きされた。デレデレする俺に宮が「キッショ…」とボヤいたから睨んでおく。

「ぁあああっ、今日も北さんと話せたので一日頑張れそうです!放課後の部活も頑張れます!」
「俺と話さんと頑張れへんのか?」

誰かと話す、話さん関係なく部活をちゃんとやんのは当たり前やろ?と言いたそうな顔に心臓が抉られる。そういう真っ当なことをぶつけてくる北さんも俺は大好きなんです。

「北さんだから頑張れるんですよっ!!」
届け、俺の想いっ!

「……?」
首を傾げて言葉の意味を理解しようとする北さんが愛おしくて口元が緩む。

「北さん!そもそもこいつの入部動機、不純なんすよ!?」
宮が俺を指差しながらチクろうとした。

「どこが不純なんだ?!吹奏楽はもう中学でお腹いっぱいだと思って違う部活に入ろうとしてたのに、北さんを見つけてしまったがために、近くで応援できるかと吹部に入ったものの、やっぱり演奏楽しいなってなって、強烈な縦社会の中で荒波にもまれながら来る日も来る日もハードな練習に明け暮れている俺のどこが不純なんだっ」
「長いっ、ストーリーが長いわっ」
「要するに北さんがいなければ俺はここにいないって事なんだよ!」
「重たっ!お前、北さんの何やねんっ」
「何って、北さん激推し大ファン、北さんを愛で隊(たい)、隊長です」

キリッと決めてみせると宮はげんなりした顔を見せた。俺と宮の会話を聞いていた北さんが「侑、はよ片付けや」と静かに一言放つと背筋をピンと伸ばした宮が「はいっ!」と返事をして走って行った。

残る北さんを見て首をこてんと傾ける。可愛くもない平凡な男子の俺がこんなことをしても何の意味もないのは承知ではある。が、北さんが好きなのだから仕方がない。

「…俺がいつも頑張れてるのは、北さんのおかげですからね?応援も全力でしてますっ!」

勢いのまま話すから、冗談っぽく聞こえているかもしれないが俺の想いはちゃんとあるのだ。

「応援してくれるんは嬉しいで。ありがとう」

しっかりと返ってくるお礼の言葉にぎゅ、と通学カバンを握った。あまりにも真っ直ぐなその視線ににこりと笑って返さずにはいられない。
笑顔を貼り付ける傍ら、内心ではガックリと肩を落とす。

ああ、全然脈ナシぃ…。きっと数多くの後輩の中の一人だと思われているだろう…。

毎日アタックしても変わらない反応に少しだけ悲しくなる。

俺の気持ち、伝わってないのかなぁ、まぁ伝わったところで平凡な後輩男子からこんな熱を投げられても困るよなぁ。

分かってはいたが、ダメージはある。気落ちする感情を表には出さず「じゃあ俺もそろそろ教室行きますっ」と手を振った。

名残惜しくその場を離れ、練習着姿の北さんが眼福だったことだけを考える。
叶わない想いには見て見ぬふりをして、考えないのが一番なのだ。


▽▽▽


「あぁ…北さんのタオルになりたい」
「サム、こいつまたキッショイこと言うとるで」

昼休み、独り言を呟いていただけなのに、席が近いというだけで弁当を食べているバレー部メンツに絡まれた。双子、角名、銀島が机を囲んで弁当を食べている。

「みょうじクン、北さん好きすぎやろ」
「ノンノン、好きとかじゃ足りないんだよ。もっと大きなものなんですよ」

「俺は君たちが羨ましくて仕方がないよ」
「何で?」
「だって一緒にいる時間が長ければ長いほど、激レア北さんの笑顔を見れるってことじゃん?俺も見たいっ!一ヶ月に一回見れるか見れないか!なぁっ!角名ぁっ!お願い!北さんの笑顔激写してきてっ??」

お代は弾むから、と何でもする勢いで頼み込んだが「絶対にムリ」と即答されてしまった。

「北さんの笑顔欲すぃ…」

机に突っ伏す俺に宮侑が鼻で笑ってくる。

「北さんから全然相手されてへんのに健気やなぁ」
ケラケラと意地悪そうに笑う宮侑を睨み上げる。

「…ミャツム…今日の授業中、爆睡で先生に注意されたこと北さんにチクってやるからな…」
「なっ?!」

目を見開いて、それは反則やぞ!と怒る宮侑を無視する。

「脈ナシなのは自分でも分かってるもん…」
シクシクと悲しみの渦に呑まれてもう一度机に突っ伏した。

「当たって砕けろ、や」
宮治が弁当を頬張りながら、興味無さそうに適当に言葉を投げてきた。

「砕けるほどの勇気はないので無理ですぅ。そもそも…俺は北さんのお姿を見れるだけで十分だし…」
「やっぱキショい…どんだけ北さん好きやねん…」

「は?!北さんの良さが分からんか?!バレーに対して誠実で、最上級生になっても掃除も片付けも、挨拶も自ら率先して行い、丹精込めて一つ一つの行動をちゃんとやってるあの北さんを!!尊敬してないのか?!」

「そ、尊敬してないとは言うてへんし…」
唇を尖らす宮侑に首を振る。

「ごめん、一番尊敬してるのはこの俺だ。北さんを愛で隊(たい)隊長としては、そこは譲れん」

語っていると増々北さんへの敬愛が大きくなってくる。

辛いっ、見返りなんて求めるべきではないことは分かっているのに、本心では脈ナシで肩を落としている自分がいて辛い。

同じ高校で北さんを拝めるだけで俺は幸せ者なんだ、と自分に言い聞かせる。

それ以上のことは望まない、北さんを愛で隊長として応援に全力を捧げる、それだけで十分なのだ、と。

▽▽▽

昼休みを終えて、午後の授業も睡魔と戦っているとあっという間に放課後になった。

カバンを持ち、吹奏楽部の練習場所を目指して歩く。

稲荷崎高校は吹奏楽の強豪校である故に、練習時間も相当設けられている。今日も夜遅くまでの練習だな、と気合を入れてパーカスの練習室に入った。

▽

練習が続き、空も夕焼けに染まる頃、少し休憩と思い、自販機に向かうために渡り廊下を歩いていた。

練習中に先輩から少し言われてモヤモヤすることがあり、消化不良の状態だった。

縦社会な上に、厳しい先輩だと更にキツイ。皆、それぞれの思いがあってこその発言だから分からなくもないが言い方がキツかったり、ついていけていない自分が悔しかったり、小さな原因が詰まって息苦しくなっている。
先輩の言葉を受け入れて元気よく返事をしてみたものの、しんどくなり休憩と理由付けて出てきてしまった。

「はぁ…」

ため息を吐いて足を止めた。
自分の足元を見て、モヤモヤな気持ちをどうにか出来ないかと考えるも、どうにもならない。

「みょうじくん?」

突如聞こえた声にパッと、顔を上げる 。

「あ、北さん…」

ジャージ姿の北さんに出会えた嬉しさに浮き足立ったが、さっきまでのモヤモヤで反応が遅れてしまい、沈んだ声色になってしまった。

急いで笑顔を作って駆け寄る。

「もう練習終わったんですかっ?」
「今日は早めに終わる日や。侑らはまだ体育館に残っとるけどな」
本来の目的は体を休ませることやけど、それ言うても我慢できん奴らやねん。あと少ししたら無理やり終わらせるけど、と言う。

頭ごなしにではなく双子達に自由にバレーさせた上でもう終わりや、帰るで、と声をかける優しさを北さんは持っている。

そうやって気にかけてもらえる宮ツインズ達が羨ましいな、と内心嫉妬してしまう。

「みょうじくんは休憩中か?」
「そうなんです、ちょっと外の空気吸いたいなぁって」

曖昧に笑うと北さんの真っ直ぐな視線が向けられた。その視線に耐えられず、笑いながらそっと目を伏せた。

「…どうしたん?」

その一言に驚いて顔を上げる。

「えっ?」

「…いつものみょうじくんと少し違う気ぃして」
北さんの率直な言葉にさすが観察眼が鋭いなぁと観念する。

「練習でちょっとモヤモヤしたことがあって…自分の技術が足りないだけなので練習頑張ればいいだけなんですけどね!ただ、まだ気持ちが追いついてなくて…。あっ、北さんから頑張れって言われたら一気に復活すると思うんですけどぉ」

この期に及んで、北さんから応援の言葉をもらおうと画策する俺は悪い奴だろうか。いつものテンションで冗談っぽく言ってみたがここで断られたらダメージが大きいかもしれない。

「…なーんて、冗だ「…無理に頑張らんでもええと思うけど」
「え…」
「俺はバレーするのに気持ち云々は関係ないけど、みょうじくんが落ち込んでしんどい、て思うんなら、気持ちが乗らんまま頑張っても得られるもんは少ないと違うか?」

真面目な表情で話す北さんを静かに見る。

「そやから、気持ちが追いついてくるまでは無理に頑張らんでもええと俺は思うけど」
「北さん…」

俺のメンタルまで考えてかけてくれる言葉に思わずうるっと来て、目を瞑り耐えた。

「うわぁぁ北さんが泣かせるぅぅ…」
「すまん」

そんな素直に謝るところも好きなんですぅぅっ!!

「北さん、罪が深いですよ!」
「?何の罪や」
「ああっ、悶えるっ」

もはや本人を前に人格崩壊しているがこんなに可愛い北さんを見て冷静になれるわけがない。

「はぁ、もう十分です、応援も欲しかったけど北さんとお話出来ただけで俺は回復しました…」

ぺこりと頭を下げて、戻ろうと踵を返す。欲を言えば北さんから応援の言葉をもらえたらもっと頑張れるのになぁ、なんて我ながら欲深いことを考えた時だった。

「みょうじくん、応援しとるで」

落ち着いた声が耳に入り、勢いよく振り向く。
「なっ……?!」
「いつも応援、してくれとるから。お返しや」

凛とした顔の北さんに俺の心臓は跳ね上がった。

「き、北さんっ…い、今のは……キュンじゃなくてギュンですっ!!!」

まさか、応援してもらえるとは思わなくて、顔を赤くする俺を見て北さんが目尻を下げた。その表情に目を見開く。

な、なんと北さんが笑っている?!俺の目の前で?!

「ギュン、て何や」
くすりと笑うその顔に俺は返事も出来ず、目も口も開いたまま固まることしか出来ない。

「た、倒れそう…」

なんて罪深い主将だ…。笑み一つでこんなにも人の心を掻き回すなんて…。心臓がいくつあっても持たない。

「ギ、ギュンは、もう…愛しくて愛しくて堪らないってことですよぅ…」

北さんを愛で隊隊長としてはやっぱりこの思いは隠せない。相手にされないと分かってはいるが、顔を赤くしながら思いの丈を漏らした。

俺の言葉に北さんは数秒考えるように瞬きをした。開いたお口に何を言われるかと構えた瞬間。



「ほな…俺もギュンかもな」

「…………ぇ?」

……ま、ま、待って、今なんと仰った……?!
俺の聞き間違え?え、北さんもギュン……?!

「え゙っっっ…?!?!…っき、北しゃんっ?! 」
「ふっ、噛み噛みやな」

ああああっ?!ふ、ふわ、って笑ったぁぁ?!!?

笑顔と衝撃の言葉のダブルパンチに完全にノックアウトされた俺はよろめきながら北さんに詰め寄る。

「どどどどういう意味ですか?!」

後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

「呼ばれとるよ?」
「か、関係ありません!」

「みょうじくんー、集合かかったよー!」
「ちょっと今は無理ぃぃいいっ!!」

「気持ち、ちょっとは回復したか?」
「回復超えてチャージされました…」

俺の言葉に北さんは口元を緩めた。

「練習頑張りや、また明日な」

頭をポン、と優しく手を乗せられ、北さんは正門へ向かって歩いて行った。

俺は今、全ての出来事に動揺して、頭がパンク寸前だ。モヤモヤは完全に吹っ飛び、そのまま意識も吹っ飛びそうだ。

「みょうじくん?大丈夫?」
「…ここが天国か……」
「いや、今から地獄だから。早くっ合奏始まるっ!」

地獄の鬼練習が始まろうとしていたが、俺にとっては北さんの言葉だけで天国に思えた。

北さんに触れられた頭を撫でて、幸福感に浸る。好きが止まらなくて顔が緩んでしまうが、どうでもよかった。

「うぁぁ〜北さぁん…」

好きが止まらない。愛でたい想いはますます大きくなる。
北さんを愛で隊隊長は誰にも譲れない。また明日な、の声を脳内で繰り返して早く明日にならないかな、と心を踊らせた。

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