俺は学校に内緒でバイトをしている。

顔バレしないバイト、それは着ぐるみバイト。

これなら俺だって誰にも分からないと思ったのにな〜〜〜……


「あの…今日も可愛いですね…っ」

頬を赤らめて近寄ってきた背の高い高校生……。

こいつ、また来たァ!!

俺が着ぐるみバイトを始めてから暫くして見かけるようになったこいつ!!!

なんと同じ学校の1年、高峯翠…。

何でここにいるんだよ!学校から程遠いところを選んでここでバイトしてんのに!!

「あれ…?元気ない?」

俺を、いや、反応しない着ぐるみに対して不安そうに見る高峯に咄嗟に やっほー!と手を振った。

しょうがない。だってこれがマニュアルだからな…

「あ、よかった…!」

嬉しそうに微笑むこいつとは反面に、俺は着ぐるみの中で白目を剥きそうになっていた。

だってこいつ…


「今日も隣…いい?」

よくねぇよ!!
こいつはここに来たら、暫く俺の隣で何もせずただずっと座っているという訳分からない行為に出る。

以前、こうすると落ち着くんだとか何とか言ってたけど青春の貴重な時間をそんなことに費やすならアイドル活動やれよ!

お前のユニット有名どこじゃん!
とか突っ込みたくなるけど着ぐるみが声を発してはいけないのでただ頷くだけだ。


高峯翠がゆるキャラやらなんやらを好きだというのはこいつがここに来るようになってから知った。

ていうかそもそも俺こいつのこと知らなかったし…。

学校ですれ違った瞬間、あれ?何かあいつどっかで……あっ!!!と思い出しただけ。

一瞬目が合ったけど、向こうは気づいてなかった。そりゃそうだ、だって俺着ぐるみだもん。

俺の仕事はビラ配りとかたまにイベント会場に呼ばれるくらいの街のゆるキャラ的な着ぐるみ活動だ。

なのに、こいつは俺に ゆるキャラの愛くるしさとかそんなものを延々と語ってくる。

「…やっぱり俺、邪魔ですかね…」

ああ!邪魔だよ!とこくこくと頷きそうになって慌ててブンブンと首を振った。

「…嬉しい。ありがとう。いつもダルそうにしてところとかほんとツボ…。」

いやいや、ダルそうにしてねぇし。俺一生懸命頑張ってるし。たまに中が暑すぎてやる気なくしそうになってぼーっとすることもあるけど俺頑張ってるし…。

何、俺のことディスってんの?!

と内心思ったけど無視した。首を傾げて、何言ってんの?って感じで濁しといた。

あ〜バイト終了まであと1時間、またこいつとの時間が続くのか…。

その日はやっぱり最後まで高峯は俺の隣にいた。


***


「どれにしよ。」

学校の自販機の前に立って何のジュースを買うか迷っていた。

お金を入れたはいいけど、いざ押そうと思ったら迷ってしまったんだ。

人差し指を用意したまま固まっていたら、後ろに人の気配がした。

振り向いたら、なんとあいつだった。そう、高峯翠。

「…ごめん。」

俺のせいで待ってるんだろうなと思ってとりあえず謝っといた。

「いや…。大丈夫です…」

ダルそうに俺と目を合わさないようにぽそりとつぶやいた高峯に、こいついつもの態度と全然違うじゃん!と驚愕した。いや、これが普段なのか…?

いつものハイテンションの時しか見たことがないためギャップにかなり戸惑う。

とりあえず炭酸系のジュースを押してガコンと出てきたジュースを手に取った。

「はい、どうぞ。」

「あの…。ちょ、っと」

自販機の前から退けて去ろうとしたら呼び止められた。

「え?」

「お釣り…忘れてます。」

「あ。」

やらかした。恥ずかしーと思いながら高峯が取り出してくれたお釣りを受け取った。

そう言えばこの前、高峯が着ぐるみの俺のところに来ようとしたのを事前に察知してさりげなく逃げようとした時に、ビラ配り用のチラシを置き忘れそうになった時があって、その時も高峯が俺に忘れてるよ、って呼び止めてくれたんだっけ…。

俺まじ鈍臭いなあとと思いながらへこりとしてした。

「……。」

高峯は俺を見てじっと見てそれからふっと逸らした。

なんだよ…。

俺はもう教室に戻るためその場を去ろうとしたら高峯のポケットからぶら下がるものが視界に入った。

「あっ……!」

そ、それは……俺が来てる着ぐるみの限定ストラップじゃねえか…!!

うわぁ、これめちゃくちゃレアってバイト先の人が言ってたけど持ってるやついたんだ…、てかこいつどうやって手に入れたんだよ…。

「…え、あ、これ分かります?」

さっきまでダルそうだった高峯の目に光が差し込んだように俺にストラップを見せてきた。

わかるも何も…

「あー…何か最近、新しく出たゆるキャラ?らしいね…」

バレないようになるべく素知らぬふりで…。

「そう!そうなんですよ…!まさか知ってる人いたとは…」

「や、俺もあんま詳しくないけど…」

「明るく元気な、っていうゆるキャラなのに実際会ってみたらダルそうでそこがツボなんですよね」

「いや、ダルいんじゃなくてちゃんと手振ったり、踊ったり健気に頑張ってるからな?…あ、」

やばい、マジになって回答してしまった。

高峯はびっくりした顔をしている、やばいバレたか…?!

「あ、いや、俺から見たらそう見えたってだけで本当はダルいのかもな、…ははは…」

「…っ先輩も会ったことあるんですか?!」

「あー…まあな…」

「あ、先輩、名前を…」

「っ!じゃ、じゃあ俺用事あるから!!」

あっ、という高峯の声を無視してその場から駆け出した。

あっぶねーともうこれ以上下手なことは言えない。

まあこんな広い校内じゃ会うこともないだろうな。

***


「今日はね…」

ってまた来たァ!そしてまたいつものよう隣に座るスタイル!

「君のことを知ってる人が学校にいたんだ…嬉しいし、もっと広まってほしい!このゆるさが可愛いってところ!」

ああ…そうですか…。それは何ともありがたいですねえとわーいと手をあげて喜ぶ仕草をしておいた。

「……はぁ、連れて帰りたい…」

ぼそりと漏れたその言葉に俺はビクついた。

声のトーンがマジすぎて怖いんですけど!
こんなでかい着ぐるみ連れて帰ってたら完全不審者になるぞ?

ダメダメ、と腕でばってんを作って首を振った。

「…じゃあ毎日ここにくるので我慢するしかないか…」

いやいや、だからお前はちゃんとレッスン受けろよ!!

という俺の心の叫びが伝わる日はこないと思う。


汗だくで頑張る着ぐるみの俺と、隣でひたすら喋る高峯の話は続く…。
そして顔バレするのはまた別の話。



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