世は花の金曜日、しがない新米リーマンである俺は飲んだくれと化していた。

毎日仕事して、家に帰って、寝て起きたらまた仕事。
たまには飲んでパーッとはじけようじゃないかという同僚の言葉に誘われて、酒に飲まれてしまったのが運のツキだった。

何軒回ったか分らないほど飲んだあとは、なぜか1人で家に帰れると言い張ってタクシーなんて呼ばずに歩いて帰ろうとしていたとこまでは覚えている。

それから、気づいたら太陽の日差しが眩しい午前10時。自分の部屋だった。


***


まず目を開けて視界に入った天井に、自分の部屋だとわかった。それから、昨日はどうやって帰ったのかを必死で思い出そうとしていると部屋に珈琲の香りが満喫していることに気づいた。

重たい体を起こして、キッチンの方へ行けば珈琲が入ったカップが置かれていて、俺ではない誰かが確実にそこにいたことが分かった。

触れてみて、生暖かい温度に少し前に入れられたものだと考える。

それよりも自分以外の誰かがこの部屋に入っていたことを少し不安を感じる。

誰だったのか、知る人なのか、迷惑をかけてしまったのか、記憶がないとは恐ろしい。

この部屋に入った人間が分らないだけあって、大事なものだけは盗られていないか確認をする。

『はあ、頭痛い…最悪だ。』

せっかくの休日と言うのに何て最悪な出だしなんだ。

冷めてしまった珈琲を口に含んで酒に飲まれた後悔に身を沈めていると、ふと玄関先にキラリとしたものが見えた。
ワンルームのため、玄関へは数歩もあれば充分だ。

玄関先で屈んで床に落ちていたものを拾い上げる。

コウモリの形をしたモチーフがついているシルバーネックレス。

女物なのか男物なのか、そんなことには疎い俺には区別がつかない。

そういえば…玄関の鍵閉めてたかな、と気になり見上げれば案の定開いている。

無用心にも程があると自分に呆れつつ、閉めるためにドアに手を伸ばした。

鍵に触れる寸前でガチャリとドアノブが勝手に動いてドアが開いた。

予想できない展開にびっくりして開くドアを見ていると、そこから顔を覗かせたのは男にしては長い黒髪で大人びた長身の若者だった。

『えっ…』

俺はというと鍵を閉めようと伸ばした手はそのままで、上はシャツ1枚に下はトランクス、人前で見せられる格好ではない。

何なんだ、この人。自分の部屋を間違えたんだろうか。間違えたなら、謝るなりしてすぐに閉めるだろう。

それなのに、その若者はずいっと玄関に入ってきてドアを閉め、御丁寧に鍵までかけた。

『えっ?!や、ちょっと、ここ俺の部屋なんだけど…!』

「知っておるよ。とりあえず珈琲でも飲んだらどうじゃ?おにーさん。」

『え、珈琲…って君…』

「まあ、とりあえず落ち着くのが一番じゃのう」

この言葉で今目の前にいる若者が俺の泥酔ぶりを知るもので、この部屋に上がったものだと判明した。

わかってしまえば、何か粗相を仕出かしたのだろうかと心配になって狼狽える。

『あ、突然で申し訳ないけど昨日君に何かした?』

「ん〜、話せば長いことになるんじゃけど…」


土曜日、午前11時。ワンルームに男2人。
見知らぬ相手が部屋の中にいるという事実に何とも言えない気持ちになりながら、正座をして聞くのであった。

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