「ねえ、何で学校来てるの?」

『な、何でって…』

「もう学校に来るな、って言ったよねえ?」

『そんな…』

空き教室の一角で、頭を鷲掴みにされて今にも逃げ出したい気分だ。

目の前の男、朔間凛月を廊下で見かけた瞬間、自分の身が危ないと感じて避けたにも関わらず、気づかれて待ち伏せされていたのか曲がり角を曲がった瞬間、目の前に現れていた。

『あ…の…俺、朔間さん怒らせるようなことしましたか…?』

「だからさあ、その顔を見たくないんだって。何回言えば分かるの?この頭じゃ俺の言ったことも理解できないのかなあ?」

片手で掴まれた頭を無理やりぐりぐりと回されて、反射的に目を瞑ってしまう。

同じ学年と言えども、違うクラスだったのが不幸中の幸いだった。
昨年までは1つ上の先輩で、俺はこの朔間凛月という先輩に懐いていた。普段人と関わることを嫌うこの先輩も俺にだけは何かとかまってくれて、俺も先輩と仲良くできていると思っていたはずなのに…

いつだったか忘れたが突然、朔間先輩は今までとは違う接し方になった。

他の人はこの人がこんなイジメまがいなことをしているとは思ってもいないだろう。

『ご、ごめんなさい…。あの…もう朔間さんの視界に入らないように…努力しますから…』

「へぇ、俺の視界に二度と入らないって約束できるの?ねえ?」

『っ…、それは…』

「出来もしないことを言わないでよね」

『…すみません…。』

「あーあ、めんどくさい。そうやってすぐ泣きそうになるのもイライラする。」

『っ、すみませ…っ!』

必死で涙を堪えようとすればするほど、視界がぼやけてしまう。

しょうがないじゃないか。俺だってこの状況に困惑しているのだから。

あれだけ親しかった先輩から突然突き放されて、挙句の果てには学校へ来るな、と言われ冷静でいられるわけがない。

『どうしたら…前みたいに…』

「…。」

沈黙する朔間さんを恐る恐る見上げた時、ポケットに入っていた携帯が鳴った。

「…出なよ。」

『…っ、じゃあ、これで失礼します』

一刻も早く教室から出たかったから少しホッとした。朔間さんから離れようと動いた瞬間、肩を壁に押し付けられ困惑する。

「ここで、出ろよ。」

『えっ… 』

「ほら、早くしないと。鳴ってるよ?」

『でも…』

「出ろって。」

鋭い目つきに変わった朔間さんの赤い瞳にこの場で通話ボタンを押さないと許されない気がして、そろそろと震える指でボタンを押した。

『…もしもし、』

電話の向こうからは、なかなか出ない俺を心配したような声が聞こえてきた。

『あ、朔間先輩…えっと…大丈夫です…』

ガシャンッ

電話をかけてきた人の名前を言った瞬間、手に持っていた携帯は目の前にいる朔間さんによって、床に叩きつけられた。

『ちょっ…何して…』

かなり怒ったような目をして朔間さんは俺を睨みつけている。

「言ったよね?兄者と連絡とるなって。」

『いや…』

「言っても分からない奴には、痛みが必要だよねえ?」

『いたっ!朔間さん…!』

いきなり首筋に噛みつかれ、激痛が走った。

ドクドクと鼓動が大きくなる心臓。
目を固く瞑り、必死で痛みを我慢する。

「ふふっ、ばかだよねなまえって。俺の言う事聞いてれば優しくしてあげるのに。」

首元で囁く朔間さんが今どんな顔をしているのか、想像は容易い。

朔間さんは少し可笑しい。
なぜ朔間さんがこんなことをするのか、きっとこれは愛情の裏返しのような独占欲なんだと俺は思う。

そしてその愛情の裏返しを怯えながらどこかで快感に思っている俺も少し可笑しいのかもしれない。

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