大神が最近生き生きとしている。原因なんて想像に容易い。
俺はと言うと、疲弊しきっていた。机に突っ伏すようにだらけると、友達が俺の頭を小突いた。
「おーい、生きろー。」
むくりと起き上がって友達を見る。
「…なあ、俺って可愛い?」
「…おい、冗談よせよ〜トイレの鏡見てこい。」
「だよなー。」
ははは、と笑いながら分かりきったことを聞いてまた小さく傷が痛んだ。
俺は疲れてしまった。あの人を避けるために、必死で回避しようとすればするほどあの人の情報が入ってきて、転校生を手助けしているとか、Trickstarを面倒みているとか、嫌でも知ってしまう。
その度にじゅくじゅくと抉られる傷。
痛いんだよなあ。
ほんと、誰か、どうにかしてほしい。
あの人は過去のことなんて何でもないように笑って過ごしているんだろうか。
そう思ったけど、考えるのをやめた。考えたところで痛いのは俺だけなんだから。
放課後は図書委員の仕事で図書室に来ていた。
誰もいない図書室。
受付のカウンターの定位置に座ってただひたすら番をする。
図書室に流れ込む日差しが暖かくて、少し眠くなった。
誰も来ないだろうし、少しなら…。
座ったまま目を閉じるとすぐに夢心地の世界に。
「…うわぁ!なまえくん!」
俺の名前を呼ぶ声にハッとして目をあけた。
青葉先輩の声に心臓が飛び跳ねる。
やばい、寝てた。ていうか青葉先輩にバレた。慌てて見上げて息が止まった。
「…え……」
見上げた先には、青葉先輩と……。
俺を見下ろすあの人が立っていた。
髪が少し伸びた。髪型も変わった。でも瞳はあの時のままだった。
言葉が出なくて呆然としていると青葉先輩が俺の頭に手を伸ばした。
「すごいですね!これリアルだ〜!猫耳サービスですかぁ?」
嫌味ではなく、ほんわかと笑う青葉先輩に、え…?と俺も頭に手を伸ばすとふさふさとしたものが手に当たった。
パッと下を見下ろすと、ノートの切れ端に『いねむり禁止〜!笑』と書いた友達の字と猫のイラストが描いてあった。
あいつ……っ。
急いで外そうと思ったのに、青葉先輩の一言で体が固まった。
「なまえくん、可愛いですよ!」
可愛い、可愛い。
その言葉だけでぶわりと顔が熱くなった。これはあの人が目の前にいるから、とかではない、きっと。
その可愛いという言葉が、とてつもなく恥ずかしくて久しぶりに聞いて、何だかわけがわからない気持ちになった。
「ね?零くんもそう思うでしょう?」
何を…聞いてるんだ、青葉先輩は。
やめてくれ、俺は聞きたくない。
未だ顔を見れないまま俺は俯いていた。
「…可愛くないのう。」
上から降ってきた言葉は冷たかった。その一言に熱を持っていた頬は一気に温度が下がり、全身から血の気が引いたようだった。
手が上手く動かない。友達がつけた馬鹿な猫耳を外そうとするのに、手先が動かなくて震えて掠めるだけだった。
どれだけ俺の傷を抉って踏み潰せば気がすむんだろう。
俺は何か悪いことをしたんだろうか。
「なまえくん…?顔が真っ青だよ…、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫…です…」
喉から絞り出した声は小さくか細い。
やっとの思いで外した猫耳を握ってカウンターから出た。
「す、すみません…。…失礼します…」
2人の顔も見ずに、いや見れなくてそのまま図書室を出た。
涙なんてものは出ないけど、膿んだ傷口からは鮮血がとめどなく出ている。
誰だ、俺を可愛いなんて言ったのは。
勘違いしたのは俺だけど…。
今もこうして苦しめられているのもやっぱり俺のせいなんだろうか…。
握ったままの猫耳を見つめた。
「可愛くない」
俺を突き落とすには十分な言葉だった。
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