「……っ…!」

ハッ、として目を開けたら部屋は月明かりで薄暗くてカーテンは開けっ放しだった。

自分の体を確認する。

怠さはあるけど、あの変な暑くてもぞもぞしたような感覚はない。服も元のままに綺麗に着ていて、俺の意識が落ちる前の記憶は嘘かと思った。

けど身じろぎしたらすぐに尻に違和感があって、あれは夢じゃないことを思い知る。

隣を見ると真が俺のベッドの上ですやすやと気持ちよさそうに寝ていた。

「………チッ」

かなりイラッとしたから真の腹を思いっきり足で押してベッドから突き落とした。

バタンッという痛そうな音と「うっ!」という真のうめき声が聞こえてきた。

「ん…いたた…」

頭を押さえながら起き上がった真に俺は握りこぶしで構えた。

「あ、なまえくん起きた…?痛くない?大丈夫…?へへ」

へらりと笑う真に俺の怒りは最頂点に達した。

「っお、まえ…!!」

「シーっ!なまえくんのお母さん来ちゃうよ…っ!」

母親のことを言われて俺は言葉が詰まった。
もう夜だし、親も帰ってきてるだろう。

「あっ、お母さんにはなまえくん一緒に宿題してたら疲れて寝ちゃったって言ってるよ…!」

それもまたイラッときた。

「はぁ?だからって何でお前が一緒に寝てるんだよ…もういい、うざいから家に帰れよ。で一生俺に顔見せんな」

床にお尻をつけたままの真を無視してクローゼットに向かった。
とにかく着替えたい。風呂に入りたい。全部洗いたくて着替えるための服を取り出そうとした。

「……。おい、お前…俺のトランクス…取っただろ?」

「え…?そんな…なまえくんのパンツ取るなんて…」

振り向いてキッと睨んだ。確かにあったはずのトランクスが一枚ない。

「しかも…俺がノーパンなのは何でなんだよ。お前俺の履いてたトランクスどこやったんだよ」

「い、色々と汚れちゃったから使い物にならないし…僕が捨てとこうと思って…!」

「いい。返せ。俺が捨てる。」

「だ、だめだよ。僕のせいだし僕が…」

真にずいと近づいて真のカバンをひったくった。

「あっ、なまえくんっ、」

案の定、カバンの中には御丁寧にポリ袋に俺の汚れたトランクスが入っている。

「……おい。なんだよこれ。捨てるならこんな綺麗にたたむか?え?」

「…記念だよ…僕となまえくんの初エッチ記念…。」

「きもい!ふざけんな!」

「と、とにかく返してほしい…!」

「返すも何も俺のだっつうの」

「ああ…記念のパンツ」

眉を下げて心底悲しそうにする真にキレた。

「とにかく帰れ…!」

真の荷物も真も部屋にぐいぐいと押し出して扉を思い切り閉めた。ドアの向こうからなまえくん、なまえくん、と言う声が聞こえるけど無視だ。

「絶対家にあげねぇからな…。」

決め込んで俺は今すぐ風呂に入るため準備した。



***



「あっ、なまえくん、おはようっ」

朝教室に入ると早々に真が寄ってきた。それをガン無視した俺は自分の席につく。

「き、昨日はごめんね…。」

真が申し訳なさそうに焦りながら謝っているけどそれも無視。聞こえていないフリをして音楽を聞こうとイヤホンを手にした。

「でもなまえくんほんと…可愛かったなぁ…お尻が柔らかくて、太ももとか…すべすべで…じ、自分でい、いれてって…」

「っ…!!!」

ギロりと睨んでも二へ二へしている真は全然反省の色もない。黙れ、と口パクで言っても緩んだ頬はなおらなくて殴りたくなったのを抑えた。

「…まじで話しかけんなよ。」

「…罵られてもいいから、なまえくんの視界に入りたい…」

誰かこいつをどうにかしてくれと切に願っていると衣更が真を呼んだ。

「あっ、…ごめんね、なまえくんちょっと行ってくる。すぐ戻ってくるね!」

一生戻ってくんな、と心の中で吐き捨てて俺は逃げるように教室を出た。

最悪だ、昨日のせいで体はだるいしまじで最悪。信じられん。

思い出してイライラしたけど真如きに気分を左右されるのも癪だから考えないようにした。

俺が向かったのは保健室。

「2-Aのみょうじです。体調悪いんで休んでいいっすか。」

「おー?おう、みょうじか。サボりは許さんぞー。」

「違いますよ。本気で気分悪いんですよ…」

「んー、なら端のベッドな。俺は会議あるから空けるけど1時間だけな。」

1時間だけかよ…まあ寝るくらいにはいいか。

端っこのベッドに行って上履きを脱いだ。

ああ、ほんとだるい。少しだけ、女子ってこんな感じなのかなとか馬鹿なことを考えてしまった。

横になって目を閉じる。

保健室は無音だ。静かでようやく意識がうとうとしてきたところにドアを開ける音が聞こえた。

「失礼します…」

静かな囁き声。真の声だ。それで一気に目が覚めた。

何で来てんだよ。

「……なまえくん…」

足音は迷うことなく俺のいるベッドの方にやってきた。怖すぎる。この間GPSがどうとか言っていたし本当に俺のプライバシーはない。

カーテンがゆっくりと開かれた。俺は目を閉じたまま。

「なまえくん…。」

ベッドの近くにある椅子に座ったらしい。

ああ、最悪。寝ようにも寝れない。寝たふりをして規則正しく息をするしかない。

カシャーーカシャッ

スマホのカメラ音が2回鳴った。
それからベッドの端が少し沈んだ。

真が動いたのが気配でわかった。

カシャッ

真の息遣い。耳元すぐで聞こえるカメラ音。多分、いや絶対。今目を開けたら顔の横でカメラ構えている真がいるだろう。

「可愛いね…」

ふふと笑いながら小さな声で囁く真に鳥肌がたった。
もうカメラくらい許すから外へでてくれ。俺の睡眠の邪魔をするなと念を送った。

「はぁ…もっといっぱい写真ほしいな…。乗り気じゃないけど泉さんに弟子入りするしかないかな…。あの人結構盗撮上手いしなぁ…」

恐ろしすぎることを言う真を全力で止めたい。

お前らストーカー同士仲良くお互いをストーカーしてれば解決するんだから俺を巻き込むなよ!


しばらくはずっと無言で音もしなかったから多分そのまま椅子に座ったままいるんだろうと思った。

何もしないならまあ…寝てもいいか…と張り巡らしていた緊張を解いた。

それがいけなかった。

真がまた動き始めたのだ。ごそごそしている。
今度は何をするんだと思えば、かかっている毛布をめくってきた。おい、寒いだろうがと眉を潜めてしまったけど気づかれていないようだ。

それからピロリン♪と動画撮影をスタートするような音が聞こえた。

静かな保健室に真の囁くような小さな声が降ってきた。

「○月×日、1時間目。今日のなまえくんは体調が悪くて保健室です…。なぜ悪いかというと昨日が…僕となまえくんの初エッチ記念日だったからです…!なまえくんは気だるげに朝登校してきました。今日は安静に次に備えて体力温存です☆」

死ね!!俺が今すぐ地獄に突き落とす!!!

いくら寝たふりをしていると言っても我慢の限界だ。瞼がピクピクしてきた。

放送委員だけあって、ナレーションが無駄に上手いのがさらにイラつかせた。

次なんて絶対あってたまるかと心の中で真を呪った。

その横で真はひたすら昨日の情事を喋りながら動画を撮っていた。

最近エスカレートしているこいつの奇行を俺はどうやったら阻止できるか目を閉じながら必死になって考えた。

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