室内に響くキーボードを打つ音。
なまえの手に寄ってカタカタとものすごい速さで打ち込まれていく。
そして時折聞こえるなまえの独り言。
「…ふっ…。外れてるし…」
ぼそりと呟いた後、またカタカタとキーボードを打ち込んでは肩を揺らしていた。
そんななまえをソファ越しに見ながら俺はため息を吐いた。
そんなにネットゲームが面白いのかなぁ…。
俺はパソコン系とかあんまり得意じゃないからなまえの好きなネトゲとかよく分からない。
なまえが楽しそうな顔をするのはネトゲの時。俺としては面白くない。
その笑顔は俺と一緒に過ごしている時に見せて欲しいんだけどな…。
「なぁ、なまえ、面白い?」
「ん……うん…」
俺の方なんて1度も見ずにパソコンの画面を見続けているなまえ。
「…何のゲームなんだ?」
「…魔法使って…あ、コケた……。」
またくすくす笑うなまえに面白くなくて俺はソファから立ち上がった。
「…なぁ、俺今日オフなんだけどさ」
「……うん…」
キーボードの上に置いている手を止めてなまえは俺を見上げた。
「一緒に過ごしたくない?」
「…あと1時間でイベント終わるから…ゲームやりたい…」
「……わかった、待ってる。」
はぁ、とため息を吐いて俺はソファに戻った。
ゲームねえ…。まあ、なまえがネトゲ好きなのは随分と前から知ってるし、いいんだけど…。
でもさ、俺たち恋人だし、2人で過ごしたいとか思わない…?
パソコンの前で背中を丸めてるなまえを眺めながら俺は近くの漫画を手に取った。
本当は…ネトゲなんかして欲しくない。
だって、ネトゲと言ってもその向こうに相手がいるわけだ。他人が、ネットを通じてなまえと遊んでるわけだろ。
…なまえに関わる全ての関係を断ちたい。
前まではなまえを独占したい、世話したいっていう気持ちしかなかったけど、なまえに気持ちを告げてからこんな思いが生まれるようになった。
外に出て欲しくない。外に出て楽しさを知って欲しくない。友達と遊ぶ楽しさを。ゲーセンや遊園地、カラオケ、ショッピング、俺が普通に楽しんでることをなまえに知って欲しくない。
スバル、北斗、真と遊ぶのは楽しい。馬鹿笑いしながら涙が出るほど面白い時だってある。友達と遊ぶのは楽しい。俺はそれを知ってるけど、その楽しさをなまえには知って欲しくない。
なまえがその楽しさを知って誰かと遊んだり…なんて想像するだけでおかしくなりそうなんだ。俺じゃない他人と笑いあってるなんておかしくなりそうなんだ。
俺だけでいい。俺だけと一緒にいて、俺だけと過ごす楽しみだけ知ってればいい。
俺が作った狭い世界の中だけでいてくれればいい。外の世界なんて知らなくていいのに。
…おかしいかな。
俺っておかしいかな…。
ソファに寝っ転がって漫画を開いたまま顔の上に乗せた。
「はぁ…」
おかしくなりそう。
もしネットでなまえに言い寄ってる奴がいたら…?もし、なまえに会おうなんて言ってる奴がいたら…?
ソファから起き上がってなまえの横に立った。
まだゲームに熱中しているなまえ。
今すぐパソコンの電源を落としたくなる衝動を抑えて俺はなまえと一緒にパソコンの画面をのぞき込んだ。
「まだ?」
「…あと50分」
「…待てない。」
「…あと、ご、じゅ、」
なまえの言葉を塞ぐように顔を近づけた。
薄く開かれた唇に唇をくっつけて軽く啄む。
なまえの目に俺が映った。
そう、これがいい。
なまえの目には俺だけ映っていればいい。
「ごめん、待てない。」
なまえの腕を引いて椅子から立ち上がらせる。
パソコンの画面はゲームの途中のまま。
「せっかくのオフなんだし、2人だけで。過ごしたいんだ。」
笑顔でなまえを見れば、なまえはゲームの画面を気にしながら俺を見た。
きっと、俺とゲームの狭間で悩んでいるんだろう。
「なまえ…嫌か?」
わざと断りづらい言葉を使った。
「…嫌じゃないけど…」
もごもごと言うなまえに俺は笑ってありがとう、と呟いた。
よかった…。もし、嫌だなんて言われたら俺は何をするか自分でも分からない。
「…ゲームと俺どっちが好き?」
「………どっちって…」
なあ、どっちがいい?言ってくれる?俺の欲しい答え。
「どっち?」
なまえがちらりと俺の目を見た。俺もじっ、となまえの目を見る。なまえの目に俺はどんな風に映ってるんだろう。
「…言わないとだめ…?」
「だめ。」
なまえは俯いて暫く黙り込んだあと口を開いた。
「……真緒。」
ああ…そう、そうだよ。それが俺のずっと聞きたかった答え。
嬉しくて顔が緩む。なまえの頬に手を当てるとなまえはちらりと俺を見た。
前髪、長くなったな。切らないと。
「嬉しいな。」
俺だけ、俺だけを選んで。なまえには俺しかいないよな?そうだろ?
なぁ。俺っておかしい?
うん、おかしくないよな。
だってこれは俺の愛だもんな。
←
back