真緒が来なくなって、いや来させないようにして2週間。
ゴミ出しはできるようになった。
あと、洗濯もできるようになった。
といっても着替えることがないから洗濯物も少なすぎて1週間に2回くらい。
食材はネットでポチって買っている。
たまに真緒から生存確認のメッセージが来るけど適当に返信していた。
生きてるから心配するなという内容を返しているのにすぐにまた心配してメッセージを送ってくるから、どれだけ世話焼きなんだと笑ってしまう。
もう行っていいか?いつも聞かれるので、まだ駄目と返す。
まだ駄目って永遠に駄目なんだけど、と自分にツッコミを入れた。
とにかく真緒はもうここに来てはいけないんだから。
出来るようになったことが増えて、この調子なら俺いけるんじゃね?と思い、求人情報を探した。
ネットで近くのスーパーの品出しアルバイトを発見して調子に乗ったそのままの勢いで電話した。
アルバイトをするのが始めてだと言うとお試しで入ってみるか?と言ってくれたのでお願いした。
自分でまさかここまでできるなんて思わなくてドキドキして仕方がない。
電話を切ったあとも心臓がバクバクして煩かった。明後日から出勤か…。
そういえば…明日は真緒の誕生日だ。
ことが上手くいきすぎて変なテンションの俺は真緒に報告もかねて、真緒の家まで行ってやろうかと考えた。
外に出られない俺が真緒のマンションまで行ったらどんな顔をするだろうか。想像してまた変なテンションが上がった。
今なら何でも出来る気がする。
明日、真緒の家まで行ってやろうと決めて眠りについた。
真緒の誕生日、白昼から出るのは気が引けて夕方から出ることにした。
夕方なら暗いし何だか安心して外を歩ける。
誕生日プレゼントなんて何がいいか分からなくて用意していないけど誕生日といったらケーキだろうと思って、真緒の家に行く途中に今度こそケーキを買うためにコンビニに入った。
幸いレジは歳がいったおじさん1人だけだった。
これなら俺も買える、とコンビニのデザートコーナーで真緒にあげるイチゴのショートケーキと自分用のプリンを持って、レジに向かった。
「512円になります」
「……」
財布からお金を取り出してレジの上においた。
「88円のおつりになります、ありがとうございましたー」
渡された袋を持ってコンビニを出た。
「……買えた。」
やればできるじゃん俺…、と嬉しくてニヤけそうになった。そのまま早く真緒のところまで行こうと駅に行き電車に乗り込んだ。
数分揺られ駅から出て、事前に調べていたルートを歩く。
以前住所は聞いていたから何回もネットの地図で見て道順を確認していた。
「…でか…」
本当にここなんだろうかと思うくらいたどり着いたのは大きなマンションだった。
エントランスの中が外から見える範囲でも広くて入るのに躊躇してしまう。
片手に持っているケーキが入ったビニール袋を握りしめた。
どうしよう、真緒がいなかったら不審者に思われるかな、むしろ真緒がいたら何て説明しよう…誕生日だから来た、なんて言ったら引かれるだろうか?何も言ってないのにいきなり来たら迷惑だろうか?来る前に何か連絡したらよかったか?
家に来る友達も家に遊びに行く友達もいない俺にはどうすればいいのかわからなくてその場でうろうろしてしまう。
ビニール袋片手に数歩進んだり立ち止まったりを繰り返していると、マンションの中から警備服を着た背の高い人が出てきてビビった。
びっくりしてびくついていると、その人はそのまま俺のところへ来た。
「何か御用でしょうか?」
「…ぇ、あ、いや、…」
「住民の方への御用ですか?」
「ぁ…えと…」
住民というそうなんだけど、でもまだ心の準備が出来てなくて行動できないというか…
そんなことを説明できるはずもなくしどろもどろになっていると警備服を着た人の目が不審がるそれになって心臓が飛び跳ねた。
「ぁ、あ…す、みません…何でも…」
「あれぇ?なまえ?」
もう帰ろう早くここから立ち去らないと、と慌てていると後ろから声をかけられて振り向いた。
帽子をかぶって、黒いコートを来た美男子。ああ、見たことがある。久しぶりに見た。
もしかしなくても…
「り、つくん…?」
「なまえもま〜くんのとこ?」
コクリとうなづいて凛月くんを見た。
久しぶりに見た凛月くんは前に見た時よりさらにイケメンオーラが半端なくて眼鏡をしていても凛月くんだとわかったくらいだ。
「久しぶりだねぇ。死んでたかと思った。こんな陰湿になっちゃってさぁ…」
ニヤリと笑いながら俺に肩を組んできた凛月くんは意地悪そうな顔で頬をぐりぐりとしてきた。
「いた、いたい…りつくんいたぁ…」
いつのまにか警備服の人はいなくなっている。
「ふふふ、ま〜くんから話しか聞かせてもらってないけど、変わんないねぇ。なまえもま〜くんの誕生日パーティー?」
「……ぱー、てぃー…?」
「そ、なんか午後からま〜くんの部屋でやってるらしいね?呼ばれてたけど俺は夕方からじゃないと行く気出ないから今から参加〜」
ぱーてぃー…。そんなこと全く知らない。それを聞いて片手に握っているビニール袋を握りしめた。
誕生日ぱーてぃー…そうだ、真緒は皆からおめでとうと生まれてきたことを祝福されるのは当たり前で、想いの詰まったプレゼントが渡されるのが普通で、俺がこんなコンビニのケーキを持ってくるのは場違いだと瞬時に悟った。
そもそも、こんなよれたパーカーでジャージを履いた陰湿な人間が真緒の知り合いなんて真緒も恥ずかしいはずだ。
「じゃ、行こっか。」
俺の手を引いてマンションに入ろうとする凛月くんの手を離した。
「なまえ?」
「あ…お、俺、勝手にここに来ただけだから…」
「じゃあ寄ってけば?」
「い、いい…何も持ってないし…か、帰る。」
ビニール袋を揺らして踵を返そうとしたけど凛月くんの腕がそれを許してくれなかった。
「ちょっと待った。それでいいの…?」
凛月くんの赤い目が俺を見ている。
「……こ、これ真緒に渡して…ほしい」
凛月くんに持っていた白色のビニール袋を差し出す。
「コ、コンビニのケーキ買ったから…食べなくてもいいけど…お、おめでとう…って…」
「…なまえから貰ったらま〜くん嬉しいと思うけど?」
「い、いい…。」
しばらく無言で俺を見て凛月くんは突き出したままの腕からビニール袋を受け取ってくれた。
「本当にそれでいいの?」
「うん…。楽しんでね…じゃ、あ、またね凛月くん…」
凛月くんが持っている上品な紙袋の中は真緒へのプレゼントなのかもしれない。
俺の渡したビニール袋は明らかに安そうでそこら辺のコンビニで買ってきたとわかるような雰囲気を醸し出している。
あのケーキが入ったビニール袋は居心地が悪そうに凛月くんの腕にある。
それを確認してマンションから足早に遠ざかった。
携帯の電源は切って、電車に乗り込んだ。
外は真っ暗で、揺れる車内の窓ガラスには冴えない俺が反射していた。
別に俺からのおめでとうなんてなくてもいいし、俺からのバイトを始めるという報告だって真緒にとってはどうでもいい情報なのに、何をしようとしてたんだろうか俺は。
ひどく疲れて部屋に帰るとすぐに眠り込んだ。
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