押しの強い羽風薫×ぽちゃダサ男主
【来週土曜の夜うちに遊びにおいでよ〜】
家のなかでダラダラすごしていたらスマホにメッセージ画面が表示された。
誰からかと思ったら、差出人の欄には羽風薫。
「えぇ…」
薫くん、他の誰かと俺を間違えているんだろうか。
社会に出て数年。毎週休みは家に引きこもって外に出ることもせずパソコンかゲームとしか向き合っていない俺。
学生時代の友達なんて社会に出れば全て疎遠。
まぁ、もともと一人だったし友達と言える人も少ない。
おまけに俺はぽっちゃりでなおかつダサい。自分でもダサいという自覚はある。服だってあんまり持ってないしセンスもないし、仕方なく私事で外に出る時はその容姿のだらしなさとあまりのダサさが相まって街で女子高生から笑われたこともある。
ねー、あの人やばくない?絶対彼女とかできなさそうww
なんて後ろ指さされた時から俺は何にも期待してないし、人との交流も絶っている。
いいんだ、家にいて好きなことしてれば誰に何を言われることもないし楽だから。
いいんだ、いいんだと言い聞かせて俺は引きこもっているのに、このアイドルとして活躍している俺の幼なじみ、薫くんはたまに遊ぼうと行ってきたり、俺に会おうとしてくる。
小さな頃から知っているけど一緒だったのは中学までで、高校からなんて全く薫くんがどうなったか知らないのに薫くんは俺に連絡をとってくる。
だからといって俺から取ることは絶対ない。今や有名人の薫くんに俺から取ろうなんて全く思わないし、そもそもあまり外に出たくないし…。
とりあえず返信しとくか。
【薫くん、俺だよ。誰かと間違えてない?】
どうせ女の子とかに送ろうとしてたんじゃないかな。だって薫くん小さい時からすごくモテてたし。その隣にいる俺はいつも後ろ指さされていたけど。
だからだんだんそういう年頃になってからは自分から薫くんの近くに行かなくなったなぁ、なんて古いことを思い出していると、すぐに手の中のスマホがピコンと鳴った。
【間違えてないよー。おいでよ。】
「え…間違いじゃないの…」
スマホ片手にうーんと唸る。何で俺を誘うんだろう。薫くんと話すこととか何もない。俺は特に面白い話のネタもないし平日は黙って仕事して休みは引きこもってるぽちゃデブのダサ男なのに。
俺と薫くんが薫くんの家で話をしているところを想像してみた。
「ないな…。」
ありえない。想像できない。
【ごめん、来週土曜日予定があって難しい。】
【そう?じゃあ日曜は?】
【日曜日は…次の日仕事だから…】
あんまり外出たくないって伝われ…。あわよくば、俺なんかやめて他の人を誘ってほしい。
【えー、なまえいつも予定あるあるって言ってるけど予定ないよね?】
「えー…」
押しが強くて困る。
【俺より他の人誘ったら…?薫くんだったら、いっぱい行きたい人いると思うよ。】
うーん、こんな言い方悪かっただろうか。何こいつ、何様だって思われても可笑しくない。これを機にもう誘われることも連絡されることもなくなるかもしれないな。まぁいっか、俺と薫くん次元違うし。
ついに幼なじみの縁も終わったなぁなんてぼんやり思う。
【え、ひどくない?(笑) 俺はなまえと話したいんだよ?おいでよ、待ってるからさぁ】
【予定があるから…】
【じゃ、再来週は?】
【再来週も予定が…】
【嘘でしょ?(笑)】
「うう…」
こんなに頑なに拒否してても譲ろうとしない薫くんが本当に不思議だ。俺と話して何が楽しいのか…。
もう断りきれなさそうだ。
【他の人とか来る…?】
【え?呼ばないよ。】
【それなら…再来週なら行ける。】
【りょうかい♪俺の住所のせとくね。】
他の人が来るなら即行でやめようと思っていたけど1人なら、と頷いた。
万が一他の人が来たら、こんな俺が薫くんと知り合いだなんて知られたら薫くんの株も下がるし良くない。
それでもやっばり薫くんの家に行くには気が引けて、再来週が来なければいいなぁと少し思った。
***
薫くんとの約束の日までちょうど1週間。
薫くんには予定があると言って1度断った日だ。
今日も家でダラダラしながらパソコンをしていた。
色んな人の呟きを眺めていた。作ってるけど誰にも教えてないから誰にもフォローされていない俺の垢。
一方的にフォローだけして流れるタイムラインを眺めていると何の因果か、薫くんの投稿がリツイートされていた。
数日前の夜の投稿で、薫くんのアイドルユニットUNDEADのメンバーと自撮している写真が貼ってあった。
《皆で撮影なうー。朔間さん見切れてるw》
薫くんが持ったスマホに他のメンバーが顔を寄せて写っていて楽しそうだ。
それにしても顔面偏差値高いな…と思いつつ、薫くんのアカウントページに飛んでみた。
別にフォローするわけじゃないけど普段どんなことをツイートしてるのか気になってスクロールした。
どれもこれも何か楽しそうなのとかばかりで見ていて本当に次元の違いを感じる。
「うわ…リア充…」
海でサーフィンしている薫くんの写真、知らない誰かと写ってる写真、楽しそうな写真、見ているうちに何だか来週本当に薫くんと会うんだろうかと想像できなくなっていた。
何か…あまりにも自分と違いすぎて行きたくなくなってきた…。
薫くんの押しが強いから仕方なしでも行く気にはなっていたのに、今はもう完全に行く気が萎えて後退していた。
ああ…やっぱ断ろうかな…。行ってもこんなリア充してる薫くんに話すこと思いつかないし…。
スマホを取り出して薫くんとのメッセージ画面を開いた。
【薫くん、ごめん、来週仕事入ってちょっと行けなくなった。】
仕事なんて入ってないし嘘だけど断るには仕方ない。
【まじ?夜は?】
すぐに既読になって薫くんから返信が帰ってきた。けれど、もう俺には断るという選択肢しかなくてとにかく嘘に嘘に重ねて断る理由を考えた。
【夜もちょっと無理そう…。ごめん。】
【えー…楽しみにしてたのに超残念…。】
【ごめん。また次は俺から誘うね。】
思ってもないことを簡単に送る俺は最悪だろうか。絶対に、ぜっっったいに俺から誘うことなんてない。
ぽちゃデブダサ男の俺が薫くんを誘うってどんなだよ。
絶対会ったってリア充な薫くんを見るだけで、話すだけで自分が嫌になって楽しくなくなるのは目に見えてる。だってツイートみてる今でさえそうなってるんだから決まってるだろ。
【…うん、わかった。仕事なら仕方ないよね。】
少し心は痛んだけど、当日俺が嫌な思いするよりは今ここで自分を守ったほうがいいんだ。
正当化して俺は薫くんとのメッセージを終えた。
これでよかったんだよ、とまたいつものネットサーフィンに戻った。
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