会社の帰りにコンビニでお弁当を買って家に帰ってきたところでスマホに入っていたメッセージを開いた。
【来週土曜日のフェスに俺たち出ることになってさ♪一緒に回ろうよー】
「…え…」
薫くんから送られてきたURLを開くと、どうやら音楽フェスのホームページみたいで、毎年かなりの来場客で盛り上がっているらしい。
それと、俺とどんな関係があるんだろう。
レンジからチンと音がして弁当を取りに行った。
既読になってしまったメッセージをそのままに弁当にありついた。
「フェスって…」
想像しただけで全身が拒絶反応を起こした。
あんな人混みの中に行こうとも思わないし、行く気もない。
そもそも薫くんは俺と分かってこのメッセージを送っているんだろうか…。
何て返そうかと悩んでいるとふと視界に入ってきた緑にこの間の薫くんを思い出した。
薫くんがくれたサボテン。
あの日、汗だくの俺は薫くんの家にお邪魔してそのままシャワーを浴びて…そのまま泊まったんだ。
帰るって言ったのに半ば強制的にベッドに押し倒されて今日はここで寝てよなんて言われて…。
あの日の薫くんは少し変だった。薫くんは、本当に俺なんかに時間を費やして…時間の無駄じゃないんだろうか。
【そうなんだ、いっぱいお客さん来るね。頑張ってね。】
ぽちぽちと打った文を送信した。
そういうフェスとか…人混みは俺とは別世界だから。
食べ終わった弁当の空ゴミを捨てて、すぐにくる明日に備えてシャワーを浴びて布団に入った。
目を閉じればすぐに睡魔が襲ってきて、薫くんのメールのことは一気にどっかいってしまった。
朝起きて、第1にすることはスマホを確認すること。時間の確認も含めて寝ぼけ眼で画面を見た。
薫くんからメッセージが1件。
【来てよ。一緒にフェス回ろうよ。お店とかいっぱい出てるし。】
う…昨日のやつ続いてたんだ。
俺はてっきり返信してもう終わったものかと思っていたから薫くんのメッセージに戸惑った。
薫くんが何で俺と回ろうと言うのか本当に不思議だ。薫くんなら相手は沢山いるだろうに。
【ごめん、薫くんのアイドル姿見たかったけど、フェス行けないんだ。また今度、】
また今度って…なんだよ。また、なんてないのに。送る内容を考えながら、消して打ってまた消してを繰り返していた。
どういう風に断ったらいいのか迷っていると、まだこちらから返信してないのに薫くんから追加メッセージがきた。
【この間、俺が誘ったら断らないでって言ったよね?約束したじゃんー。断らないでよ。来てよ。】
薫くんからのメッセージを読んだ瞬間、うっ、と詰まりそうになった。
確かに…この間そんな話をした気がする…。
薫くんにサボテンもらったし…、家にお邪魔してしまったし…そう考えると俺は行かざるを得ないのか…?
いや、でもそんな…俺フェスなんて行ったことないし…。多分リア充みたいな人達がいっぱいいるんだろうっていう想像しかできない。
【ねえ?来てくれないの?】
薫くんがまた追加でメッセージを送ってきた。
「……はぁ…。」
多分ここで断ったらまた家に来たりとか、通勤前に出会したりして、後が大変そうだと想像して嫌だけど行くことにした。
【行くよ…。でも、俺フェスとか行ったことないからあんまりよくわかんないけど…】
【ほんとー!よかった!いーのいーの!楽しめば関係ないから!】
だからその楽しむっていうのができないんだよ…と一人で落胆した。
あっという間にフェス開催日当日。
晴天で屋外ライブには最高の天気なんだろうなと思いながら家を出た。
正直、外に出た瞬間部屋に戻りたくなったけど。
薫くんと約束してしまったから、行くしかない。今日はハンドタオルを手にしてフェス会場を目指した。
着いてみると、正直自分がフェスをなめてたのがわかった。
どこもかしこも人、人、人。
スピーカーから聞こえる重低音にどんどんと地面から振動が伝わってくる。
「…っ、」
周りを見れば、カップルや友達なのかグループが多い、中には家族連れも。
やばい、かなりアウェイだ…。
正直会場の中に入る前から、入口から見るだけでも人がすごい。
む、無理だ。こんな中を1人で歩いてステージまで行くなんて…。
薫くんたちの時間までまだ時間はあるし、ずっと1人でここで過ごすなんて…無理だよ…。
イマドキの人達がこぞって集まって楽しんでるようなこの空間で俺は自分が楽しめるわけないと思った。
…帰ろう。薫くんには申し訳ないけど…。
ここから先に、会場に入ることはできない。
ぎゅっと手を握りしめて踵を返して歩き出した。
会場から離れれば離れるほど音が小さくなって、静かになってほっとした。自分の心もだんだんと落ち着いていく。
結局家に帰って来てしまった俺はすぐに部屋着に着替えた。一気に安堵して、楽になった。
薫くんになんて言おう。行ったけど帰ったなんて言ったら…怒るだろうか。どうしようとスマホを握って考えていた。
するとスマホが震えて薫くんからメッセージがきた。
【なまえ、見てくれた?!ステージから探したけど見つけられなかった〜!あとちょっとで俺も回れるから、今どこにいる?】
「あ…、ライブ…終わったんだ」
薫くんたちのライブは終わったらしく、俺が家に帰ってるなんて思いもしない薫くんに俺は胸が痛くなった。
家に帰ってるなんて…言えない。フェスの会場に居づらくて帰ったなんて薫くんから軽蔑されるかもしれない。やっぱり陰湿でキモくてダサい人間なんだって思われるかも…。そう考えて、ますます胸が痛くて苦しい。
薫くんに…、嫌われたくない。
【見てたよ。お疲れ様。ごめん、ちょっと急用できたから帰ります。かっこよかったよ。】
咄嗟に見てないのに、見たなんて嘘をついてしまった。薫くんに落胆されたくなくて、悲しんで欲しくなくて。
見てない、薫くんのかっこいいアイドル姿なんて見てない。
それなのに嘘ついてまで見たなんていう自分に嫌気が指してじわりと目が熱くなった。
俺は駄目な人間だなあ。唯一と言えるほどの友達に嘘ついて、そんな自分に嫌になって。
膝に顔を埋めて自己嫌悪に浸っているとスマホが震えて電話の着信音が鳴り響いた。
薫くんからだった。
出ようか迷ったけど、ここで出ないと怪しまれると思い通話ボタンを押した。
「もしも「なまえ?!何で帰っちゃったの?」」
「…ごめん、急用ができて…」
「ええー…。すごく楽しみにしてたのに…。」
「ごめん…。」
「ステージ、見てくれた?どこで見てたの?見つからなかった。」
「…え、と…。影の方だったから…。」
スマホを握る手が震えそうになった。
「どこ?」
「え…あ、あんまり覚えてない…」
「……なまえ、本当に来てくれた…?」
「………、」
声が出なかった。やっぱり嘘なんてつくんじゃなかった。薫くんの声は俺を疑っている。
薫くんに俺が嘘つきで、1人でフェスも行けないような人間だと思われたかもしれない。
「…なまえ「ごめん…っ」
1言だけ謝って、通話ボタンを押して電話を終了させた。
プー、プー、プーと電話が切れた音がなり続けている。
すぐにスマホを電源を落とした。
きっと薫くんに、幻滅されただろう。
前までは薫くんから嫌われても、別世界の人だから別にいいや、なんて思っていた。
それなのに今では薫くんから嫌われてしまって、俺に唯一連絡を取って会ってくれていた幼なじみが消えてしまうと考えると不安で心細くて胸が痛かった。
← →
back