はぁ、暑い。

じめっとした熱気に体が熱くなる。

体の毛穴から出る汗が服を肌に貼り付けてさらに不快指数は上がった。

「…はぁ、はぁ…」

階段を登るたびに上がる心拍数がさらに息苦しくさせて呼吸も早くなる。

何でこんなことになっているんだろう。

薫くんに呼び出されて、俺は今歩き回っている。
それは数時間前のことで休日なのにいきなり1本の電話がかかってきたことから始まる。

俺の電話なんて仕事の関係以外ではめったに鳴ることなんてない。誰からだろうと思うと表示は薫くんからだったから出るのに戸惑ったけど、ずっと鳴り響くものだから何かあったのかもと思って出てしまった。

「……もしもし。」
「やっほ〜♪今家にいる?」
「……うん。」
「よかった、今から言うところに来てよ。」
「え?」
「○○駅降りてすぐのお店。」
「ぇ、いや、」

その場所って人が沢山いるし、賑やかで出歩きたくないところだ。人通りが多い中で歩くなんて嫌だ。それに外は暑そうだし…。薫くんがいきなり俺を呼ぶ理由が分からないけど断りたかった。

「何か用事でもあるの?」
「…や、…ちょっと今日は無理…。」
「え?なんで?」
「……色々用事があって」
「なに?」
「………」

なんの用事かなんていきなり聞かれて答えられるほど俺は嘘が上手くない。

「っ、き、今日はともだ」
「なまえに友達いないじゃん、」
「っ……。」
「じゃ、待ってるね〜」

言い返せなくて言葉に詰まっていると一方的に切られた。そのあとすぐに薫くんからメッセージが届いて、場所の詳細が乗っていた。

【来てくれないと俺傷つくよ〜(´pωq`)】

そんなメッセージを見て、はぁとため息をついた。

薫くんはこんな俺でも幼なじみでいてくれるから、こんな俺でも大人になっても声かけてくれるから、なんて言い聞かせて薫くんの要望を飲み込んで俺は頑張ることにした。

外は暑そうだからTシャツを来た。無地のTシャツ。半袖から出た腕は締りのない厚い肌、いや肉に覆われている。

それから俺は駅に向かって歩いて、電車に乗ったわけだ。それだけで汗だくで首筋に汗が滲み出た。

ハンカチなんて持ってなくて手で拭うしかない。
びしょびしょだと思っていると、電車の中で近くにいた女性が眉間にシワを寄せて俺から離れた。

「…っ」

だから、嫌だったんだ。外に出るなんて。
ハンカチ持ってくればよかった。いや、外に出なければよかった。家に引きこもって、室内で安全に生活すればこんな思いしなくてすむのに。

汗はなかなか引いてくれなくて、火照る俺の顔は赤いだろう。そんなところも全部気持ち悪がられるのかもしれない。

早く、早く電車から降りたいと願った。


目的の駅についてすぐに降りた。
薫くんは駅降りて近くって言ったけど結構離れていてすごく歩くはめになった。

はぁはぁと歩くたびに汗が吹き出る。こんな苦しい思いするくらいならこのままやっぱり帰ってしまおうかと本気で思った。

薫くんが指定したお店は小さなお花屋さんとカフェが合体したような女性に人気がありそうなところだった。

どう考えても小太りの俺が入れそうなところじゃない。お店の入口で立ち尽くした。

出入りする女性達の目が痛いし、どう見ても男はいなさそうだ。もしかしたら薫くんのいたずらなのかもしれない。

俺がいつも薫くんの誘いを断るから、調子乗るなって俺に仕返しとか…。

もう帰ってしまおうか、と肌に引っ付いた服を引っ張り風を作った。

スマホを一応確認して、ベタつく首元を拭う。

帰ろう。

何年も前から使っている汚れたスニーカーを見ながらまた元きた道を戻ろうと足を踏み出した。

「なまえっ」

聞き覚えのある声に振り向いたら、サングラスをしても容姿端麗だと分かるぐらいの人がいて誰ですかなんて聞かなくても薫くんだと分かった。

「薫くん…」

「ちょっとちょっと、何帰ろうとしてるの」

「…、ここ…」

「ここ、最近できたところでさ!やっぱこういうとこ押さえとかないと、ね?」

だからって何で俺を呼ぶんだろう。

「…あんまり入りたくない。」

ちらりとお店の中を見て言った。あんな女性だらけの中に汗だくの俺が入ったらさっきの電車みたいにしかめっ面されるのが落ちだ。

「え〜、せっかく来たのに。さっきまで女の子たちとお茶しててさ」

薫くんの言葉に俺の高まっていた不快指数がさらに上がった。
女の子たちとお茶してたんなら俺を呼ばなきゃいいのに。汗だくの俺と花に囲まれた女の子たちなら薫くんなら迷わず女の子を選ぶだろうに。

「…ってなまえ聞いてる?」

「……帰る。」

正直足は疲れたし、お腹も空いたしここまで来るのに体力を使いすぎてヘトヘトだ。デスクワークの俺にとってはキツかった。

それでも動きたくないと重たい足に鞭打って歩き始めた。

「ええー、せっかく来たのに…仕方ないなー」

何も返さず歩き始めた俺を見て薫くんは急いで中に入っていった。どうせ女の子たちとまたお茶でも再開するんだろう。

俺はまたはぁはぁと息が上がるのを感じながら歩いた。

早く帰って汗を流して疲れを取りたい。薫くんはいつも気まぐれだ。ころころ変わるのなんて分かってる。


「はぁ…はぁ…」

「なまえ速いね」

気づいたら店の中に戻って行ったはずの薫くんが俺の横について歩いていた。

「せっかく2人で選んだり、色々見ようと思ったのにさぁ、入らないから買ってきちゃった。ま、いっか。俺からのプレゼントってことで。」

センスが良さげな紙袋を持って薫くんは笑った。
俺は必死で足を動かしているのに、薫くんはゆったりと歩いていて全く息が上がっていないし汗ひとつかいていない。

「この間なまえの部屋に言った時、何かが足りないって思ってさ♪やっぱり緑が必要でしょ?中身は俺の部屋に戻ってからのお楽しみ♪」
「……俺はこのまま帰るよ」
「なんで?」
「…汗かいたし、もう帰りたい。」
「俺の部屋に来ればいいじゃん♪」
「…いや…。早く自分の部屋に戻ってお風呂に入りたいんだ。」
「だから〜俺のとこでお風呂入れば?」
「…いや、」
「決定〜いこいこ。あ、車あるからこっちね」

真っ直ぐ歩いていた俺の腕を薫くんがぐんっと横に引っ張った。

汗だくで俺の腕は湿っている。
触らないでほしい。きっと薫くんだって気持ち悪く思ってるはずだ。

「薫くん、離して。」
「やだ。」
「俺…今汗ひどいから」
「関係ない。」
「汚いし、」
「関係ないってば。」

俺の腕をさらに強く握って薫くんは先を行く。
握っている薫くんの指のあいだから俺の腕の肉がぷくりと膨らんでいる。

それを見ていると、薫くんの車についてしまって。無理やり助手席に座らされた。高そうな車だし、俺は全身汗だくでズボンまで湿っているんだ。そんな状態で触り心地のいいシーツに座るなんてできない。ベタついた肌に湿った服の俺が汗ひとつかいてない薫くんと同じ空間にいるなんて…。


「お、俺、電車で帰る…」
「だめ」
「ほんと、に、汗かいてて、汚い…」
「汚くないって」

すこしイラついたように言った薫くんは車から出ようとした俺を引っ張り戻して、俺の首にぴとりと手を這わせた。

少し冷たい薫くんの指先にビクリと肩が揺れる。ベタついて吸い付くような肌に触れて薫くんは気持ちわるくないんだろうか。

「汚くないよ。なまえのどこが汚いの。」
「…ベタつくし、汗臭い…」

そう言ったら、サングラスを外した薫くんが近づいてきたから必死で突っぱねたのに全然効かなくて薫くんの顔が俺の首元に埋まった。

「いい匂い。」

首元で話さないでほしい、息が吹きかかって少し涼しく感じる。ぞわりとする感覚に、ちゅ、という音ともに柔らかい感触があった。

薫くんが頭を上げて笑った。
今度は薫くんがした行為に俺はびっくりして一気に汗が吹き出す感覚に襲われた。

「な、なに…」
「好きな匂いだから、何か触りたくて」

その顔で何人の女の子たちを落としてきたんだろうってくらい余裕綽々で俺を見る薫くんは色めいていて、俺が初めてみた薫くんの顔だった。



よし、早く俺の部屋に言ってさっぱりしよーね、

と言って薫くんは理解できていない俺を放って、車を発進させる。
薫くんに触れられたところが熱くてたまらなかった。

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