クリスマスver
『いや〜、今日は遊んだ遊んだ…』

クリスマスイブというこの日に恋人がいない者同士ではしゃいで遊びまくった俺は早く家にたどり着きたいと思いながら暗い道をとぼとぼ歩いている。

詳しく言うと、遊んだのはアドニスや大神、途中参戦で明星や遊木、ついには氷鷹、転校生まで来てわいのわいのお祭り状態だった。

久しぶりにあんなにはしゃいだなあと遊び疲れた体が重たいが不快な気分ではなく逆に少し心地いい気さえする。

どうせ何も予定がなければクリスマスイブに一人で過ごすはずだったしよかっただろうと自分に言い聞かせながら歩いていると、自宅の玄関近くに誰かが立っているのが見えた。

コートを羽織っていて、背が高い。
不審者かと焦って足を止めて近くの影に体を潜めた。

暗いからよく見えない。目を凝らしても全くだめだ。俺の家に入るためには横を通らないといけないが、とりあえず他人の振りをして素通りしてみるか。

恐る恐る踏み出した足を進めて、自分の家に近づく。
近づくにつれて、立っている男の外観が分かってきた。髪は少し長くウェーブしている、俺の家を見上げている視線の先は、俺の部屋か。
また明かりがついていない俺の部屋は、部屋の主が帰ってきてないことを表している。

とにかくこの男がいると帰るものも帰れないんだけど…と男の近くを通る瞬間、チラッと見てみれば真っ黒な髪から覗く目は真っ赤な瞳だった。

あれ…

『さ、朔間先輩…?』

なんだ、朔間先輩じゃないか。無駄にビビってしまったと、少し緊張していた体が解れた。

俺に気づいた朔間先輩はゆっくりとこちらに足を向けた。

『どうしたんですか、こんな寒い中。いくら夜と言えどもこの寒さじゃ朔間先輩も風邪引きますよ?』

この人は何用でここに来たんだと背の高い朔間先輩を見上げれば、そこには少し怒ったような冷えた目と合致した。

「…どこに行っておったんじゃ。」

いつもより低い声に少しドキッとする。

『え?どこって…友達と遊んでましたけど…』

「…我輩との約束を破って、か。」

『…え?約束?』

朔間先輩との約束なんてしてたか?いや、してたら絶対に忘れるはずはない。それこそ忘れでもしたら痛い目を見るのは自分だからだ。

「先週、我輩と出かけると話したはずじゃが。」

『あ…、あー…。話しましたけど…その後、何か3年の先輩と色々話してどっか行くって言ってませんでしたか…?てっきり今日はそっちに参加するのかと…思って…』

先週の朔間先輩との会話を思い出す。
そうだ、俺がクリスマスイブなんて予定があるわけないとぶつぶつ言っていると、朔間先輩が出かけようと言い出したんだ。

クリスマスケーキを買って食べよう、寒いけどクリスマスツリーも見に行こう、そんで俺の部屋で過ごそうと笑いながら言っていたんだった。

先輩が楽しそうに言うものだから俺もはいはい、なんて2つ返事で返してたけど、その後3年の先輩が来てクリスマスの予定を話していたから俺はてっきり3年の先輩達と遊ぶのかと思っていたのに…

「なまえと過ごさないとは言ってない。」

『え、ええっ…じゃ、じゃあ今日俺と過ごす予定だったんですか…?』

うわあ…俺この立場だと、ただの約束破って、ほかの友達と遊びまくった最低な奴じゃないか…。

目の前の朔間先輩は夜には必要の無い日傘を持っていて、昼間から出かける気だったことが伺える。

いったいいつからここにいたんだろう、こんな寒い中ずっと立っていると指先だって感覚がないはずだ。

『さ、朔間先輩…すみません…。』

なんだか全て俺のせいっていうことになってる気がして若干腑に落ちないが、目の前の朔間先輩がいつもは俺に当たってひどいことばっか言ってくるくせに、今は健気に思えて少し可愛いと思ってしまった。

『さ、寒かったですよね…』

俺の手も冷えてるかもしれないけど…と朔間先輩の手を取れば、氷を触っているかのようにつめたくて思わず息が止まりそうになった。

『つ、つめた…!』

両手で温めるように包んで、とりあえず家の中に入りましょうと促す。

『本当なんかすいません…。早く部屋の中で暖まりましょう。…朔間先輩?』

「寒い中なまえは楽しく遊んでいたんじゃろう?」

『すみませんって…。本当に謝りますから…』

朔間先輩に向き直って、見上げてごめんなさい、と謝る。

「…なまえがそこまで言うなら許してやろうかの…」

返事を聞いてホッとしたのもつかの間で、伏せていた目をあげた朔間先輩はあろうことか冷たすぎるその手を服をまくり上げて俺の腹にぴたりと這わしてきた。

「…なんて言うとでも思ったのかよ、ばーか」

『〜〜〜〜!!つめた!い!…ヒッ!せ、先輩っ!』

「ああ?こんな時間まで待たせやがって…覚悟は出来てるんだろうなあ?なまえちゃん」

完全に目が据わってるんですけど…!ニヤリと笑って動かされている手に必死で抵抗する。

『え、いや、え、ちょっと…』

朔間先輩の手に吸い取られるように奪われた体温はもう戻ってこない。

おかげで少し温かくなった朔間先輩の手にガシリと掴まれて、俺の家とは違う方向へ引っ張られる。

『え、どこ行くんですか、えっ?!』

「ん〜、なまえの理性がなくなるところかのう♪」

『えっ?!ええっ?!いや、ええええ!』

今日は聖なるクリスマスイブ。
朔間先輩を怒らせてしまった俺はズルズルと吸血鬼の住処へ引きずり込まれ、全く聖なることとは異なることを行わされたというかなんというか…

まあ、朔間先輩を怒らせると良くないということが散々思い知らされた日だったことは間違いなかった。


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