日常のお話�@
夜なら練習できるんじゃね?と画策した結果。

俺は夜の誰もいないレッスン室でダンス練習をしていた。

ひょこっと覗いたら誰もいないレッスン室があったから立ち入りさせてもらったのだ。

適当に音楽をかけながら振りを合わせて練習する。

やっぱ鏡があるとわかりやすくていいなあと一人で何曲か踊ったところでドアが開く音がした。

やばい、利用者いたのか?!と思って振り向く。



「おい〜っす。」

『なんだ凛月かよ…』

「なに?俺じゃ悪かった?」

『違う違う。ここ、空いてたから使っててさ、もしかして借りてる人いたのかな、って焦ったわ〜』

「明かりがついてるから来てみたんだよね〜」

『はいはい、夜は活動的で良いことですね〜』

凛月なら、と安心してまた音楽をかけた。

時に口ずさみながらタップしていると凛月がいきなり曲を止めた。

『え、なに?』

「キレが甘い。ていうかもっと足、しっかりつけて。」

『…指導スイッチ入った?』

「ふふん♪夜だし気分もいいから俺が教えてあげるよ〜」

確かに凛月はダンスも俺より断然上手い。
教えてもらえるならありがたいと思い早速お願いした。

『そう?ありがと。じゃ見てもらっていい?』

「いいよ〜何の曲?」

『多分有名だから知ってると思う』

俺が再生したのは今、人気な有名曲で女性ボーカルのものだった。

『これ、動画サイトでも踊ってる人多くて、俺も練習がてら踊ろうと思ってさ〜。結構難しいダンスじゃん?』

「確かにね〜表現力の問題じゃない?」


まあとりあえず踊ってみてよ、と言われてアップテンポなその曲を再生した。

出だしから一気にスピードを求められる動きに遅れないように体を動かす。

『〜♪〜もっと、欲しがってよ〜Ah…〜』

サビを口ずさみながら気持ちを乗せて踊っているつもりなのに凛月の表情はじっと俺を見ているだけ。

うわあ、これ駄目かなあ、と思っていると案の定曲を止められた。

「これってさぁ、色気全開で踊らないと合わないでしょ。」

『ん〜、まあね…。そういう曲だしな』

「なんか今のはただ普通に踊ってるって感じ。」

『…というと…?』

「もっと腰振れっつってんの。」

ニコニコと笑いながら口調が恐ろしい凛月に、ああやばいやっぱこれ本格的に指導スイッチ入ってるなと確信した。

「あんなんじゃ全然エロくないし。もっと首傾げるとき上目遣いでさぁ、頭の中でなまえの思う色気を想像してみたら?」

『色気…。』

確かにこの色っぽくてかっこいい曲には自分の恥を捨てて解放する気でいかないと表現できない。

『んー、も1回。ちょっとやってみる。』

もう一度降り出しから曲を再生してもらう。

曲に合わせて、今度は腰の振り、手の位置、目線、しなやかさを意識して踊る。

「ん〜そうそう、近づいてきてる。」

『〜♪〜、〜』

「今ずれた。はい、そこミス。」

『〜♪ ♪』

「もっと腰振らないと分かりにくい。」

凛月の容赦ない声に焦りながら何とか踊り終えた俺は汗だくになっていた。

『は、きつ…。』
「さっきよりはマシだけどまだ足りないよねぇ」
『ちょっと時間ちょうだい。』

凛月から少し時間をもらって自分のミスったところを再確認した。

よし、これで最後にしようともう1回凛月に見てもらおうとしているとドアの方から音がした。

「あれ?凛月、なまえ、何してんだ?」

「お、ま〜くんおっつ〜」

『おー、ダンスの練習してる。』

入ってきたのは真緒だった。

「はい、じゃーもう1回。」

『え、まじ。早くね?息整ってな、あ、ちょ、』

俺の言い分なんて聞かずに曲を再生した凛月を少し睨む。

「誘ってみせてよ。ダンスで。それが出来なきゃ踊れてないのと一緒。」

めちゃめちゃ上から目線にムッとしたけど凛月の言う通りだから本気で踊ってやる。

身体中の神経全部に意識を張り巡らして集中して…

真緒が「あ、これ今流行ってる曲じゃん」なんて言って口ずさみ始めた。

『Ooh...oh....♪見ててよっ、one two..♪』

絶対凛月に認めてもらうんだと、身振りも大きくする。

真緒の足が小刻みにタンタンとリズム打ってるのがちらりと目に入った。

「……。」

それをちらりと凛月が見た瞬間、真緒はリズムに乗っていた体をはね上げて俺の隣にきた。

「俺も踊ろ〜っと。」

え、真緒このダンス知ってたのか?!ってぐらいタイミングよく踊り出してもはやダンスバトルかってぐらい楽しくなってきた。

さすがキレのいいダンスをする真緒に負けてられないと頬を伝う汗を感じながら最後まで踊りきった。

「ん〜エロかったよ♪上等♪」

『うはぁ〜〜、まじスパルタ…、足ガクブルってんだけど…』

「あ〜楽しかった!やっぱ授業とかでやるのとは違う面白さがあるよな〜なまえこの曲好きなんだ?」

『お〜何かあのリズムよくね?』

「確かに。」

汗をタオルで拭きあげながらそろそろ戸締りして帰らないとなあと片付ける準備をしようとふと顔を上げたら、ドアのところに人影を見つけて固まった。

『ひっ…』

「…なまえ?どした?」

『ド、ドア…』

「……えっ!」

真緒も肩をビクリとさせた。暗い廊下に立つ真っ黒な人影…。

怖くなって凛月と真緒を見た。

「……ちょっと待って。あれ…兄者じゃない…?」

目を凝らした凛月が眉間に皺を寄せた。

『え…?』

もう1回ドアの方を見た。ドアのガラス部分から手をひらひらと降っているのが見えた。

それからドアを開けて入ってきたのは凛月の言う通り朔間先輩だった。

『さ、朔間先輩かぁ…』

ほっと胸を撫で下ろしたらどっと疲れがきた。

「なまえが誘うような踊りで腰を振っておるもんじゃから、他の人間が見ていないか見張りをしてやろうと思ってのう♪」

「チッ、変態兄者め…」

『いや、別に誰が見ても関係ないですよ…』

「凛月でもいいが、我輩に言えば個別レッスンしてやったのにのう。」

はて、何で我輩に言わないんじゃろ?と首を傾げながら朔間先輩は腕を組んだ。

『いや、朔間先輩に言ったら練習にならないじゃないですか。』

「はて?」

『飽きた、とかもう眠たいとか、言って俺のこと見てくれないし凛月に教えてもらった方が合理的っていうか…』

「そうだよね〜♪なまえはよく分かってる♪」

「ううむ…よく理解できぬからちょっと個人面談が必要じゃのう。」

ぐい、と朔間先輩は俺の湿った腕をとった。

俺は汗だくなのに朔間先輩は平気な顔で俺を引きずる。

『え、え?ちょ、ちょっと、』

勢いで自分のカバンを取った。

「じゃまた明日ね〜」

「おやすみ〜」

凛月と真緒は俺にひらひらと手を振った。

俺が助けろよ!という顔をしたのに2人はもう雑談をし始めているし、俺は朔間先輩にずいずいと引っ張られていく。

『ええーー…俺もう帰りたいんですけど…』

朔間先輩は顔だけちらりと振り向いて言った。

「夜はまだこれからじゃ。夜闇の個人レッスンと行こうではないか♪」

ああ、また朔間先輩に振り回される…。

明日は筋肉痛と寝不足だなと覚悟して俺は脱力した。


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