07
朔間先輩の部屋に通された俺はとりあえずカバンを置いてぼーっと立っていると、何かを手渡されそこに座れと言われた。

いつ来ても広いなあと思いながら、テレビの前にあるソファに座る。

『朔間先輩…、なんですかこれ』

朔間先輩から手渡されたものに顔をしかめて呟く。

「見てわからぬか?」

『いや…わかるけど…』

俺の手にあるのは、おどろおどろしい顔をした霊がうつっている和風ホラーのDVDだ。

『ホラー映画…?』

「そうじゃ。ホラー鑑賞会じゃよ♪」

『ええ…観るのいやなんで俺帰ります。』

「帰らせんぞ。」

『いっ!』

Uターンしようとした俺をがっしりと掴んで微笑むこの人には本当に振り回される。しかも掴む力が強くて地味に痛いのはいつものことだ。

『俺がホラー苦手だって知ってるでしょう?』

「だから、じゃよ♪」

うわあ…この人確信犯かよおお…と一気に沈んだ俺とは裏腹にDVDをセットして部屋のカーテンを全て閉め切った朔間先輩は暗い中、俺の隣に腰掛けて事前に準備していたのかトマトジュースをコクリと飲んでいる。

『用意周到…』

「…何か聞こえたかのう?」

嫌味のように聞こえたかもしれないが、苦手なホラーを無理やり見せられる俺は被害者である。

しかし朔間先輩の言う通りにしないと倍返しを食らうだけなので、せめてもの抵抗にスクールバッグからノートと課題集を取り出してテーブルに広げてやった。

「今から見るのに何をしておるんじゃ」

『何って見てわからないんですか?』

先ほどDVDを渡されたときのように同じ言葉をそっくりそのまま返してみれば、朔間先輩がかなり鋭い視線で睨んでくるものだから即後悔した。

トマトジュースのストローを咥えたまま真紅色の目をじろりとこちらを向ける朔間先輩が恐ろしくて目を逸らしたいが、先輩の片手が両頬をむんずと掴んでいるせいで顔が固定されて逃げられない。

『じょ、冗談です…。』

俺はホラーよりあなたの方が怖いんですけど、と心の底から伝えたい。

「…わかればよいぞ。」

やっと解放してくれた朔間先輩はホラー映画の再生ボタンを押した。


***


暗い部屋の中、男2人で並んで座って映画鑑賞って凛月に見られたら何て言われることか…。

映画も中盤に差し掛かる頃、ストーリー的にも最高潮に達してきていて、そろそろものすごく怖いやつがいきなり画面に現れるんじゃないかと構えている。

妙に緊張してきて、画面から目を逸らしたいのになぜかガン見してしまうのをどうにかしたいくらいだ。

「なまえ、音がする度にビクビクしておるぞ」

『…してないです。』

「ククク、本当にホラーが苦手じゃのう。」

強がって恐怖に必死に抗っている俺とは反対に全く怖くないようで平気で見ている朔間先輩は楽しそうに俺を見ている。

どうせ、怖がってる俺を見て楽しんでるんだろう…。全く悪趣味だ。

「ほれ、そんなに怖いならこうしてやろう。」

画面に迫り来る恐怖に身を構えて固くなっていると、いきなり視界が暗くなった。

目の周りに広がる温かい感触に、朔間先輩が両手で俺の目を覆っているのがわかった。

視界を塞がれて見えないのは助かったが、音が余計にリアルに聞こえる。

静かに音だけを聞いていると、この体勢にだんだん恐怖の緊張とは違う何か別のものが腹にこみ上げてくる気がしてきた。

触れている朔間先輩の手とか、近くにある朔間先輩の体とか、妙に意識してしまう自分がいる。なんでこんなことにドキドキしているんだろうか。

『っ、朔間先輩もう離して…』

「…ほれ。」

早急にこの朔間先輩から距離を取らないと、このままでは自分がおかしくなってしまうと感じた俺は離してもらうよう声をかけた。

すんなりお願いを聞いてくれた朔間先輩の手が離れた瞬間、テレビの画面には最高に恐ろしい顔のドアップと金切り声が部屋に響いて、油断していた俺は完全にやられてしまった。

『うわっ!!!』

完全にビビって、 俺も大声を発していた。
気がつけば、朔間先輩にしがみついていて距離を取るために離してもらったのに自分から密着している様だ。

とにかく近くにあるものにしがみつきたい衝動にかられたのか、俺の手は朔間先輩の腕をしっかりと握って、体を縮こまらせて朔間先輩に縋っていた。

『う、うわ、す、すみません!』

最悪だ!朔間先輩にこんな情けないところを見られるなんて…。

パッと急いで手を離して、距離をとると、自分の頬に熱が広がる感覚がした。暗い部屋の中でよかったと、安堵した。情けないところを見られた挙句、火照った顔まで見られたら俺はいたたまれない。

密着して触れていた場所がまだ温もりを残している気がしてそっと手で触れていると、パッと照明がついて一気に室内が明るくなった。

反射的に朔間先輩を見ると、足を組んでいる朔間先輩はこちらを見て楽しそうにニヤリと笑っている。

あ、俺まだ顔が赤いままだ。

「どうしたんじゃ。なまえ顔が真っ赤じゃよ」

最後は囁くように言った朔間先輩がずいっと近づいてきた。

『み、見ないでください…!』

こんな暴君に自分の駄目な姿を見られただけでも嫌なのに、からかわれるなんてもってのほかだ、と恥ずかしすぎて腕で顔を覆うも、朔間先輩に無理やり腕を下ろされた。

『…いつも以上に質が悪いですよ…。』

人の恥ずかしがるところを見て楽しむ悪趣味なこの人に、いい加減怒りますよという意を込めて少し睨む。

「ククク、そそるのう。」

俺をソファに押し倒した朔間先輩にされるがままに真っ赤な目で見下ろされて、俺の顔はさらに赤くなる。

『いや、意味がわかんな…』

もうそれどころじゃないんですよ朔間先輩。
恥ずかしすぎて頭がぐるぐるなんです。

近づいてくる朔間先輩の顔にどうすることもできなくて、目を瞑るしかなかった。


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