私たちの部屋が散らかる理由
「あ、懐かしい」
数年前から目にしていないそれを見て、思わず声を上げた。背中に大好きな彼の「ん?」と問いかける声が投げられて、振り返って懐かしい洋服を見せる。
「見て! 昔の制服!」
「お、マジで?」
「そう! 高校の」
そう言うと、彼氏である怜王は紫色の髪の毛をはためかせながら、目を輝かせて私の方へ寄ってくる。
たった今、二人の寝室の整理をしていたのだが、クローゼットの奥から高校時代の制服が出てきたのだ。黒のブレザー、カッターシャツ、ピンクのリボン、チェックのスカート――、今見るとなかなか可愛いかも。
「へぇ、俺のとこと全然違うな」
「そっか、怜王は白色だもんね」
「おー……」
どこか心ここに在らず、といった様子の彼は、そう話している間もブレザーやスカートを摘んで、「チェックかわいい」「すげぇ」などと一人で呟いている。
なんか、嫌な予感がする、かも。
「へへ……うわぁ、今来たら絶対短いなぁ」
と言うのも、私は今もなお身長が伸び続けているのだ。元々女性にしては高めだった体躯が伸び続けても気にせずにいられるのは、どんな私でも愛してくれる怜王のおかげだろう。
「そんな事ねぇだろ」
「ん〜、そう?」
これは着るフラグでは?と怯えながら、曖昧に笑って返事を返す。この選択は、選ばれしエゴイストである彼相手には悪手でしかないのだが――。そんなことを頭の片隅で考えていると、いつの間にか横にくっついていた彼に「な、」と耳元で息をふきかけられる。
「着てみろよ」
「っ、ひ」
「なー、名前?」
弱い部分で形の良い唇を動かされて、思わず肩が跳ねた。そうされると、私は何も断れなくなる。
「ぅ……」
もちろん、怜王もそのことは知っているはずだ。
ヒラヒラと揺れるスカートが気持ち悪い。スカートを履かないわけではないけれど、この年になるとロング丈が多い。高校時代でも膝あたりだったプリーツスカートが、今では膝上を限界突破している。
「……かわいい」
「そ!? ありがとね!」
こうなりゃヤケクソだ。意外といけてるんじゃない?くらいの気持ちで腰に手を当てて仁王立ちをする。
「うん。ほんと……かわいい」
目の前にいた怜王は、気のせいか夜を思い出させる目で私に近づいてくる。キスをする直前くらいの距離で、ジィっと目を合わせられる。
「え、と……」
「いいから、動くなって」
何がいいから⁉︎ 身の危険を感じるんですが⁉︎
「ひぇ、ぁ」
馬鹿正直にその場に突っ立っていると、するりと太ももを撫でられた。どこに興奮ポイントがあるのか、頭の上から熱い息が吹き落とされた。
「いいな、これ」
「あ、はは……じゃぁ、着替えるから……」
部屋でてって、と言おうとした口は見事に彼に塞がれた。
「んぐ、」
色気もあったもんじゃない呻き声をあげて、必死に彼の唇を受け止める。息をしようとすると、開いた口に大きな舌が入り込んできて、また呼吸が苦しくなる。あ、これ、やばいやつだ。くるしい。力の入らない手でドン、と厚い胸板を叩く。
「ン、……待って……!」
「だーめ、待たねぇよ」
非情にそう言い放って、私を優しくベットに横たわらせる。あぁ、なんで制服ってみんな好きなの。なんで寝室に置いてあるの、私! でも怜王の制服姿も見てみたいな……、今度お願いしよ。
「こら、なに考えてんだよ」
「ん、……いや、れおの制服姿も見たいなあ、って」
「……それは、次回のお誘い?」
「あっ、ちが……」
「はは、うれしー」
無邪気に笑いながらも、一つ一つシャツのボタンを外していく怜王が、まるで悪魔のように見えた。とにかく、部屋の整理をするはずだったその日は、余計に部屋が散らかったとだけ言っておく。
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