Lesson1


「お願い、サブロくんしか頼めないの」
 そう女史に言われて断れる男がいるか? 否! とサブロは心の中で叫んだ。目の前にいる彼女は同じ師団、同じ問題児クラスの女生徒である。同じく魔王に心惹かれ、聡明な彼女の話は興味深く、互いに一番親しくしている異性であろう。サブロには、そんな彼女の願いを拒否することはできない。だから、詳しい話を聞く前に胸を張って応えた。
「うむ、任せておけ!」
 それに、この依頼は彼女の色恋がかかっているのだから。
 
 それは数日前のことだった。選択科目前の休み時間、自然と同じ科目を取った生徒たちが固まって教室へ向かう。サブロはそこで、大勢の女生徒に埋もれる彼女を見つけた。一瞬「はて?」と思いながら声をかける。
「ヌシもサキュバス誘惑学をとったのか」
「へっ、ぁ、うん!」
 そういったイメージがない、というと失礼だが勉学に秀でた彼女は座学を取るのだろう、と思っていた。しかし彼女も年頃の女性だ。好きな男の一人や二人はいるのかもしれんな。いや、二人いるのは問題かもしれんが。そんなことを考えながら「色恋なら次期魔王である己に頼れ」と続けようとした時、何故か慌てたようにジャズが会話に入ってくる。
「女子はみんな好きだよなぁ?」
 何故か彼女も慌てたようにジャズの方を向いて、こくこくと頷いた。心なしか、頬が赤く染っているような気もする。その時、頭の上にドカンと稲妻が落ちた。
 ──ジャズが好きなのか!! 有りうる!!
 なるほど、確かに二人は似合いのカップルかもしれんな。と独りごちる。それ以降、サブロはひっそりと級友の色恋を応援している。本人に「ジャズが好きなのだろう」と聞くのも野暮というもの。己はこの戦いを応援するぞ! ……と、激しい思い込みをして。

 そう固く心に決めた日を思い出しながら、サブロは彼女に向き直った。俯きながらも瞳はまっすぐと彼のことを見つめている。彼女のそういうところがサブロは好ましいと思っている。
「サキュバス誘惑学でね、その、宿題があって」
 辿々しく紡がれる言葉を追っていくと、その宿題とは異性と手を繋ぐ、といったものだった。
「そんなことか!」
 友人と手を繋ぐなど恥ずかしがる必要はないではないか。しかし、己に頼むとは彼女も自身のことを一番の友人と認めているようで誇らしくなる。手を差し出すと、初めて見る魔獣に触れるようにおずおずと握られた。同じ悪魔だとは信じられないほど小さく、柔らかな手だ。
「わ、おっきいね」
 花が咲くように笑う彼女を見ると、こちらまで幸せな気分になる。あたたかな手を強く握りながら、サブロは目を細めた。ジャズは世話焼きなところがあるからな、彼女はピッタリだろう!

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