卒業後設定
ちゅう、と肌に吸い付く感覚。私の倍ほどある身体を器用に折り曲げて覆いかぶさられる瞬間。到底勝つことのできない男に全てをさらけ出すとき、とてつもなく感情が高まる。金色の髪の毛は暗い部屋でも輝いて、瞳がぎらぎらと魔獣のように私を捕食する。は、と息をついて目を閉じる。瞼に浮かぶのは、現実に起こるはずもない妄想だ。
「もう何年になるのかしら」
そうあの頃と変わらない美しい笑顔で圧をかけるのは、同じ教室で六年間過ごしたエリザペッタだ。
「私もそう思うよ……」
私とサブロくんが付き合ってから数年、世間一般的には同棲をしててもおかしくないくらい。私は未だに、サブロくんに抱いてもらえずにいる。
「待ってるだけじゃだめ。積極的な女性は素敵よ?」
確かに、サブロくんはたいそう慎重派だ。初めて唇を合わせた時だって、目を閉じてから何秒か待って、サブロくんのうめき声が聞こえて。何があったと思って目を開けたら、顔の角度に悩んでいたらしい。
そして、私はそれに負けず劣らずの臆病者である。自分からキスをするのも、半日悩んで彼が寝ている間にこっそりしたし、抱き着くのも大きな身体に触れるのも勇気がいる。でも、サブロくんが近くに来る度にひっついて、愛をささやいて、唇を押し付けて、最後は彼に滅茶苦茶にされたいと思うのだ。
「殿方はね、私たちが思う以上に単純よ。脱ぎなさいな」
「はい?」
聞き間違いかと聞き返すと、もう一度脱ぎなさいと繰り返す彼女に、走馬灯のように六年間を思い出した。サブロくんのことが好きだとバレた時も、付き合うことになった時も、初めてデートする時も、いつも彼女の手助けがあった。
「……どうしたらいいの?」
* * *
「ふふ、似合うわぁ」
フリフリの謎の装飾と透けレベルではなく薄い生地。今、私が着せられているのは世にいうランジェリーである。エリザベッタ御用達のお店で、ほぼ生地のない服を当てられて、試着室に放り込まれて。散々似合うと褒め称えられた後、別れ際ににっこりと微笑まれる。
「明日家に呼ぶんでしょ? これで誘惑しなさいな?」
* * *
お風呂あがり、例のものを着たは良いものの、羞恥心には勝てず、上に大きなロングパーカーを羽織る。緊張か単純な暑さのせいか、背筋に一筋の汗が伝った。
「……うん、大丈夫」
姿見で確認して、チャックを上げて前を隠す。エリザベッタには申し訳ないけど、やっぱり私たちはゆっくり進んでいこう。そう覚悟を決めると、丁度サブロくんが寝室に入ってくる。
「待たせたな」
慎重派ではあるものの、パーソナルスペースが狭い彼は一緒に寝ることに抵抗が少ないらしい。彼の横に並んで寝ると、いつも前からぎゅっと抱きしめられる。私は毎回ドキドキしているんだけど、彼は気づいていないのかもしれない。
「ム、暑くないか?」
この時期にしては厚い生地のパーカーに触れながら、低い声で呟く。いつもまっすぐ前を見つめる目が、今は私だけを見つめていて、また身体が熱くなった。
「だ、だいじょうぶ」
「薄ら汗をかいているではないか。ほら」
待って、と抵抗するも簡単にチャックを下ろされる。いつも色気のない黒いインナーを着ているから、脱がせても平気だと踏んだのだろう。しかし、当然ながら、現れたのはほとんど裸の状態だ。彼は私の胸元を見たきり「ぬぅ」とだけ呻いて、黙り込んでしまった。
「ぁ、アノ……」
「……あまり、己を煽るな」
言葉とは裏腹にチャックを下ろす手を再開して、下を向いたまま喋り続ける。
「ヌシの身体は小さいし、華奢だ。抱き締めた時など、折ってしまわないか心配になる。それに、己のすることはなんでも許すきらいがある。いつも抱き締めて眠るのも、緊張しているだろう」
いや、貴方と比べたらみんな小さいし華奢だし、抱き締められるのも緊張っていうかなんというか。急展開についていけず、モゴモゴと口を動かしている間に、全て暴かれて、大きな手で腰を撫でられる。
「だから」
「ひゃっ」
「どうか、今からすることも許せ」
ベッドの軋む音と共にちゅう、と唇を吸われる。想像よりも情熱的なキスに腰が抜けてしまった。許せだなんて。数分後、私が許しを乞うことになったんだけど。
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