アトレイデス家と
ギリシア神話



暴力、近親相姦、今後のサイレント・ヴォイスの展開匂わせあり。一つでも気になる方はブラウザバック。

何を思ってこんな反倫理的かつ狂気的な話を考えたかの解説です。神話を全く知らない方も5分であらすじが分かるかも。

惑星カラダンを統治するアトレイデス家はギリシア神話ミュケーナイの王 アトレウス の 子孫です。さらにアトレウスの“子”には有名なトロイアの英雄アガメムノーンもいます。一大勢力を誇ったアトレウスの一族ですが 肉親関での殺し合い、肉親間での姦通 を繰り返し、その結果悲劇に見舞われる運命でもありました。



@ アトレウス と
テュエステース



アトレウスには沢山の兄弟姉妹がおりましたが その中でも 【 弟テュエステース ( Thyestēs ) 】 との壮絶な恨み合い殺し合いが一番有名。そして、この連載のヒロインの変換無しデフォルトネームは 【 テューラ ( Thyra )】 以下、当連載ヒロインをテューラと表記します。

アトレウスがレトかポールかは重要ではありませんが、このテュエステースがとんでもなくアトレウスにとって人生を左右する Brother です。アトレウスとテュエステースは、王位を巡って熾烈な陰謀合戦を繰り広げます。

テュエステースは兄アトレウスの妻アーエロペーと姦通していました。また金の子羊の毛皮等を使ってアトレウスを陥れようとしますが失敗。妻の姦通を知ったアトレウスは、妻アーエロペー、そして彼女とテュエステースの子供たちを殺害。料理して父親であるテュエステースに食わせるという残虐な報復を行います。テュエステースは叫び、兄 アトレウスへの復讐を誓いました。



A テュエステース と
彼の娘 ペロピア



兄アトレウスは王となり、弟テュエステースは追放。そしてテュエステースは娘の元を訪ねます。おぞましい神託を受け取っていたからです。

___ 自分の娘との間に子が生まれれば、復讐を成し遂げられる。

テュエステースは、血の繋がった娘ペロピアを犯し、子を産ませます。 この時の子こそが、アトレウスの甥にあたる アイギストス ___ 彼は 美しきペロピアを気に入り妻としていたアトレウスに、彼自身の子として育てられますが……成長した際 母ペロピアから自分の本当の父親を伝えられ、アトレウスを討ち取りました。本当の父親テュエステースを王にするためです。ペロピアは真実を告げたと同時に息子の前で自害しています。



B アイギストス と
アガメムノーン



さらにさらにこの哀れな産まれのアイギストス。アトレウス討伐後は、不服ながら従兄弟アガメムノーンの下にいます。テュエステースは結局王になれなかったのです。ちなみに、 アガメムノーンは アトレイデス家の直系の先祖です。 アトレウス→アガメムノーン→無数のアトレイデス家男子→牛に殺された爺ちゃん→レト→ポールやテューラ というわけですね。

さて、父テュエステースを王にと推したのに、結局叔父の血脈が支配する現状が気に食わないアイギストス。アガメムノーンが活躍したあの有名なトロイア戦争の時、留守中のアガメムノーンの妃を誘惑。 妃クリュタイムネーストラーの情夫 となりました。 二人は戦争から帰還したアガメムノーンを殺害 つまり テュエステースの息子がアトレウスの息子を殺害 したのです。アガメムノーンも妃クリュタイムネーストラーとの間の我が子らを殺害したり戦地で女を攫ってきたりしているので清廉潔白ではありませんが、 アトレイデス家直系の先祖でトロイア戦争の英雄アガメムノーンはこうして散りました。



C 王子オレステース と
姉エーレクトラー



アトレウスの血脈の中で唯一マトモ(ではないかもしれないけれど)正義?と復讐を貫いたのが、アガメムノーンとクリュタイムネーストラーの息子、【オレステース】です。幼き頃に 実の母親とその情夫アイギストスに 父親アガメムノーンを殺され ます。ちなみに母親が父親を殺したのは 【 最愛の娘を戦争の生贄として殺された 】ことへの憎悪。 オレステースの一人目の姉は生贄として父親に殺されていたのです。 母と母の情夫は幼い王子オレステースまでをも狙いますが、 姉エーレクトラーの説得と手引きにより オレステースは何とか脱出することが出来ました。

姉エーレクトラーと弟オレステースは父の墓で再会。姉弟は手を取り合って母クリュタイムネーストラーと母の情夫であり 父の従兄弟アイギストスを殺害 します。ここに、【 アトレウスの血筋が、テュエステースの血筋を破る 】 結末がようやく訪れました。


王子オレステースと
その姉エーレクトラーも
………… 近親相姦関係。(?)



父親アガメムノーンを殺した母親クリュタイムネーストラーに対して共に復讐しようとするために 姉エーレクトラーは弟オレステースを誘惑 するのです。【王子オレステースは末裔ポール・アトレイデスと重なる部分が多い】 ため、ポールとテューラの近親相姦というテーマで執筆を始めました。

ちなみに、エーレクトラーは弟が一番好きというわけではなく。彼女の一番の憧れは父親アガメムノーン。父親レトの為に生み出された姉テューラが弟ポールと身体を重ねるストーリーは この 「エレクトラコンプレックス」という近親相姦の心情がモチーフです。



D オレステースの
愛しき女たち



オレステースは母殺しのあと、その罰を受けて狂人となり彷徨っていました。神々の裁判にて またも彼を救い 正気を取り戻させたのは オレステースの大切な姉エーレクトラー でした。また、オレステースはこの際 生贄となって殺されたはずのもう一人の姉の魂を連れ帰ることに成功したとも言われています。

オレステースは、幼少期に婚約していたヘルミオネーが別の男に嫁いでいると知ると その男に決闘を申し込み、殺害し 男の元からかつての婚約者ヘルミオネーを取り戻しました。 また、この男は戦争で負けたアンドロマケー、という既に結婚した女性を戦利品として妾 (とはいっても奴隷)にした男でした。

サイレント・ヴォイスでは未来の光景をポールの夢やベネ・ゲセリットの資料として度々先出ししています。 テューラ・アトレイデスはダンカン・アイダホの心と共にあり、彼の最期まで共に闘い、敗れたあと 全てを剥ぎ取られて奴隷のようにハルコンネン家に連れて行かれます。 そして アトレイデス撃破の戦利品 として 若きフェイド=ラウサの妻になる。

王子オレステースが決闘し、ヘルミオネーやアンドロマケーといった女達を解放させたように。ポールも “砂の惑星”のラストシーンでは、フェイド=ラウサと決闘し 統治者となった弟が最愛の姉を彼女の夫から解放し、その腕に抱き締める ことで連載が終わることでしょう。然しその道程は果てしなく遠く、しかもその後もテューラの腹の中には 誰かが宿した生命 がいることがフィルム・ブックに記されて何者かに消されている。そして アトレウスの血を引くアトレイデス家がまた二つに分岐して 続いていく………歴史は繰り返していくのかもしれない。そのあたりをまだまだ深くフラグをばら撒きつつ執筆していきたいと思っています。つまり、 この連載はギリシア神話によって最初から最後まで運命が決まったものとも言えるのです。


Q : テューラ・アトレイデス (ヒロイン) は ギリシア神話の中で 誰に相当するのか?



A :

@全ての始まりの女、アーエロペー
( 姦通の罪 : ポール、ダンカンと )

A父の子を産む女、ペロピア
( レトが回避したが、その可能性があった。もしくは 血縁者の子を産む運命 )

Bそもそも 怨恨の男、 テュエステース
( アトレウスの血を引く者を不幸にする。アトレイデス家を内部から破壊する )

C 愛なき産まれの男、アイギストス

( 父と母の愛から生まれたわけではない )

D 父と弟を愛した 姉 エーレクトラー
( 父親への想いから未婚を貫いたものの、弟を深く愛し 誘惑して関係を持つ )

E 望まぬ婚姻から救い出される女達
ヘルミオネーとアンドロマケー

( フェイド=ラウサからの解放、然しテューラはポールとは結ばれない )

答えは、全てです。 この物語のヒロインは、アトレウスの一族に関する重要な人物達の不幸と幸福、ありとあらゆる逸話を織りまぜて創り出されたアトレイデスの呪われた女の子です。 先祖たちの歩んできた歴史全て がポールとテューラの背中にのしかかっているのです。

アトレイデス家に嫁ぎ、望まない処女懐胎で気が触れてしまった母フランチェスカが、 テュエステースと似たテューラという名前を付けたのかもしれないし、読者の皆様が思う名前は何処か遠くの星グルドゥア=レディニアでは不吉な意味を持つ女の子の名前なのかもしれない。 いずれにせよ、テューラは生まれ落ちた時点でアトレウスの子らを不幸にしてしまうテュエステースの怨念を手にしているような気がします。

そしてギリシア神話の通り、ペロピアと同じく実の父親の子を産み落とし、その子がレトやポールを殺す未来をフランチェスカは願ったのかもしれない。 然しテューラ自身がテュエステースであり、ペロピアであり、愛なき産まれのアイギストスであるからこそ運命は神話の通りには進まない。 テューラは実の弟ポールと姦通の罪を背負い、ダンカンまでも誘惑 する。然し二人への愛は本物で、エーレクトラーが弟王子オレステースを愛したようにポールのことを愛している。

彼女はこの先何があっても、狂ったオレステースを癒したエーレクトラーのように “暗闇に落ちた” ポールを導くでしょう。ダンカンの死があっても、戦争の戦利品として 婚姻を結ばされても、最後には 弟であり、子であり、友人であり、主であるオレステースのようなポール・アトレイデスが抱き締めてくれる。

アトレイデス家はアトレウスとアガメムノーンの子孫であり、オレステースの子ら。その血を二人が濃く継いでいる限り、テュエステースの叫びがテューラを蝕んでも。引き裂かれることはないのです。




ただ、アトレイデス家(兵)が “砂の惑星”後に大殺戮を引き起こす暴虐の民になっていることを思うと、 アトレウスの隠し持った残虐性やアガメムノーンの傲慢な一面、オレステースの容赦の無さが ポールを越えて兵士達に伝わってしまっているのも面白い。DUNEはやっぱり 神話で、英雄譚で、宗教。考えれば考えるほど止まらない。

F.A.L