お誕生日おめでとう
お誕生日おめでとう、シリウス
以下、琥珀親世代編を読み終えた人へ
おまけのお話
無数の星々の煌めきの中で、私は大好きな男を抱き締めて漂っている。此処では衣服も重力も存在しない。だってあなたの夢の中だもの。幸せな夢の中。あなたが横たわるアズカバンの冷たい岩の床も吹き荒ぶ潮風も無い。温かな水とも空気とも言えない温度の中で私は胸元に縋る黒髪を撫でた。ただ、生まれたままの姿の私達は抱き締め合い……浮かんでいるだけ。
「シリウス。あなたの誕生日よ」
「……嬉しくない。俺は今……何歳だ?」
「分かってるでしょう?」
「25」
夢の中でも、辛い現実の中でも彼は決して時の流れを忘れることはない。ふわりふわりと二人して漂いながら私は「おめでとう」と彼の額に唇を落とす。シリウスはまだ瞳を開けない。長い睫毛はずっと閉ざされたまま。
「愛してる」
「それは俺に言う言葉じゃないだろ?」
「いいえ、あなたに言うの。愛してる。だって本当のこと」
彼は私の背中を抱き締める腕に力を込めた。行かないでくれ、消えないでくれ、ずっと夢の中にいさせてくれ。そう言いたいのよね?私もずっと此処に居たい。でもあなたは生きる人で、私はそうじゃないの。だからせめて伝えさせて。
「絶望しないで。今は苦しくても、私がいつかあなたを助け出す。だからどうか。生きていて。また…昔のように、あなたが心から笑えるように。私が支えるから。だから……目覚めても…私が世界にいなくても。あなたは生きて」
シリウス。私の眩き光。あなたの人生はつらいことばかりよ。ようやく見付けた幸せもとても短く、そして今も暗い監獄に閉じ込められている。きっとこの牢はまだ開くことはない。それでも。生まれたことを嘆き、挫けそうになったとしても。
「私は、そばに居る。ずっと、ずっと」
シリウスはゆっくりと目を開けた。灰色の瞳が私を捉えた瞬間、美しき宇宙は崩壊する。彼は強い人だ。だから今まではあまり泣かなかった。それなのにこの夢が終わる時、いつも彼は泣く。灰色の瞳から一粒の煌めきが零れ落ちて私の瞳から溢れた同じものとぶつかって、ゆっくりとひとつになった。
「シリウス。あなたと生きたこと、笑い合えたこと。私は何も後悔していない」
「……行かないでくれ」
「行かなくちゃ。これは夢だもの」
シリウスは私に手を伸ばした。消え掛けた指で、私は彼と指先を絡める。懐かしいわ。小さい時よくこうして並んで歩いてたわよね。あぁ、もう時間切れ。私は大好きな幼馴染に微笑んだ。
「私の大切な大切なシリウス。生まれてきてくれてありがとう。私と出会ってくれてありがとう。また来年、会いに来る。いつか夢の外でも会いに来れるように…私も頑張るわ。だから……」
「…………待ってる」
「えぇ、待ってて」
額を合わせて、最後にもう一度。
「Happy Birthday , Honey」
今日は、明るい星が夜の帳に初めてその眩さを知らしめた素晴らしき日。そうして、私も彼もこの温かな夢の記憶をそっと手放した。
大丈夫。また、会えるわ。
以下、琥珀親世代編を読み終えた人へ
おまけのお話
無数の星々の煌めきの中で、私は大好きな男を抱き締めて漂っている。此処では衣服も重力も存在しない。だってあなたの夢の中だもの。幸せな夢の中。あなたが横たわるアズカバンの冷たい岩の床も吹き荒ぶ潮風も無い。温かな水とも空気とも言えない温度の中で私は胸元に縋る黒髪を撫でた。ただ、生まれたままの姿の私達は抱き締め合い……浮かんでいるだけ。
「シリウス。あなたの誕生日よ」
「……嬉しくない。俺は今……何歳だ?」
「分かってるでしょう?」
「25」
夢の中でも、辛い現実の中でも彼は決して時の流れを忘れることはない。ふわりふわりと二人して漂いながら私は「おめでとう」と彼の額に唇を落とす。シリウスはまだ瞳を開けない。長い睫毛はずっと閉ざされたまま。
「愛してる」
「それは俺に言う言葉じゃないだろ?」
「いいえ、あなたに言うの。愛してる。だって本当のこと」
彼は私の背中を抱き締める腕に力を込めた。行かないでくれ、消えないでくれ、ずっと夢の中にいさせてくれ。そう言いたいのよね?私もずっと此処に居たい。でもあなたは生きる人で、私はそうじゃないの。だからせめて伝えさせて。
「絶望しないで。今は苦しくても、私がいつかあなたを助け出す。だからどうか。生きていて。また…昔のように、あなたが心から笑えるように。私が支えるから。だから……目覚めても…私が世界にいなくても。あなたは生きて」
シリウス。私の眩き光。あなたの人生はつらいことばかりよ。ようやく見付けた幸せもとても短く、そして今も暗い監獄に閉じ込められている。きっとこの牢はまだ開くことはない。それでも。生まれたことを嘆き、挫けそうになったとしても。
「私は、そばに居る。ずっと、ずっと」
シリウスはゆっくりと目を開けた。灰色の瞳が私を捉えた瞬間、美しき宇宙は崩壊する。彼は強い人だ。だから今まではあまり泣かなかった。それなのにこの夢が終わる時、いつも彼は泣く。灰色の瞳から一粒の煌めきが零れ落ちて私の瞳から溢れた同じものとぶつかって、ゆっくりとひとつになった。
「シリウス。あなたと生きたこと、笑い合えたこと。私は何も後悔していない」
「……行かないでくれ」
「行かなくちゃ。これは夢だもの」
シリウスは私に手を伸ばした。消え掛けた指で、私は彼と指先を絡める。懐かしいわ。小さい時よくこうして並んで歩いてたわよね。あぁ、もう時間切れ。私は大好きな幼馴染に微笑んだ。
「私の大切な大切なシリウス。生まれてきてくれてありがとう。私と出会ってくれてありがとう。また来年、会いに来る。いつか夢の外でも会いに来れるように…私も頑張るわ。だから……」
「…………待ってる」
「えぇ、待ってて」
額を合わせて、最後にもう一度。
「Happy Birthday , Honey」
今日は、明るい星が夜の帳に初めてその眩さを知らしめた素晴らしき日。そうして、私も彼もこの温かな夢の記憶をそっと手放した。
大丈夫。また、会えるわ。
2022/11/03/01:54
Category : 更新履歴(琥珀)
Category : 更新履歴(琥珀)