「私も彼も天涯孤独なの。誰も反対も賛成もしなかったわ。でも……そうね。あの映画で復帰して賞を貰ってから、私の知名度は前より高くなったでしょう?以前からの私のファンは数年前から彼のことを知ってたけど新規の人達はやっぱり受け入れるのに時間が必要だったみたい」
「ええ。彼があなたに相応しくないだとか彼のことをあなたが飼ってるだとか。基本的には最初と同じことの繰り返しよね。どうやって乗り越えたの?」
「はじめの頃とは違って怒ることもしなくなったわ。だってね?私は彼と歩む人生を選んだわけだし、彼は私を愛してる。その事実だけで十分なの。こう言ったら女優としては感じが悪いかもしれないけど、世間が何を言おうが私の人生に関係なんてないの。言いたい人には言わせておけばいい」
「丸くなったわね、Beth。若い頃のあなたがパパラッチの胸倉を掴み上げてた頃が懐かしいわ」
「私ももう若くないからね。暴力はいけないことだと学んだわ。ごめんなさいね、あの頃私と喧嘩してたパパラッチたち。でも今の私には二人の子供達がいる。節度は守ってよ?じゃないとあの頃の比じゃないくらいに怒るから」
「ママになってからより強く、美しくなったってワケね」
「……ええ」
「あなたが番組に来てくれるから、昨日久しぶりに"Flowers"を見直したのよ。最後の十分間、死ぬために山に入ってからエンドロールまでの演技、やっぱり鳥肌モノだったわ」
「ふふ、無言でね、音楽もナシ」
「そうよ!だからこそ、あなたの瞳や唇、指先、呼吸のリズムまでが全てセリフのように感じて引き込まれたのよ!二時間人生を追ってきたスクリーンの中のジャスミンという女性が本当に今から自殺してしまうんじゃないか、って。私、何回見てもあのシーンで息を止めてるの」
「実はね、ロープで首を吊るシーン以外はカット無しで演技してる。同時に三台のカメラで私の顔、瞳、引きの情景を回した。だから私も止められることなく感情のままに演技が出来たわ」
「あのシーンで……その、なんていうか。まだこの世界に生きてていいんだ、もう少しだけ明日も生きてみようかなって思った人達は多いはずよ。悩みを抱えている人達にメッセージはある?」
「うーん、難しいわね。でも_____そうね、私は悩んで苦しんでる人に頑張れなんて言わないわ。泣きたい時は泣いてもいい、叫びたい時は叫んでもいい。自分の感情を自分自身にまで隠してはダメよ。泣いて喚いて怒って、落ち着いたら周りを見渡してみて。空の青さ、花や草の香り、動物たちの声、そしてあなたが考えもしなかった人があなたを愛してくれているかも。山奥に入るのは別に明日でも明後日でもいいのよ。今此処にある今日を生きてみるのも中々悪くないわ」
「素敵な言葉ね。で、あなたの場合はその彼こそがマックス、だったと」
「ご想像にお任せするわ」
「ヒュウ。最高ね。遊び人から忠実な夫への変身」
「まぁ、遊び人というかそれを仕事にしてただけだけど。最初から気にしてなんかないわよ。だって…………生まれた時から彼は私の騎士だからね」
「あついあつい。さて、ここからは少し悲しいお話。Beth、あなたは来年からの三年間、また活動を中断すると発表したわね。寂しいわ。ちゃんと戻ってくるのよね?」
「もちろん!仕事をするのは楽しいもの。でも子供たちと一緒に過ごしたいの。子供が大きくなっていく時間は貴重よ。それは手放したくなくて。幸いなことに彼の仕事は時間をこちらで決められるから今は子育てをお願いすることも多いけど。やっぱりママともっと一緒にいたい、って、マイリトルボーイズも言ってるしね。SNSも完全にお休みするわ。私に会いたい人は彼のInstagramを見に来てね」
「あなたの子供たちの顔はいつもステッカーで隠されて見えないけど。双子なんでしょ?」
「ええ、私の黒髪と彼のブルーグリーンの瞳よ、また個人的に会いに来てよ。ご馳走するわ、パパが」
「あなたが作るんじゃないのね」
「当然よ!私、キッチンを爆発させちゃうから」
「Bethにも苦手なことはある、と。で、お休みの間はたっぷり海外旅行で新鮮な思い出作り?それとも自宅でのんびり日常を味わう?」
「まだ考えてないわ。でも確かに休みをもらって早いうちに、旅行には行きたいかも。お腹がまた大きくなったらそう簡単には遠出も出来ないし」
「ン?………あら?あらあらあら?聞いた?みんな」
「可能性の話よ?可能性」
「んーーーふー」
「やだ!その顔やめてよ、あーあー、もう此処はカットカット!」
「ライブストリーミングにカットも何もないわよBeth」
「あーーーもう、余計なこと言うなよ、ってあの人に言われてたのにまたやっちゃった」
「で、どうなの?どうなの?」
「…………………秘密!」
スコットランドの山奥。朽ち果てかけていた小さな城を買った。掃除して、床を打ち直して、崩れた煉瓦を積み直して、壁紙を貼り替えて。俺達は結局、家を構える場所としてアメリカではなく此処を選んだ。
「お城だ!!」
「俺が三階の右の部屋だからな!お前は左だ!」
「なんで!」
「早い者勝ち!!」
「ひどいよ!!」
走り回る二つの足音と争う高い声。男の双子を育てるってのはこういうもんだ。
「おい、お前ら。お前らは二階だよ」
「なんで?三階は父さん達の部屋なの?」
「あぁ」
大人のトッケンだ、ズルだ、と騒ぎながら息子たちが足元に纏わり着いてくる。俺は二つの柔らかい黒髪をわしゃわしゃと撫でて、俺自身と同じ色を持つ四つの瞳に語り掛けた。
「安心しろ。俺と母さんは少しずつこの屋敷を大きくしていく。使い切れないくらい沢山の部屋を作ってやるから少し待て。それと__客を何十人も呼べるくらいの大広間もだ。何百個もキャンドルを飾ってお前達の誕生日もハロウィンもクリスマスも結婚式もそこで祝おう。二つ塔を立てて、湖の地下には水族館みたいな部屋も作る。植物いっぱいの地下室もだ。ふくろう小屋もな。お前たち。今日から此処を……ホグワーツ城、と呼べ」
俺の計画に息子たちは大きな丸い瞳を輝かせて跳ね回る。アメリカを去る時には不安がっていたのに。子どもは夢の世界に憧れる。まぁ、喜んでもらえて嬉しい。自分の子供が幸せそうにしてるのが嬉しいなんてさ、俺も凡人になっちまったな。
「すごいや!」
「なんだか、父さんと母さん」
「おとぎ話に出てくる」
「「魔法使いと魔女みたいだ!!」」
魔法使いのお城がどんな風なのか知ってるし、本当に山奥にそんなお城を建てようとしているし、と幼い声ははしゃぐ。すると古ぼけた蝶番のギィギィという嫌な金属音と共に、先にこの場所へ着いていたエリザベスが登場した。片手にハンディクリーナーを持ち、もう片方の腕には輝くブロンドの赤子を抱いている。
「そうよ、可愛い私の息子たち」
エリザベスは微笑んだ。
「私達はね、魔法使いと魔女だったの」