先輩にお礼を言って、嘉島先輩のもとへ走り寄る。さて、先輩からはどんな情報が得られるんだろう。
「こんにちは、黒木くん。校内新聞の取材だって?」
「はい。神庭先輩と平先輩について、何か面白い話とかありますか?」
おもしろい話、ねぇ。髪を耳にかけて先輩は考える仕草をする。ああ、そうだ、とすぐに僕に視線を合わせて嘉島先輩は微笑んだ。
「面白いかどうかはわからないけど、あの二人が付き合いだしたのは、確か中三のころだよ」
「中三、二年前ですか。ということは、神庭先輩はあの平先輩と二年も一緒にいるんですか!?」
思わず「あの」平先輩、だなんて言い方をしてしまった。悪い人ではないんだけど、やっぱりね。神庭先輩が「変人」と呼ばれてしまうのも少し納得できるかもしれないな。もし神庭先輩の前でも、平先輩が普段の調子だったら、神庭先輩の胃が大変なことになるんじゃないか。土井先生のように。
嘉島先輩も苦笑して、そう、もう二年も経つんだよねぇ、なんて呑気に言う。これは面白い話だ。流石長いこと一緒にいるだけある。
ずい、と前に乗り出して、他には?と思わず詰め寄る。学級委員会の報道魂が騒ぐぜ!なんて。びっくりしたように目を丸くした先輩は、落ち着きなさい、と僕の頭をぽんと叩く。僕としたことが申し訳ない。しゅるしゅるとよくわからない報道魂が静まる。
「そうだね、じゃあ、二人が中三の頃。出会った頃の話でもしようか」
「お願いします!」
ペンを固く握りしめて、唾を飲み込む。嘉島先輩に勧められて、開いている席に座らせてもらった。どきどきと胸が高鳴り、興奮でペンが滑る。知的好奇心が溢れかえるのを固唾をのんで何とかこらえ、先輩が昔を思い出すように目を瞑り、口を開くのを待つ。
平滝夜叉丸といえば、自惚れ屋なナルシストだと、学園中でも噂されていた。その頃には既に、自分が如何に美しく優れているかを長々と語るために友人は少なかった。まともに口が利けたのは、入学してからずっと同じクラスの腐れ縁である綾部喜八郎と、お互いにライバルだかなんだかと張り合う田村三木ヱ門。そして同じ体育委員だった桜子くらいだった。
桜子と滝夜叉丸が話すようになったのは、中三に上がってすぐのこと。体育委員に入ってからだ。今まで図書委員やら環境委員やら経験してきた桜子だけど、その時は何故か「おもいっきり体を動かす奴がやりたいなぁ」という気分だったらしい。彼女らしいと言えば彼女らしいか。
桜子は後に、「滝と出会ったのは運命ってやつだったのよ!」と語るけれど、私にはただの気まぐれと偶然が重なったようにしか思えない。
当時の委員長は七松小平太先輩で、地獄のような委員会活動だった。本来体育委員会の仕事というのは、用具の準備と片付け、体操の号令くらい。それなのに、彼が委員長の代は、何故だか町内マラソンやバレーを行って、まるで部活動のようなことをしていた。そんな七松先輩についていくうちに、友情やら結束やら、絆が生まれるのも当然といえば当然だろう。
そうやって毎日を過ごしているうちに、最初は自慢話の長い嫌な奴という印象も、委員会の中で、下級生の面倒を見てくれる頼れる人に変わっていった。テストの前には勉強を教えてもらうようになったり、桜子の幼馴染みが田村だと言うのもあって、共通の話題も増えていき、いつの間にか目で追うようになったり、いつも平のことを考えているようになったらしい。
「へぇ、神庭先輩も、最初は平先輩のことをあまり良くは思っていなかったんですか」
「うん。あの子悪戯好きで、初等部の頃に男の子泣かせちゃったんだけど、その相手が田村と平だったのよねぇ」
「面白いですね。そんな二人が今や学園で噂されるようなカップルなんて」
いい噂じゃないじゃない。と苦笑する先輩に釣られて、僕も苦い笑みが浮かぶ。そうだった。「あの」平と「変人」な神庭なんて言われてるんだった。
とにかく面白い話が聞けた。次は誰に当たろうか、と考えていると、先輩が僕の考えを読んだように綾部のところでも行けば?と勧めてくれた。
綾部先輩といえば、嘉島先輩の話でもあったように、入学してからずっと平先輩と同じクラスだった、腐れ縁の先輩だ。なるほど、今度は平先輩の話が聞けそうだ。
すっかりこの取材にはまりこんでしまった僕は、わくわくして仕方がなかった。やっぱり報道魂が眠ってるんだよ、僕の中に。クラスの皆と何かトラブルに巻き込まれた時も、皆に比べれば冷静というだけで、今日と同じように興奮してしかたがないのだ。
ペンとメモ帳をポケットにしまって、嘉島先輩に別れを告げる。昼休みも残り多くはない。綾部先輩を見つけて、早いところ話を聞かなければ。
「もうすぐ新書が入荷するから、また図書室においで」
「ありがとうございます。それでは!」
ひらひらと手を振って見送る先輩に一礼して、綾部先輩のクラスをめざす。
さて、次はどんな話が聞けるんだろうか。
彼女の友人の話
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2011/08/01 如月アスカ