こもれび林を抜け、見張り塔跡地へと進んでいく。
天気は曇り。跡地というだけあって、ゴーストタイプのポケモンが多いようだ。時折、木陰や草原からケタケタという笑い声が聞こえてくる。
でも、特に近づいてくる様子はない。凄く広いから沢山バトルすることになるかと思っていたけれど、ここまでに数回、睡蓮が戦っただけだった。
「そりゃあ睡蓮がいたら近付きにくいだろうよ」
頭の後ろで手を組んで、風飛が言う。
因みに、私がポケモンと会話できることを周囲に隠すためのカモフラージュとして、念のため彼も擬人化してくれているのだ。うっかり話してしまいそうで怖かったから、大変有り難い。
「そうなの?」
「雨音の隣に並んでると、睡蓮の威圧感ハンパねーもん。こいつの特性、プレッシャーとか威嚇なんじゃねぇかってくらい」
「そんなわけないでしょう」
大袈裟に聞こえるけれど、確かに好戦的に近づいてきた子たちは、みんな睡蓮を見て怯えていた気がする。見た目だけでも強さがわかるということか、本能的に勝てない相手だと悟っているのかもしれない。
「ダンデさんのリザードンとの特訓が、役に立っているだけですよ」
「がんばってたもんね」
「雨音も一緒にがんばったでしょう」
ダンデさんとリザードンに勝てたことは勿論無いけれど、それでも睡蓮が互角にバトルできるまで成長したのは彼らのお陰だ。
私自身はポケモンが傷つく様子が苦手で、どちらかと言うとバトルは嫌いだ。
でも、私も一応肩書きはトレーナー。どんなに睡蓮が強くなっても、私がバトルを学ばない限り、彼の強さは宝の持ち腐れになる。だからダンデさんが帰ってきた時と、2番道路でたまにバトルを仕掛けてきたトレーナーとだけ、練習も兼ねてバトルしていた。
特訓のお陰もあって、ダンデさん以外のトレーナーには負けたことは無い。だからって、自惚れていては足元を掬われてしまうから油断は禁物だが、そう簡単にこの辺りのポケモンに負けることは無いだろう。
「ほんと、お前らの経歴聞いてると驚くことばっかだわ……」
感嘆か、呆れか。風飛はどちらともつかない表情で苦笑する。
「チャンピオンがたまーに楽しそうな顔して里帰りしてたのは、そういうことか」
「え?」
「俺、タクシーやってた時に乗せたことあんだよ、チャンピオンのこと。帰るだけなのに、バトルしてる時みたいな目ぇしてさ。帰ってもあいつの相手になるような奴いないだろうと思ってたんだけど……、お前らだったわけね」
納得だわ〜と笑う風飛を前に、私と睡蓮は顔を見合わせた。
そんなに楽しみにしてくれていたのか。かなり手加減されていた筈なのだけれど。多少なりとも、チャンピオンとしての忙しい業務の息抜きになっていたのなら嬉しい。
「お。もうすぐだぜ、エンジンシティの門」
風飛の視線を辿ると、エンジンシティへと続く大きな階段があった。いつの間にかキバ湖・東へと足を踏み入れていたらしい。あられはすっかり止んでいて、茜色の空が広がっている。
遠くから見ても大きいことはわかっていたけれど、まさか街への入り口がこんなにも巨大だとは……。
「おっきいね……」
「おいおい。こんなんで驚いてたら、ナックルシティに着いた時には腰を抜かすぞ?」
「ナックルシティ……。キバナさんのジムのとこ?」
「そ。ここと似たような階段があるんだけどさ、ドラゴンの頭の形してんだ」
キバナさんは、ドラゴンタイプの使い手だった筈だ。
私の中での彼の第一印象は、垂れ目と犬歯が特徴的な優しいお兄さん。
しかし、テレビで見たダンデさんとのエキシビションマッチでは、チャンピオンにも引けをとらない猛々しい戦いをしていた。心の底からバトルが好きなのだと身体で表現しているような……。ポケモンたちとの信頼し合ったバトルスタイルは、バトルが苦手な私でも見ていて清々しいほどだったと記憶している。
そんなキバナさんがジムリーダーを勤めている街だ。きっと素敵な街なのだろう。