その後、私たちはソニアさんに別れを告げ、早速ポケモンセンターへと向かった。
「ポケモンの回復をお願いします。あと、一泊したいんですけど、お部屋空いてますか?」
「宿泊ですね。畏まりました。これが部屋のカードキーです。ポケモンたちはお預かりしますね。ソファーでお掛けになってお待ちください」
ジョーイさんに睡蓮と風飛を預け、カードキーを受け取る。二人を回復させている間、待合室のソファーに座って深く息を吐き出した。
(今日は色々あったな……)
今朝旅立ったとは思えないくらい、充実した一日だったと思う。
ワイルドエリア駅でウールーたちが列車を通行止めにしていなければ、カレーも作らず、風飛にも出会わず、あっさりとエンジンシティに到着していたことだろう。
(もしそうだったら、風飛はあのまま衰弱……)
ダメだ、物騒なことを考えるのはやめよう。ウールーたちに大いに感謝だ。
『お待たせしました〜』
目の前に黒いポケモンがやってきた。確か、イエッサンという種族だったと思う。よくポケモンセンターやレストランでお手伝いしている様子を見かけていたから、なんとなく覚えていた。
(思ってたより早い回復だったな……)
そもそもダメージを受けていないから、歩き通しで疲弊していたくらいだったのだろう。
「ありがとう、イエッサン」
『どういたしまして〜』
このイエッサンは、どうやら女の子らしい。高くて間延びした声は、どことなく癒し系女子を思わせた。
回復も終えたことだし、部屋に行って休むとしよう。
(301号室……)
3階の角部屋のようだ。カードキーを差し込み、扉を開けてそこそこな広さの部屋に入った。
トレーナーは私一人だから、ベッドも一つ。ポケモンはボールで休んでもらう形となる。身体が小さければ一緒に眠っても良いのだろうが、残念ながら睡蓮も風飛も大きい。申し訳ないが、ボールで寝てもらおう。
ちょっとした料理もできるようで、キッチンや小型の冷蔵庫まで常備されている。それに、ローテーブルを挟んで二人掛けのソファーが二つ。これでトレーナーはタダで宿泊できるのだから、肩書きだけでもトレーナーで良かったと心の底から思った。
ボールから睡蓮と風飛を出してあげると、二人も部屋の内装が新鮮なのか、それぞれ気になるものを物色している。
「へぇ、結構ちゃんとした部屋なんだな」
「キッチンもあるなら、朝食やおやつも作れそうですね」
「そうだね」
ポケモンセンターの中には、フレンドリィショップもある。トレーナーの常備品から食材まであったから、あとで明日のお昼用に食パンを買ってサンドイッチでも作ろう。木の実もまだたくさん余っているし、木の実サンドとかも良いかもしれない。
「明日はどうすんだ? 雨音はジムチャレンジに参加するわけじゃないんだろう?」
聞きながら風飛はソファーに座って欠伸をする。
出会ってから今までの旅路でバトルすることも極端に少なかったため、私がチャレンジャーではないという事実はわかりきったことだった。
「記憶探しっつっても、具体的には何かすんの? できることがあればやるけど」
「特には……。何がヒントになるかもわからないから、とりあえず観光で色々見て回りたいとは思ってるんだけど……」
睡蓮に私の記憶の手掛かりを尋ねても良いのだけれど、それではいけない気がする。先ずもって、そんなまどろっこしいことをするくらいなら、既に彼の口から全て語られているだろう。
わかっているのは、3年前にワイルドエリアで倒れていたということだけ。どの辺りでなのかは、睡蓮はわからないと言っていた。
ダンデさんかキバナさんに聞けばわかるだろうけれど、少なくとも今日辿ってきた場所では何も思わなかったし、記憶が戻るような兆しも無かった。
「成る程な。なんで睡蓮が言わねぇのかは、まぁ事情があるんだろうからもう聞かねぇよ」
「そうして頂けると有り難いです」
キッチンから出てきた睡蓮が、そう言いながら私たちにマグカップを差し出す。
「ありがとう」
「サンキュー」
「どういたしまして」
私はいつも通り紅茶。風飛はブラックコーヒー。睡蓮は美味しい水が気に入ったらしく、ペットボトルを傾けている。
「で、エンジンシティの観光だな。スタジアムの他にはブティックとか、蒸気機関の景色を見るのも良いかもな」
「風飛も詳しいんだね、街のこと」
「空飛んでると色々見えるからな。飛行タイプの特権!」
タクシーで色んな名所を巡ってきたのだろう。まさかこんなところでその知識を活かせるとは思わなかっただろうけれど、私にとってはかなり嬉しい情報源だ。
「そだ、明日の開会式は? 見に行く?」
「うーん……。せっかくだけど、人混みはあんまり……」
「ふふ。雨音は大勢の人がいる場所が苦手ですからね」
「あはは! 言うと思った。じゃ、明日はテレビで開会式見てから出発しようぜ」
そうと決まれば、今日はもうご飯とお風呂を済ませて休もう。ということで、夕食はポケモンセンター内の食堂で済ませ、部屋のユニットバスにゆっくり浸かり、日付が越える前にベッドに横になった。
疲れもあってか、その日はいつも以上にぐっすりと熟睡した。