ブラッシータウンから列車に乗り、外の景色が町並みから大自然へと変わり行く。まだそんなに時間は経っていないのに、見たことの無いポケモンたちが何種類も通りすぎていき、私の中の微量な好奇心が擽られた。



「楽しいですか?」



向かい側に座る睡蓮が、窓の外とスマホロトムを交互に眺める私に問う。

実は昨日、準備のメモと一緒に、マグノリア博士にポケモン図鑑を貰ったのだ。野生ではウールー、ワンパチ、カムカメなどの2番道路に生息しているポケモンくらいしか知識の無い私にとっては、大変に有難いツールだ。

睡蓮はというと、駅で購入した美味しい水を飲みながら、そんな私を見守るように微笑んでいる。保護者とはこういう人のことを言うのだろう。睡蓮はポケモンだけど。



「楽しいよ。あの町から出るのは初めてだし、ちょっと怖い気もするけど」


「大丈夫ですよ。野生のポケモンは私が相手をしますし、貴女は一人ではありません。博士も言っていたでしょう?」



一人じゃない。それがどんなに心強いことかは、3年間でとても身に染みて実感していた。

本棚の高い位置にある本を取ろうとして、頭の上に落としそうになったり。おつかいに行くだけなのに、野生のカムカメに道を阻まれて立ち往生したり。睡蓮が近くにいてくれなければ、私は怪我をしたり襲われたりしていただろう。



(睡蓮には頼ってばかりだ)



いつか、ちゃんと恩返しをしなければ。とは言え、私にできることなんて少ないのだけれど。

とりあえずは、旅を楽しみながら記憶が戻る兆しを探すことにしよう。

スマホロトムをタッチして、図鑑からマップへと切り替える。



「えっと……、次の街ってエンジンシティだよね。どこになるんだろう?」


「マップで言うと、ここですね」



睡蓮が指差す街を拡大し、アップされている写真をスライドしていく。蒸気機関やスタジアムなど、ブラッシータウンにはなかった建造物がたくさんあるらしい。



「エンジンシティは、工場や倉庫の多い近代化が進む街です」


「……詳しいね、睡蓮」


「私も勉強していましたから」



本当にポケモンなのだろうか。疑いたくなるくらいに睡蓮は人間っぽい。流石はエージェントポケモン。

でも、彼はポケモンとして知識をつけたというより、私が旅をすることを見越して勉強してくれていたのだろう。私自身が3年間で学びきれなかった分を、私の隣で。



「ありがとう、睡蓮」


「どういたしまして。さて、そろそろ経由駅の筈ですが」


《当列車をご利用のお客様に、ご案内致します……》


「噂をすればだね」



ちょうどその時、列車内にアナウンスが鳴り、列車は徐々に減速した。

しかし、内容は経由駅での昇降を促すアナウンスではなく、暫くの間列車が停車するというものだった。

線路の上にウールーが集まっており、列車は足止め状態なのだとか。



「じゃあ、ワイルドエリア駅で一旦降りるしかないか」


「そうですね」



動けないのなら仕方がない。私と睡蓮は、列車を降りてワイルドエリア駅の改札を出た。