改札を出て真正面にあったベンチに座ると、ころころと転がり行くウールーたちと追いかける駅員さんたちが目に映る。

一匹ずつ捕まえてはワイルドエリアへ運んで……、なんてことをしている間に線路に増え行くウールーの群れ。線路脇に生える草を食べたり、恐れ知らずな子は眠りについてしまったり。きりがない光景だ。


ワイルドエリアは、多くのポケモンが生息している広大な平原地帯だ。

強いトレーナーならば、より強いポケモンを求めてワイルドエリアを駆け抜けてエンジンシティに行くのだろう。
だが、生憎と私にそんな度胸は無い。



「……無難にウールーが退くのを待とうかな」


「なーに消極的なこと言ってんのよ!」


「え……」



上から降ってきた元気の良い声に顔を上げると、腰に手を当てて私を見下ろすソニアさんがいた。同じ列車に乗っていたらしい。



「おばあ様から聞いてたけど、本当に雨音たちも旅に出てたのね。どうよ、調子は?」


「ぼちぼちです」


「ま、初めての旅だもんね。あんたの場合は慎重にもなるか」



ソニアさんも、私が記憶喪失なことを知っている。今まで何かと世話を焼いてくれた彼女は、私の良き理解者だ。



「で、ワイルドエリアだけどさ。通ってみれば?」


「……でも、強いポケモンが多いのでしょう?」


「睡蓮がついてるんだから大丈夫よ! それとも、睡蓮だけじゃ不安?」


「そ、そういうことではなく……」



睡蓮が強いのは知っている。
極たまに帰ってくるダンデさんのリザードンに稽古をつけてもらい、庭でバトルしていたくらいだ。水タイプと炎タイプの相性があるとはいえ、チャンピオンのパートナーに食いついていくポケモンの姿は、テレビでも滅多にお目にかかれるものではない。



「睡蓮は強いけど、広いワイルドエリアで睡蓮だけに頼るのは、なんだか申し訳ないというか……」


「健気〜! 良かったわね、睡蓮。良いご主人に想われてて!」


「当然です」


「うわっ! 余裕の笑み……!」


「二人とも……」



恥ずかしいから外でそんなやり取りはやめてほしい。ただでさえ、睡蓮もソニアさんも、すれ違う人が振り向いてしまう程の美人さんなのだから。



「とにかく、睡蓮を連れてるんだからエンジンシティまで余裕で行けるって! 途中でキャンプでもしてさ、のんびり目指しなさいな。あ、予備のボールは持ってる?」


「え? いいえ」


「やっぱりね……。あんたも一応はトレーナーなんだし、ボールは何個か持ち歩きなさい」



そう言って、ソニアさんは空っぽのボールを10個ほどくれた。
そうか。仲間を増やせば睡蓮への負担も減るわけだし、予備のボールは必要か。



「ありがとうございます、ソニアさん」


「良いの良いの! そんじゃ、そろそろ駅から出ましょ」


「はい」



ボールをバッグにしまうと、私と睡蓮もソニアさんに続いて出口へと向かった。