外に出ると、ワイルドエリアという名のとおりの大自然が広がっていた。

深緑の木々と、所々に咲く野花が風に揺れている。日に照らされて煌めく湖。その向こう側に見えるのが、エンジンシティへの入り口だろうか。



「近いように見えるけど、あそこまで歩くには遠いんだろうね」


「ですね。急ぎの旅ではありませんし、休憩しながら進みましょう」



言いながら、そこの自販機でまた美味しい水を購入する睡蓮。道中での水分補給用なのだろう。自称トレーナーの私よりしっかりしていて本当に頼もしい。



「おーい、雨音! ちょっとこっちおいで!」



少し先に進んでいたソニアさんが、手を振りながら私を呼ぶ。彼女と一緒に、私より少し若い男の子と女の子がいた。
男の子の足元にはウールー、女の子の腕には水色のポケモンが抱かれている。確か、メッソンというポケモンだ。



「紹介するね。こっちの男の子がダンデくんの弟のホップ。女の子がユウリ。二人とも今日ハロンタウンから旅立ったトレーナーよ。で、こっちはうちの研究所のお手伝いさんの雨音と、インテレオンの睡蓮」


「雨音さんていうんですね。ユウリです、よろしくお願いします!」


「私の方こそ、よろしくお願いします」


「よろしくだぞ! 確か、兄貴が助けたっていう……?」



ホップくんは、少しはダンデさんから私の話を聞いているのだろうか。流石に記憶喪失だとかは言ってないと思うけれど……。



「そ! 泊まるとこに困ってたから、ダンデくんからおばあ様に相談されて、借家を提供するかわりにお手伝いさんをしてもらってたってわけ」



どこまでの情報がいってるのかわからず、何と答えようか迷っているとソニアさんが助け船を出してくれた。

少し考えれば無理のある理由な気もするけれど、ホップくんは「なるほど!」と納得してくれたようだ。深堀りしてこない子で良かった。



「三人とも初めて旅するわけだしさ、旅先でまた会うこともあるだろうし、見知った顔がいると安心するでしょ」



その為の顔合わせだったらしい。
言われてみれば、私の知り合いは博士にソニアさんにダンデさん、あとまだ2回ほどしか会っていないけどキバナさんくらいだ。知人が増えることは嬉しい。



「よし! 挨拶も済んだことだし、巣穴を調べまくって、ダイマックスしたポケモンと戦いまくって伝説の1ページにするぞ! 行くぞウールー!」


「おぉ〜!」



ふわふわもこもこだったウールーが一瞬で人型になり、ホップくんの後を追いかけていく。彼のウールーはもう擬人化できるらしい。



「ユウリ! 俺は先に行くからな!」


「うん!」


「もう! ダイマックスしたポケモンは本当に強いんだからね! 忘れずに自分のポケモンをダイマックスさせなよ!」



ソニアさんの助言は届いたのかどうか。元気の良いホップくんの姿は、あっという間に見えなくなった。



「まったく……。じゃ、私も行くね。エンジンシティでまた会いましょ!」


「はい。また」



ソニアさんも続いてワイルドエリアの散策に向かっていく。



(かなり身軽な格好だったな……)



昔ジムチャレンジをしたこともあると聞いてはいた。普段のワンパチと戯れている姿からは想像つかなかったけれど、あの軽快な足取りは経験豊富な大人であると物語っていた。



「……あの、雨音さん」


「はい?」



見送っていた視線をユウリさんに移すと、彼女のキラキラした目と目が合う。

映っているのは好奇心? 興味?
そんなに気になるようなことをしただろうか。



「ポケモンの擬人化には、ある条件が必要だってソニアさんから聞きました。それが何なのかは自分で見つけるべきだってわかってるんですけど、何かヒントがほしくて……」



それで、擬人化した睡蓮を連れている私に聞いてきたということらしい。

確かに、常時擬人化しているポケモンはそれほど多くない。余程自分の擬人化した姿が気に入っているか、人間と会話したい時くらいだろう。睡蓮の場合は両方な気がする。



「ユウリさんは、メッソンに擬人化してもらいたいのですか?」


「……私には、ポケモンの言葉がわからないから。擬人化させてあげられるなら……、言葉が交わせたら、メッソンが望むことをしてあげられるかなって」



眉を下げるユウリさんに、睡蓮はふむ、と顎に手を当てる。

焦っているのだろうか。ホップくんのウールーは、彼が幼い頃から一緒にいたようなことを、ダンデさんに聞いたことがある。それに比べて、ユウリさんは昨日メッソンと出会ったばかりの筈。まだわからなくても当然だ。

メッソンを見ると、潤んだ大きな瞳でユウリさんを見上げている。



『ぼくが困らせちゃってるのかな……。早く人型になってユウリを助けたいけど、どうしたらなれるのかわからないし……』


「……大丈夫。貴方ならすぐ擬人化できるようになるよ」


『え?』



泣きそうなメッソンに手を伸ばして頭を撫でる。スベスベで少し冷たい肌は、睡蓮のそれと酷似していた。

そういえば、メッソンが進化した最終形態がインテレオンだ。いつかこの子も睡蓮のようになるのだろうか。
……悪いけれど、全然想像できない。



「睡蓮はどう思う?」



思考が変な方向に向く前に、睡蓮に訪ねてみる。擬人化した当人から聞く方が、一番説得力があるだろう。



「雨音の意見と同じく、これだけ想い合っているのなら、擬人化できる日も近いでしょう」


「ほ、本当ですか?」


「ええ。ヒントは、共に行動し、よく遊ぶこと……ですかね」



睡蓮のアドバイスを聞いて、ユウリさんは難しい顔から一変、花が咲いたような嬉しそうな表情でメッソンを抱き直す。



「わかりました。ありがとうございます!」


『ありがとう……!』


「がんばってね」


「はい! それじゃ、私も行ってきます!」



眩しい笑顔で駆けていくユウリさんに、手を振って見送る。
メッソンも不安になりながらもワクワクしているようだったし、これは今日中に擬人化できてしまうのではないだろうか。



「人間に抱く想いの強さ……。ユウリさんとあのメッソンは、強くなるでしょうね」


「そうだね。キラキラしてた」



純粋に想い合う人とポケモン。彼女達をとても微笑ましく思った。
……と、同時に少しヒヤヒヤした。



「……勘ぐられなくて良かった」


「ふふ。言葉が交わせなくてもあれくらいなら通じ合えますから、大丈夫ですよ」



クスクスと笑う睡蓮に、ほっと胸を撫で下ろす。

本来であれば、擬人化していないポケモンと人間が言葉を交わせることは無い。一部のテレパシーを使えるポケモンでない限りは、頭の良いポケモンが人間の言葉を理解できても、人間がポケモンの鳴き声を理解できないのだ。

しかし、私は違う。



(なんでわかるんだろう?)



ポケモンの鳴き声が聞こえることも確かにある。でも、ポケモンの言葉も何故か理解できてしまう。私にとってはこれが普通で、寧ろどうして他の人達に聞こえていないのかが不思議だった。

旅をするということは、原型のポケモンと触れ合う機会が増えるということだ。
もしポケモンと会話しているところを誰かに見られたら、悪い人間に何をされるかわからない。



「貴女のその力を知っているのは、博士、ソニアさん、ダンデさん、キバナさんだけ。彼らといる時は誤魔化しがききますが、外で油断は禁物ですからね」


「うん、気を付ける」



ユウリさんたちなら知られても大丈夫だとは思うけれど、この世にはそれを良く思わない人間だっている。

なるべくおとなしく、目立たないように旅を進めよう。



「私たちも行こうか」


「はい」










目指すはエンジンシティ。
のんびりがんばろう。