ワイルドエリアを睡蓮と共に歩いていく。
空は雲ひとつ無い快晴。心地好い風が吹く、気持ちの良い天気だ。
マップを見たところ、ワイルドエリアは天気が変わりやすく、更に細かいエリアで分かれているらしい。今私たちがいるのはうららか草原。このままキバ湖・東に進んでいくのが一番の近道なのだが、生憎と今はあられが降っているようだ。
「ちょっと遠回りになるけど、こもれび林に行ってみても良い?」
「ええ、もちろん」
こもれび林なら、霧がかかっているけれど天気は悪くない。急ぐ理由もないし、夕方頃にエンジンシティに着けば問題ないだろう。
ということで、道中で見つけたポケモンを図鑑で調べながら、お散歩気分で進んでいった。
「そこのお嬢さんとお兄さん! カレーの食材、買って行かないかい?」
山登りでもするような大きなバッグを広げているお兄さんに声をかけられた。周りには私たち以外に人はいない。呼ばれたのは私と睡蓮で間違いないようだ。
睡蓮に目配せして近くまで行ってみると、ポテトのパックに美味しそうなハンバーグ、缶詰めやパンまであらゆる食材が並べられていた。
「いっぱいある……」
「お嬢さん、キャンプでカレーを作ったことは?」
「無いです」
「そうかそうか。そこらに生えてる木を揺らすと、色んな木の実が落ちてくる。そいつとこの食材をカレーに混ぜるとめちゃくちゃ美味いぞ!」
そういえば、途中で木の実が生っている木が何本かあったなぁと思い返す。次に見つけたら採っておくことにしよう。
「食材、オススメはありますか?」
「お、作ってみるかい? そうだな……、初めてならハンバーグとか野菜を盛り付けるのが良いかもな」
「じゃあ、今回はハンバーグで作ってみます。2つください」
「はいよ!」
お金を渡し、袋に入れてもらった食材を貰う。それはすんなりと睡蓮の手に渡った。
「私が持ちます」
「ありがと」
自然すぎる流れだったけれど、お礼は忘れてはいけない。そんなに重たくないから私でも持てるのだけれど、睡蓮が持つと言ったら頑として譲らないのはわかっている。だから私は毎回甘えてしまうのだ。
「ありがとうございました、お兄さん」
「おっと、お兄さんときたか! いやぁ参った! お嬢さん良い子だから野菜も持って行きな!」
「え? でもお金……」
「良いから良いから! はい、サービス! 美味しいカレー作りなよ!」
機嫌を良くしたらしいお兄さんに、野菜パックを2つ貰ってしまった。本当に良いのだろうか?
睡蓮を見上げると、にこりと笑って頷いたので、豪快に笑うお兄さんにお礼を言って先に進むことにする。
「なんでくれたんだろう?」
「雨音が“良い子”だからでしょう」
「からかってる?」
「まさか」
面白そうに微笑をもらす睡蓮。意味がわからなかったが、彼が楽しいなら良いかと霧が濃くなる林へと歩を進めた。