「すごい霧……」



少し先までしか見えないほどの濃霧だ。
あられが嫌でこのルートを選んだけれど、私の選択は間違いだっただろうか。

マップを見て自分の向いている方角を確認しながら進む。そうでもしないと、あっという間に迷子になってしまいそうだ。

周りの草原では、スボミーやハスボーなどの小柄なポケモンが見え隠れしている。かくれんぼしているようで、とても可愛らしい。


少し小腹が空いてきて時計を確認すると、ちょうどお昼手前の時間だった。



「この辺でカレー作ってみる?」


「そうですね」



遊んでいるポケモンたちの邪魔にならないように、木の根元に荷物を置いてキャンプセットを取り出す。ご飯を食べたら移動するし、テントは張らなくても良いだろう。



(……どうやって入ってたんだろう?)



キャンプセットの中にあった大きなお鍋。ポケモンと旅する用の、ポケモンたちの食べる量に見合った特大サイズだ。普通に考えたらバッグになんて入らない。



(…………考えちゃダメだ)



きっと不思議な力で伸縮自在なスーパーお鍋なんだ。そうに違いない。

頭を振ってお鍋のサイズのことは脳ミソの片隅にやり、睡蓮が拾ってきてくれた枯れ枝に火を付ける。お鍋をセットしてお湯を沸かしている間に周囲を確認すると、近くに木の実が生っている木があった。



「睡蓮。あそこの木の実、採ってくるね」


「行きましょうか?」


「大丈夫。やってみたいから、睡蓮はお鍋見てて」


「わかりました」



何でもかんでも睡蓮にやってもらっていては、私が人としてダメになってしまう。木の実くらい採れるようにならねばと、木の下まで向かった。

思っていたより細い幹だ。少し揺らすだけで木の実が落ちるのも納得できる。



(色んな木の実が生ってる)



枝には、赤に青にオレンジ色の美味しそうな果実がぶら下がっている。1本の木から数種類の木の実が収穫できるようだ。お鍋同様に不思議な木なのだろうと、こちらも深く考えないことにする。

幹に手を添え、さぁ揺らそうとした。

その時だった。



ぐうぅぅぅぅ…………


「え……?」



お腹の音?
しかし私のお腹ではない。

もしやと思い振り向いて睡蓮を見てみるが、彼は別の小さいお鍋でハンバーグを温めているし、私のいる場所までは距離もある。ここまで音が聞こえてきたら異常だ。そもそも、睡蓮が盛大にお腹の音を鳴らすとは思えない。聞いてみたい気もするけれど。

ということは、野生のポケモンか?
ぐるりと辺りを見渡してみる。お腹を空かせていそうなポケモンは、近くにはいない。カレーはまだ匂いが立つほどできあがってはいないし、彼らが興味を示すとしてもまだ来ないだろう。



「……空耳かな」



気を取り直してもう一度。幹に手を添えて、踏ん張ろうと一瞬視線を下げた時、それは見えた。



「えっ……!」



木の裏にある大きな岩。その影から覗く黒い何か。見た感じ、人ではなさそうだ。



「…………」



動かないそれを良いことに、正体を確かめるべくゆっくりと近づいてみる。

一歩ずつ。距離が縮まるにつれ、黒いそれは霧の中でも艶めいているのがわかった。岩の前まで辿り着き、そっと顔を覗かせてみる。



「……!」



それは黒くて大きな鳥ポケモンだった。死んではいないようだが、こんなに近づいても動かないところを見るに相当弱っているらしい。

見たことあるような気もするが、名前は何だったか……。スマホロトムで図鑑を調べる。



「……そうだ、アーマーガア」



アーマーガアタクシーで有名なポケモンだ。タクシーなんて使わないから、すっかり忘れていた。

とにかく、倒れているのに放っておくわけにもいくまい。



「雨音? どうしました?」



私の戻りが遅いからか、ナイスタイミングで睡蓮が来てくれた。ハンバーグは温め終わってしまったらしい。またやらせてしまった。

睡蓮は私の前に倒れているアーマーガアを見て、状況を察してくれたようだ。息はあるのか、外傷はないかと確認する。



「気を失っているだけのようですね。すぐに目を覚ますでしょうし、近くまで運びましょうか」


「うん、お願い」



私一人ではこの子は持ち上げられない。
手伝ってという意味でお願いしたのだけれど、睡蓮はどこにそんな力があるのか軽々と担ぎ上げて連れていく。

軽い筈は無いと思うのだけれど……。私が非力なのだろうか。寝る前に筋トレでもしよう。

ひとまずアーマーガアのことは睡蓮に任せ、私は再び木の実の収穫とカレー作りへと戻った。