01

四月。肌を刺すような寒さは消え、眠くなるような暖かさが身を包む。
親の転勤によって東京の高校へ進学した理久は、場違いではないかという程豪華な校舎を前に様々な思いを巡らせていた。

ここが、氷帝……。

受験のため必死に勉強した日々が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。辛かった、あれは本当に辛かった。
勉強ができないわけではない。やりたくないだけだ。
勉強しない状態でも受かるそこそこの学校に行きたかったが、何故か親に勝手に決められ後に引けなくなった理久はそこから根性で追い上げたのだ。

「東京こわい……帰りたい…」

登校する生徒の邪魔にならないように隅に寄りながらぽつりと独り言ちる。
友達はできるだろうか、馴染めるだろうか。この学園に通う大体の生徒は幼稚舎からのようで、こうして外部から来た生徒が入る隙が無さそうで怖い。
…ただここで立ち止まっていても仕方ないと自分に言い聞かせ、教室へ向かうべく歩を進めた。

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ガヤガヤと賑わう教室の隅で理久は縮こまっていた。
何故かよく分からないが席は最初から決められていて、先生の計らいか何か知らないが理久の席は一番後ろだった。
視線だけを忙しなく泳がせていると、隣の席の椅子がカタンと音を立てた。
反射的にそちらを見る。
端整な顔立ちの男子生徒だった。少し長めの前髪に切れ長の目。イケメンというのはこういう人のことなのだろうと一人で納得してしまった。

「……何だ」
「あ、いや、すいません」

切れ長の目でじろりと睨まれ慌てて顔を逸らす。
怖いタイプの人だった。先行きが不安である。
既に居心地の悪さを感じていると、担任が教室へ入ってきた。これから入学式が行われるのだ、人混みに紛れて帰ってはだめだろうかと本気で悩む。
周りの流れに流されるように、理久も席を立ちあがった。

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入学式後の教室での自己紹介で、隣の彼は日吉若というらしい。覚えたぞ私は覚えた。出来る限り彼の機嫌を損ねず一年を過ごしていこうと心に決めた。
友人達には神経が図太いだの楽天家だの雑だの女子力が皆無だの散々言われ、いや罵られ、いや馬鹿にされ……まあ酷い言われようだったが、そんな理久でも気が滅入ることだってある。今現在のように。

「ねえ、ねえねえ」

ふと、自分に声をかけられているような気がする。恐る恐る声の方へ顔を向けると、前の席に座る、肩にかからない程度に短い髪をした女の子だった。

「もしかして、外部から?」
「…そう……はい…」
「やっぱり!すごい緊張した顔してるもん。私、立花めぐるっていうの、よろしくね」
「猫宮理久です…よろしく」

顔が引き攣っていたのだろう、理久の顔を見ためぐるは苦笑した。

「私もね、中等部から来たからその気持ち分かるよ」
「立花さんも…」
「めぐるでいいよ!私も理久って呼んでいいかな」
「うん」

理久が了承すると、めぐるは花を咲かせたように笑った。

「これからよろしくね!」
「うん…!」

ぼっちは免れたというこの奇跡に、理久は心の底から安堵した。