たからばこ


プロローグ



その旅館には不思議な言い伝えがあった。
庭に大きな一本の枝垂桜がある。淡い薄桃色の花弁がひらひらと舞い散るその情景は幻想的で、見る者を虜にする。
しかしその桜は夏の強い日差しの中でも木々が紅葉する秋もしんしんと降る雪の日も、花は枯れることなく咲き誇っていた。
人は常春の宿と呼んだ。

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