たからばこ


仮ページ2


たったひとりの家族である祖母が早朝、静かに息を引き取った。
眠るような安らかな最期だった。

結局、見舞った際朧げな意識の中、旅館をついで欲しいと伊頼に言い残したきり祖母はそのまま他界してしまった。自分の死に際まで旅館の行く末を案じていた祖母がなんだが不憫で二つ返事で継ぐことを決めた伊頼だったが、一頻り別れを惜しんだ後とんでもない決断をしたような気がしていた。単純に旅館業をするだけではなく自身が経営者になり従業員を養っていく必要があることを今更ながらに自覚する。祖母が自身の病を悟ってから何人かの従業員には暇を出したそうで今残っているのは昔馴染みの中居と板前

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