十二月某日
こんこん、こんこん。
空から落ちては消える、白い雪が運んで来た十二月。
吐き出した煙草の煙は冷たい空気の所為で、何時もより幾らも多く、そして白を強めた。
そんな冬を主張する十二月も終わりに差し掛かり、我が本丸は年末の大掃除に励んでる。
「あー、あるじさま、さぼっていますね!」
「今剣…!」
何時もよりしつこく残る煙を眺めていると、雪を髪に乗せた今剣が畑の方から走って来た。風邪を引かないだろうか…八つ時には掃除を切り上げて、直ぐに暖を取れるようにしておこう。
「あるじさま、あるじさま」
「ん?どうしたの?」
「どーなつ、つくってください!」
ドーナツ?材料あったかなぁ。なんて首を傾けていると、今剣は指先の煙草を指差した。ああ、なるほど。
「…この前みたいに、食べたら駄目だからね?」
「はーい!」
煙草に口を付け、何時もより少し強く吸う。
子供の頃、父親がやって見せてくれ様を思い浮かべ、口を丸く開け煙を押し出す。
こうすると、ドーナツの様な形をした丸い煙が出るのだが…先日短刀達に見せてあげた際、あろうことか「おいしそう」だと、今剣はその煙をぱくっと食べてしまったのだ。
「おいしそう…」
「今剣っ」
「…わかってますよー!」
本当に解ってくれているのだろうか。目を輝かせ、口をだらんと開けている様子を心配に思う。
そして宙に浮かぶ白いドーナツがその姿を薄くすると、また強請る声。
「もういっかい、もういっかいです!」
その声に応えて、私がドーナツを吐き出すと…ぱくっ。
「あー!鳴狐!たべたらいけないのですよ!」
狐の姿を模した手が、白い煙で出来たドーナツを一口齧ったのだ。
頬をいっぱいに膨らませて怒る今剣を、お付きの狐がなだめて居た。
「いやはや、申し訳ありません!」
…とも思えば、本体の鳴狐は「…美味しそうだったから」なんて燃料を投下する。私は和睦の道はないのだろうか、なんてゆっくり考えながら煙草に唇を落とす。
「何、喧嘩…?」
「清光、おかえり」
数回煙草に唇を落としていると、おつかい部隊の隊長が現れた。その両手には、ぱんぱんに詰まった買い物袋が今にも爆発しそうだ。
「ごめんね、重たかったでしょう?」
「んー、大丈夫。」
清光から袋をひとつずつ受け取り、縁側に降ろす作業をしながら、目の前で起こっている喧嘩(?)の詳細を清光に報告した。
「…ふーん。まぁ、鳴狐は♀mかに食べてないしね」
「うーん、そうなんだよね…あら?」
口を動かしつつ、頼んでいた束子を求めて袋の中身を漁っていると、カラフルな棒が何本も入っている袋を見つけた。
「これ、花火?」
「うん、万屋がくれたの」
夏に余ったと言う花火は、小さな打ち上げ花火入りの、少し豪華な物だった。
「夜はまた雪が降るみたいだし、掃除が終わったら皆でやろっか」
冬の、しかも昼間にやる花火なんて、なんだか風流だねぇ。なんて言うと、俺の主に風流なんて解るのかと、苦笑いが溢れた。
花火を避けて束子の捜索を再開していると、いつの間にか機嫌の直った様子の今剣が、こちらへ走ってやって来る。
「あるじさまー!」
こんこん、こんこん。
目の前に飛び出した今剣の手は、狐の姿をしていた。鳴狐に教わったと言う。
「あるじさま、もういっかいどーなつください!」
はいはい、と近付き過ぎた今剣を清光が剥がした事を確認し、煙草に火を点け、強く吸う。
「わくわく、わくわく!」
今剣の狐が鳴く。
こんこん、こんこん。
私はドーナツを吐き出した。
こんこん、こんこん。
「あ!」
吐き出されたドーナツは、今剣の小さな狐が食べる前に消えてしまった。
真っ赤な紅を塗った狐がニヤリと笑う。
「ご馳走様」
こんこん、こんこん。
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