01. 格子の先
ある日爪紅を買おうと外へ出ると、独特の空気を漂わせている建物が目を奪った。
政府が設置した、刀剣専用の遊女屋だ。
人の身体を得た事により、当然ながら人間と同じく、所謂三大欲求≠ェ、俺たち刀剣男士の中にも変わらず存在した。
それ≠満たさないと、これまた人間と同じく欲求不満≠感じ、任務の妨げになる。そう、政府が考えたらしい。
その建物は意外と大きく、何やら様々な香りを漂わせていた。俺はそれが苦手だと感じた。
さっさと万屋へ行き、本丸へ帰ろう。なんて考えながら、ふと上を見上げると、俺はまたもや新しいもの≠ノ目を奪われた。
それ≠ヘまるで鳥籠のように、外も満足に見えないであろう格子がついた窓。この遊郭から逃さまいと言う、人間の意思を感じる。汚い、と再び嫌悪感に襲われたが、直ぐに目に映るひとつの綺麗なもの≠ノ癒された。
それ≠ヘ、酷く哀しそうに微笑む女の子の姿だった。
彼女が何を見て微笑んでいるのかは解らない。ただ、ひたすらに遠くを見つめていた。
「そこの、刀のお兄さん。」
俺に声を掛けてきたのは、一人の男だった。遊郭から顔を覗かせている彼は、恐らくここの従業員だろう。
「梨乃が気になるかい?」
「…梨乃?」
「君が熱心に見つめていた、上に居る子だよ。」
ああ、梨乃って言うのか。彼女は変わらず、遠くを見つめる。
「お兄さん、梨乃買ってくれないかい」
「え…?」
そう持ち掛けた男もまた、籠の中の彼女の様に、酷く哀しい顔をしていた。
「あの子は、とても可哀想な子なんだ。」
男は詳しくは話さなかったし、俺も問いたりはしなかった。
解った事と言えば、可哀想な彼女を気遣ったこの男は、今まで客を一度も取らせず、政府の目から隠して来た。しかし、そろそろ限界が近付いている事。
そこで、安心して水揚げを任せる事の出来る相手を探していたところ、俺が通り掛かり、彼女を見つめていたと。そう言う事らしい。
「…解った。俺でいいなら、相手するよ」
「本当かい!ありがとう、ありがとう。」
お金はあったし、欲がない訳でもなかった。
ただ、そんな事よりも、自分の目を奪った彼女に会ってみたかった。
男に案内され、俺は遊女屋に足を踏み入れた。
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