06. わけあり
私は相変わらず、見えもしない物を見るために格子の先を睨んでいた。
今日は清光が来ない日だ。
「梨乃、いいかい?」
「…はい、どうされました?」
楼主は部屋に入ると、盆に乗せたお茶と茶菓子を差し出した。
「昨日の茶菓子はどうだった?」
「ええ、とても美味しかったですよ。」
ありがとうございます、と頭を下げると、今日の茶菓子も美味しいよと勧めてくれる。
楼主は本当に優しい方で、心があたたかい人間だと思う。
「加州様とは上手くいってそうで何より。」
「ありがとうございます。楼主様のお陰です。」
「いやいや、何も何も。」
今日の茶菓子は練り切りだ。それは牡丹の花を模した、紅くて綺麗な練り切りで、私は自然と清光を思い浮かべる。すると、自然に昨日、紅を置いてもらった爪が視線を奪う。
昨日、か…
「清光は、主様と上手くいってないのかな…」
「…そうだねぇ。彼はどうやら訳ありってやつらしいね」
「え…?」
頭で考えていただけの言葉が、はらりと口から出ていた。それに気付いた時には、既に楼主が気になる言葉を並べていた。
「一応お客さんだからね。何かあっては困るから、少し彼の事を調べたんだよ。」
詳しくは彼から直接聞いた方が良いだろうと冒頭で並べ、楼主は簡単に彼のわけ≠教えてくれた。
ひとつは、彼は所謂ブラック本丸にいて、今いる本丸は保護された後に引き取り先となった、彼にとっては二つ目の本丸だと言う事。
ふたつめは、その本丸で彼は二振り目の加州清光である事。本来ならば、各本丸に一振りずつしか存在しないのだが、問題の本丸から引き取った事により必然的に二振り目≠ニなった様だ。
そして…
「上手くやっている様だが…彼が今いる本丸もまた、黒だと私は思う。」
「…清光が今の主を慕っていない理由ですね。」
「ああ。彼の懐具合を見る限り、政府が決めた月の給与はしっかり与えられているようだなぁ」
「お金は、ですか…」
最初に述べたように、詳しくは清光から聞きなさいと残し、楼主は部屋から出て行った。
「清光…」
噂には聞いていた。ブラック本丸と言う、酷い本丸の実態。本当に存在していたとは思いもしなかったが、清光の言動や行動を見てしまった私は、その存在を認めざるを得ないでいた。
今日は出陣だと言っていたが、清光は無事なのだろうか。
乾く前に触れてしまった爪紅が、少し皺を寄せていた。
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