記憶×喪失×霊界
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意識が朦朧とする。何もかもが突然の事で、今置かれている状況が理解できない。ましては、俺に何があったか何一つとして思い出せない。今まで何をしてたのかすら記憶にない。これが記憶喪失と言うものなのか……?
取り敢えずは手がかりが必要だ。このままボケっとしていても時間の無駄だ。
「………俺は一体」
しばらく、森の中を歩き探索したが、目に映るのは俺と異なる姿の者たち。俺とは違い四足歩行の動物たちしかいない。一方で俺は二足歩行の生き物であり異端極まりなかった。
気にせず歩き続けていれば、こじんまりとした町を見つけた。規模は小さめで町と言うよりも村のようにも見える。その町には、俺と同じく二足歩行の生き物が数多く生息していることを確認できた。
「あの、ちょっと良いですか?」
怪しまれないように自然な態度で近くにいた人に話しかけてみた。まずは情報収集が必要だからな。
「……うわっ」
「え?」
俺を見るなり、その人はヤバイ物を見てしまったような反応をして俺から離れていく。なんだか少しムカつくな。別に俺の態度は普通だっただろう。何が不満だと言うんだよ。
その後も辺りの人に話を聞こうとするがまるで話を聞いてもらえない。そもそも、通りすがる者の全てが俺に対して警戒を示す目をしているのだが……。
それに、コスプレだのなんだのとコソコソ言っていて意味がわからない。もしかしたら、俺のルックスに問題でもあるのか?だとしたら、今すぐに自分の容姿を確認したいな。そうだ、ガラスに反射させてみたら分かることか。
「おい……俺は変質者だったのか?」
見なければ良かったかもしれない。ガラスに反射させて映った俺の姿は、頭に生えた大きな耳が立っていて、身体も獣と言える毛がフサフサとしており、同じ二足歩行で歩いているのに、ここの奴らとまるで違う容姿だ。なにより、この犬のようなマズルは、ここの住民には付いてなかった。
やばい、具合が悪くなってきた。俺が何者かも知らなければ、世の中から迫害されている気分だ。取り敢えず、誰もいないところに隠れようか。
「全く……いったい何なんだ……」
一つ息を吐いて自分をなだめる。この馬鹿みたいに脈打つ心臓をどうにかしたい。俺とは違うあの生き物に捉えられるかもしれないという最悪の未来が容易に想像できてしまった事が原因なんだが。これから先、逃げ回るだけの生活を送るしか俺に選択肢は無いのだろうか……?
(ん?……誰かいるな)
気分が害されて、町の住民がいない場所へ移動しようと足を前に出そうとしたとき、急に俺の背後から気配を感じ取った。躊躇わずに振り返ると妙な奴が二人いた。
突然と現れて怪しさ満点だ。一人は青い髪をした着物の女で、もう一人は不自然にも口におしゃぶりを咥えてえいる派手な服の男。俺が言うのはアレだが、非常に怪しいな。警戒は解いちゃいけない。
「…………」
ジッと睨みつけてみれば、女の方は手を挙げて苦笑いする。まるで殺人犯を目の前にしているかのように。失礼なやつだと思いながらより一層強く睨めんでみれば男の方が近づいてきた。
「まさか、本当にこの世界にも妖怪が誕生するとはな」
「………妖怪?この俺が?」
「よし、わしに着いてこい!」
言ってる意味がイマイチ理解出来んが、危険な匂いはしないと第六感が伝えてくる。こんな良くもわからない感覚で安全か危険かを判断するのは自分でもどうかと思ったが動揺していた俺は、その第六感に従うしかなかった。
スッと俺の右手を取られると、時空の歪みが現れ、そのに入ってみれば今までとは別の空間に辿り着いた。こうも、突然の異常事態が連続に訪れると、俺の頭が混乱してくるな。
「……どういうつもりだ?」
先ほどの男にそう言う。全くの別の空間へ連れ出されたので、俺は隔離されてしまったのではないかと言う不安が頭に過ぎったからだ。
おしゃぶりを加えている男は、俺の発言など気にせずに近くの資料を手に取り俺を見た。
探しているページが中々見つからないのかパラパラと手にしている本をめくっている。暫くして求めていたページが見つかれば、もう一度だけ俺と見比べて、ようやく口を開いた。
「まぁ、そうイライラするでない。そうだな、お前生きていた時の記憶はあるか?」
「いや、全くない」
即答して答えれば、男は眉をひそめて難しい顔をする。覚えてないものは覚えてない。気がつけば森に倒れていて、俺が妙な存在という認知すらなかった。
「まぁ、そんな難しい顔をするでない。とりあえず自己紹介からするか。ワシはお前らの言う閻魔大王的な存在でコエンマと言う」
え、こんなに威厳のないのか。なんだかイメージが崩れるな。いや……閻魔って、いかにも厳つい奴だとイメージで膨らませてたから。
「私はぼたんよ。霊界案内人をしてるわ」
もう一人の着物の着た女はニコニコと笑顔で自己紹介する。俺からも自己紹介を返したい所だ。しかし、残念な事に実名も覚えてはいない。
自己紹介を返せない俺は、話題を変えるべく、と言うよりも本題が知りたくてコエンマから俺を連れ出した訳を聞いてみることにした。
「それで霊界のお偉いさんの目的で俺を連れ出したんだ?」
見る限り普通ではない。記憶がないと言っても少ないと言えど常識はあるだろう。だから、この空間が不思議なものなのは勘付いている。それ故、なぜ俺をこの極秘にされていそうな空間にまで連れ出したのかと。
それに、俺を見たときに発した言葉。『まさか、本当にこの世界にも妖怪が誕生するとはな』と言う言葉が俺の異端さも表している。
あの言葉から察するに俺は妖怪なのだろう。それも、あの世界初の妖怪との事でコエンマ達は動き出した。
「目的と言っても今回お前のいた世界で妖怪が現れたのは初めてなんだ」
やはりそういう事だよな。だが、この言葉から考えるに、世界というのは一つだけでは無いみたいだ。他にも幾つかある。
「まぁ、目的といっても、お前のいた世界の軽い調査の様なもので、他に妖怪が現れたら報告して欲しいのだ」
「拒否権は?」
「ない!」
きっぱりと言い切るコエンマに少々苛立ちを覚える。しかし、別に困ることでもないし、やっても良い。だが、俺は霊界とやらに行き来はできないし、どうやって報告すればいいんだ。
「仮に他の妖怪を見つけたとして、俺はどうやって報告すればいい?」
そう言えば待ってましたと言わんばかりにコエンマは自分の机に向かい引き出しを引いた。その中から指輪を取り出すと俺に差し出した。
「これは霊界リングといって、これをはめていると、いつでも霊界に来る事ができるのだ!」
おお、こんな物があるのか。俺の持っている知識が、一般の会話には困らない程度のものしかないから、すごいものなのかがイマイチ分からないがな。
とりあえず、最悪な状況になったら指輪を使って逃げることが出来るんだな。そう考えればとても便利だな。
「ありがたく受け取る」
そう言って俺は指輪をはめた。しかし、そこで疑問が一つ生じる。それは、俺が目覚めてから人に受けた排他的な反応。あんな反応されるんじゃ俺は表の世界に出られないんじゃ……。
「この姿のままだと確実に不審者扱いされるんだけど、これで調査なんて務まるのか?」
この獣と人を組み合わせた言うならば獣人の姿だと間違いなく不便だ。現に先ほど怪しげな物を見る目で多くの人の嫌な視線を浴びたのは絶対に忘れないな。
「うむ、お前なら人間に化けられるんじゃないか?」
俺が人間に化けるだと……?適当な事言ってんじゃないだろうな。いやコエンマ曰く俺は妖怪なんだから多少のことはできるのだろうか……?
試行錯誤する俺にコエンマは俺をジット見つめて何かを見ていた。
「そうか、まだお前は妖力を使いこなせてないのか」
そんなコエンマから出てきた言葉は妖力とかファンタジックなものだった。いや、ワープできる指輪があったり、俺が妖怪だったりするのだから別に可笑しくはないな。
しばらく沈黙が続くと、ぼたんは何かを思いついた様に提案する。
「幽助達を呼べば良いんじゃない?」
「……だとすると、蔵馬だな」
少し考えて一番適切な人材を言ったように見えるが、他にもいるが他はアテにならなさそうな言い方だな。確かに人選はしっかりしてもらいたい所だしな。
「じゃあ、今から呼んできまーす!」
「うむ、頼んだ」
こうしてみれば、いきなりこんな事になってしまったが、この先俺は大丈夫なのか?考えれば不安だけが積もるな。
しばらく待っていれば先程のぼたんという女性は赤髪の中性的な人を連れてきた。この人が蔵馬という人だろう。彼はすぐに俺に気づくと笑顔を振りまいた。
暖かいとも冷たいとも思える雰囲気の持ち主。簡単に信用して良いのかがわからない。少なくとも、俺の師匠として抜擢するのだから腕は良いんだろうな。
「霊界に来た時から感じていた独特なオーラはキミだったのか」
目の前に来てようやく気がついた。第六感がこいつは強いと感じさせる。この霊界にいる奴らもそこそこ凄そうだが、段違いでレベルが違う。
「貴方が蔵馬ですか?」
「まぁ、こっちではそう呼ばれているな」
そういや、俺にも名前がないと不便だな。適当に考えておこうかな。でも自分で自分の名を考えるのも気がしれるな。
「オレは誰かにマンツーマンで指導するのは初めてだから、差し支えがあるかもしれないが、よろしく頼むよ」
「い、いや、こちらこそ」
礼儀正しい言葉遣いをしているが彼のオーラがピリピリと俺に伝わってくる。敵意はないけども、俺自身が警戒しているせいか過剰に彼のオーラを感じ取ってしまっているんだろう。
こんな緊張する思いになるなら、コエンマの頼みを引き受けないで人目のつかない所でひっそりと暮らせば良かった。
「まぁ、そんなに固くならなくていいよ。とりあえず俺について来て」
渋顔な顔をしているのが、何となく分かったのか蔵馬と呼ばれる男は困ったように笑いながら俺にそう言った。
あくまで逆らえない俺はコクリと頷いて蔵馬の後をついていく事にした。こうなれば、どうにかなると思い込むしかない。
連れて行かれた所は俺のいた世界とは別の地球のある世界らしい。空気は、そこまで変わらないし雰囲気も似ている。
話を聞くところ、そこでは幻海と言う人が住んでいたらしいが、遺産として蔵馬さん達に配分されたらしい。場所的にはその寺が一番修行にもってこいとのことだ。
辺りの空気を吸って匂いを覚える。新鮮な空気を感じ取り、匂いだけで自然そのものを感じさせる香りだった。蔵馬も同じ事を思っていたのか、暫くは辺りを見渡してリラックスしているようだ。
ずっと、こんな事で時間を潰せないと思ったのか、木々に向けていた視線をクルリと俺の方へ向けた。
「よし、早速だが今の妖力値を図らせてもらう。コエンマから300以上して欲しいとこ事だからな」
妖力値が何なのかが良くわからないが、今の俺では駄目らしい。でも言葉のニュアンスから俺の生体エネルギーの様なものだと感じ取る事は出来た。
恐らく、蔵馬の言う300以上ってのは元の世界に戻って大抵の事では死なない値なんだろうな。でも、今の俺の値がわからないから、どんだけ頑張れば良いのかが実感が湧かない。
「で、今のキミが50」
サクッと口にする蔵馬に俺はアホ面を浮かべてたと思う。これは単純に考えても6倍の強さを求められるわけだ。そんな容易に出来ることなのか?
「めちゃくちゃ遠いじゃねーか。何年やればいいんだよ」
「まぁ、人それぞれだよ。例をあげて言うなら才能があれば3000程の奴でも半年で100000は超えた」
そんな才能が俺にあるとは思えないんだが。それに俺は基礎の基礎すら知らない。まぁ、やるといった以上は仕方ないから、何年かかってもやってやろうじゃないか。
あれから妖力のコントロールと言う事で、円錐の形をした積み木の様な物が用意された。人差し指で逆立ちして円錐の先に妖力を一点に集中してキープする。
蔵馬の説明によれば、妖気を一点に集中させる事が目的らしい。分散されたエネルギーで攻撃するより、一点に集まって攻撃した方が戦闘において役立つから修行した方が良いとの事だ。
しかし、俺がやっても指に穴が空くだけで終わりそうな気がする。そもそも妖気を放てるかもわからないのに。
「そんな事出来んの……?」
「じゃあ、オレが手本にやって見せるよ」
蔵馬は用意されていた円錐の積木に向かって逆立ちをすると、その円錐の先に指を当て、それ以外の指を離してしまった。
積木の先に当たる蔵馬の人差し指には高密度な妖気が挟まっておりクッションの役目をなしているみたいだった。
「じゃあ、キミもやって」
おいおい俺には出来ると思えないんだが……。でも、やるっきゃないよな。
重い腰を上げて実際にやってみれば積木の先に妖気を放ち人差し指のみ逆立ちは出来た。それは自分でも驚いたが、それ以上に驚いた事がある。
放出が一定じゃないのか結構ぐらついて全くと言って良いほど安定しないんだ。
「ぐぐぐっ!!」
「よし、これを12時間続けてみようか」
……は?いや、こいつ正気か!?頭いかれてるんじゃないか!!既にめちゃくちゃキツイのに半日やるとか頭いかれてるんじゃねぇのか!?
それから、目標に全く届かない1時間くらいで力尽きて休憩を取る事になった。あんなもの出来るか……。
「はぁっ、はぁっ、よく蔵馬は出来んな……」
「まぁ、オレは結構修行も積んだからね。キミも素質あると思うからすぐに出来る様になるよ」
こんなんでも素質はあるのか。
10分ほど休憩を取れば、他の修行をするべく立たされる。実際に蔵馬の妖気をくらってみたり、妖気を体外に放出したりなど様々な修行をさせられた。
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