友達×信頼×伝えられたこと
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キルアが兄貴との交渉の結果、グリードアイランドの情報をROMカードのコピーと交換する事で有力情報を得た様だ。

ハンターサイトで調べられるというのと、やはりヨークシンのオークションで数本出品されるかもしれないとの事だ。



そして、それから一週間が経過してヨークシンに向かう日が来た。くじら島から去るのも少し名残惜しいが、同時にワクワクしている。

玄関先に出るとミトさんとお婆ちゃんが見送りに一緒に出てきてくれた。また、会う気はするけど暫くは会えないと気がする。

船の出航の関係で、午後10時に出なければならない。そのため、辺りは暗いが、ミトさんは俺たちが普通の子供じゃないと知ってるため心配してる様子はない。それどころか忘れ物はない?と何度も聞いてきたくらいだ。

「じゃあ、お婆ちゃん、ミトさん行ってくるね」

「せっかく帰ってきたと思ったらあっという間だったねぇ……」

お婆ちゃんも名残惜しく感じているのか惜しむ言葉を口にした。

「三人とも忘れ物はないわね?」

「何度聞けば気がすむんだよ。ガキじゃねーんだかさ」

「あらぁ、だったら毎朝、起こしてもらう人は子供じゃないのかしら?」

いい負けたのかキルアは「ちぇー」と声を漏らした。ここだけ見たら、まるで親子だよな。何となくだけど家族ってこんな雰囲気なんだろうな。とても居心地が良かったと今になって思う。

キルアもここに来てから安心しきった様に眠ってたからな。いつもは周りを警戒している様だったから余程居心地が良かったんだろう。

「ゴン、手紙をおくれよ。楽しみに待ってるからね」

お婆ちゃんはゴンを見るとそう伝える。やっぱり身内としてはゴンの安否も気になるし、手紙くらい貰わなかったから心配するもんな。

「うん」

コクリと頷くゴンにミトさんも笑顔になる。その様子を見ていたらミトさんと目が合ってしまった。

「ロウ君も私との約束守ってね」

「あぁ、必ずな」

ゴンとキルアは何の事だろうといった様子だったが知る必要は無いだろう。
俺がガルという狼ならば、もう一度ここに戻っておいでという約束を交わした事はね。



くじら島を去れば船に乗って空港まで電車で向かい飛行船に乗るなどして着々とヨークシンシティに向かっていった。

飛行船でヨークシンシティ付近の空港に着く予定だが到着には丸一日掛かるそうだ。特にする事もない俺は自部屋でのんびりとソファに座っていた。

「早く……記憶が戻らないかな……」

次にミトさんと会う時には昔の記憶が戻った状態で会いたい。まるで家族の様に接してくれたミトさんは、俺に取っても母親の様に感じた。

でも、記憶は"ある時"が来るまで戻らないと夢の中で王様ことジェロニモに告げられた。俺から出来る事は何一つないし、その時が訪れるのを待つしかない。それが何時になるかも分からないけど。

でも、ミトさんが俺が人間でないことを見抜いたことは意外だった。そんなこと、初めてじゃないかな?いや、クラピカやネテロ会長も気付いてたな。でも、一般人としてはミトさんが初だ。

問題はDASの連中だよな。いつかは決着を付けないといけない相手で、けれど人を殺めることはコエンマから許されてない。もし、約束を破れば俺よりも遥かに強い蔵馬とも敵対することになるからな。

そうなれば、俺の死は必然だろう。そして俺はゴンを置いていってしまう。ゴンを悲しませたくないから俺は人を殺めない。

だからと言って、ジェイドは話し合いで解決する様な相手じゃない。権力ある者に味方になって貰うしかないよな。

ゴンの親父のジンは国家権力クラスの力があるらしいから、頼めばワンチャンあるかも知れないが……。

取り敢えず記憶は当分戻らないと考えて、今の俺はDASをどうするかを考えないとだな。一応、俺は隔離指定種に属してる訳だし。

まあ、俺はハンターでもある以上、ハンター十ヶ条で守られてはいるけど。

其乃四の『ハンターたる者 同胞のハンターを標的にしてはいけない
但しはなはだ悪質な犯罪行為に及んだ者に於いてはその限りではない』と言うもの。

もし仮に"甚だ悪質な犯罪行為"を俺が過去に行っていて、その証拠が提示された際はDASも容赦しなくなるのだろうけど。

怪盗ルミナが殺されたというのは、奴は悪質な犯罪を犯してしまったのだろうな。そう仕立て上げられた可能性も十分にあるが。

彼女が後者であるなら、俺も気をつけなければ。知らぬ間に極悪犯罪者に仕立て上げられた何て事になったらお手上げだ。

忘れちゃいけないのはジェイドに心臓を突かれた事だけどな。あいつモロにハンター十ヶ条を破ってるじゃねーか。

あと、ゴンとキルアがいつ人質に取られてもおかしくない状態だよな。ゴンは自分の身は自分で守るって言ってたけど、原因は俺にあるからその責任も俺にある。だから、俺が守り通さないといけない。

「まぁ……ジェイドも俺がハンターである以上は大きい行動には出ないだろう」

「はぁ」と大きくため息を吐いてソファから腰を上げて部屋を後にした。気分転換に夜景でも見たくなったのだ。



明かりで照らされていない薄暗い廊下を見つけて、そこから夜景を眺めることにした。なんだかハンター試験の時を思い出す。飛行船で、ゴンとキルアと一緒に夜景を眺めてたよな。あれから、8ヶ月以上も経過したという実感が未だにピンとこない。

何故に、こんなに感傷的になっているのだろうかと理由を求めれば、多分疲れているんだ。今までは、ただ自分の為に記憶を取り戻すという目的を持って旅をしていたけど変わってしまった。

ミトさんにお婆ちゃんにコン、そしてゴンの為にガルであった頃の記憶を取り戻さなければならないと言う使命に変わってしまった。
それに加えて、俺を応援してくれてる友人たちの思いにも応えなきゃいけない。

少なからず、この短い記憶の中でここまで大きなものを背負うのは初めてな気がする。記憶がいつ戻るのかはわからないけど、みんなが生きてる間には戻さなきゃいけない。

それが果たして叶う事なのだろうか?

「ロウこんなところにいたんだ」

「……ご、ゴン?」

「部屋に行ってもいないから探したんだよ?」

俺を見つけた喜びと探す手間がかかったことに対する不満が混ざった表情をしていた。簡単に言えば不満そうな表情をしているが、どこか愛くるしく感じる表情だ。

「悪い……飛行船から見る夜景を見たくてね」

「ハンター試験の時以来だね。飛行船から夜景を見るなんて」

ゴンも試験の時の事を思い出した様で、優しい表情で夜景を眺めていた。今思えば、いつも隣にゴンがいてくれた気がする。

ハンター試験の時も、ククルーマウンテンの時も、天空闘技場の時も…。俺から会いに行くことも多かったし、ゴンから会いに来てくれることも多かったな。

「俺が言うのも何だけどさ……結構、強がりだよねロウって」

「な、なんだよ急に?」

視線は夜景に向けたままのゴンは強がりだと俺に言う。突然の言葉に理解が出来なかった。何を思って言ったのだろうか?

「俺のワガママだけど、もっと俺のこと頼りにして欲しいよ。いつも俺ばっかりロウを頼ってるしさ」

言われてみればゴンの前だと弱いところは見せられないって無意識の内に思ってたかも知れない。強がりだと言ったのはそう言う事か。確かに否定できないな。

多分、情けない姿を好きな奴に見せたくなかったから。俺が唯一悩みを打ち上げた相手はハンゾーくらいだしな。

「今さっきだって5分くらいずっと難しい顔してたし。声かけるまで気付かないくらいに」

まじ……?声をかける前からいたのか。今回に限らず、考え事してる時っていつも難しい顔してたんだろうな……きっと。

「俺が苦しんでる時はいつも助けてくれたけど、ロウは何でも一人で抱え込んじゃってて、もう見ているのがツラいよ」

記憶が戻ってしまえば自分が自分でない誰かになってしまうのではないかっていう恐怖に悩まされたり、俺の存在によってゴンが危険に晒されているという事で悩んだりしていたな。

それに、最近じゃ記憶を取り戻すことの責任さえ感じ始めてしまった。一つの悩みが解消されれば新しい悩みに直面してるよな。

でも、ゴンがいたから解決した悩みだってある。この世界に放り出されて、どうしていいか分からない俺に居心地のいい居場所を与えてくれた。

ハンター試験を受けていた時は、合格後に向かう宛てもなく悩んでたんだ。そんな俺をゴンは受け入れてくれた。それが、とても嬉しかったんだ。

「……みんなが生きてる間に記憶を取り戻せるかが不安なんだ。俺の記憶について、俺の存在について……かけがえのない人達の協力があったからここまで辿りついた」

俺がてんろうであることや、ヴェルムケーヴについてのことや、高い可能性で俺がガルであること。

「せっかく協力してくれたのに記憶が戻らなかったらと思ってね。……そいつらの期待を裏切る形になってしまう。

今の俺には、ただ待つことしか出来ないんだ。それ故に、落ち着かないんだ」

握っていた拳をグッと握り締める。ただ焦って何もする事が出来ないから、具合が悪くなるくらいに落ち着かないんだ。

「大丈夫だよ、ロウなら」

俺の右手をぎゅっと握られるとゴンは強い自信を持った眼差しを俺に向けた。
何で何でそんなに自信を持って言えるんだ……?どうして、そんなに真っ直ぐな目で言えるんだ……?

「大丈夫なんて……そんな保証はどこにもないんだぞ!!なぜ、そう思うんだ!?」

「だって、ロウが妖怪として生まれ変わった事ってことは、この世界で何かを遂げないといけないっていう使命があるからなんだよね?」

妖怪として甦った使命……。

「今のロウが記憶を取り戻す事に必死になってるって事は……戻るのは遠くない事だと思うんだ。だから、大丈夫だよ。ロウは記憶が戻るのを待ってれば良いんだ」

……わかった気がする。ここまで俺がゴンに執着する理由。深い理由なんてない。単純にゴンでないと駄目なんだ。ゴンがいないと……俺は安心できないんだ。
他の誰でもない……俺が真に受けられるのは主人と決めたゴンの言葉だけなんだ。

「やっと笑顔になってくれたね」

「あぁ、何だか俺の心に縛り付けられてた重りが無くなったみたいだ。それが、信じられないくらいビックリなんだ」

最近の俺はネガティヴ思考すぎたのかな?こうしてゴンの言葉を受け入れてみれば曇った心が晴れた気がする。

多分、これは誰にでもできる事じゃない。ゴンだからそこ出来たんだと思う。あんな真っ直ぐな眼差しを向けられて言われたら信じない訳にはいかないからね。

「ありがとう、ゴン」

「ロウがいつも俺にしてくれてた事だよ。だから礼なんていらないよ」

きっとこれが友達という関係なんだろう。お互いを支え合うものだと聞いたが、今のゴンと俺は支え合えていると思う。



それから、しばらく無言で夜景を眺めていた。先ほどとはまるで違うように見える夜景。きっと、悩み事が晴れたから見え方も変わったんだろうな。

隣で夜景を眺めるゴンを俺はジッと見つめた。最初と会った時と変わらない表情。触れたいという衝動からか、スッとゴンを抱き寄せた。その行動にゴンは驚いた様子で俺を見ていたが、すぐに視線を夜景に戻した。

愛おしいと感じてしまうこの心はどうしたら良いんだろう。その答えがわからずにゴンをぎゅっと抱きしめた。そんな俺にゴンは不思議そうに俺の名を呼んだ。

「ロウ……?」

「悪い、少しこのままでいさせてくれ」

そう告げればゴンはそれ以上、何も言わずに抱きしめさせてくれた。このまま、永遠に時が止まってほしいとさえ思える至福のひと時を過ごした。
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