5月5日


◆◇◆◇◆◇◆◇




一週間ほど前にミトさんから呼び出された。話を聞けば、5月5日はゴンの誕生日らしい。それで俺にも祝ってくれないかと。

誕生日というイベントについて調べていたら、どうやらプレゼントを贈るらしい。それだけではないが、やはり誕生日にはプレゼントを贈ると喜んでくれるそうだ。

生憎、俺は誕生日と言うものには無縁でいつ生まれてきて今は何回目の誕生日を迎えているのかもわからない。




当日になるとミトさんは晩御飯をご馳走にすると言って張り切ってしまっている。

情けないもので俺は何をするべきなのかがよくわからないんだ。一応、プレゼントは用意したもののゴンが気にいってくれるか…。


「ねぇーロウ。」

「っ!?い、いたのか…。」

ソファに座りながら考え事をしていれば背後から声を掛けられ、驚いて立ち上がってしまった。


「そんなに緊張しなくて良いよ。」

「あ…、あぁ。」

微笑むゴンは俺が深く考え過ぎているだろうと想定済みだったかのように、優しい言葉をかけてくれた。



「ゴン。……俺はゴンがこの世に誕生してくれて本当に良かったと思うんだ。」

自分でも何で今こんな事を言ったのか理解できない。でも、いつかは伝えたいと思っていた俺の内に秘めていた本当の思い。

当然、ゴンも少し目を見開いて俺をマジマジと見つめていた。


「お前が…いなかったら俺は怒りと憎しみに飲み込まれていたと思うんだ。」

嘘じゃない。本当のことで、我ら一族を滅ぼした人類に報復をもたらしただろう。


「ゴン…。やはり、お前は不思議だ。深い怒りを持った俺の心を清めてくれた。」

気がついた時には俺の両手はゴンを抱き締めていた。無意識のうちにゴンを求めた。


「俺も…ロウがいてくれて良かった。」

俺の背中に手が回される感覚が伝う。ゴンの仄かな体温が俺を包み、何だか落ち着く。


お互いに身体を離すと、俺は近くに置いた箱を手に取る。ゴンに手渡したら、中身も見ていないのに喜んでくれていた。

「正直なところ、お前に何をプレゼントして良いのかわからないから、気にいるかわからないけど受け取ってくれ。」


「ロウからなら何でも嬉しいよ。今、開けて良い?」

うん、と頷けばゴンは箱をゆっくりと開けた。中には淡く青白く輝くペンダントが光を漏らした。それを見たゴンは取り出した。


「これって…。」

「ゴン、いいか?」

そう言ってゴンからペンダントを一旦受け取ると、すぐに俺はゴンの首にペンダントをかけた。やはり、この手の物は贈り主がかけるものだろう。



「これ…どうしたの?」

てんろうぎょく。俺たち一族が真に愛する者に贈る愛の象徴。」

私たちたペンダントの意味を言えば、ゴンの顔は熱に帯びていく。正直、俺も熱が帯びているだろう。

「ペンダントについている石を握ってみてくれ。」

青白く輝く透明色の石を握るゴンは、再び驚いた表情を見せる。それもそうだろう。


「す、すごいね。」

あの石には俺の記憶を込めた。俺が今までに目にしてきた絶景の数々。今のゴンには、それらが目の前にある感覚、つまり現地にいる感覚に襲われているんだ。



「今じゃ、もう見られないものもある。100年前、俺が目にした風景だ。」

それらは俺が好きだった場所。今では民家が建築され、工場やダムが建てられ見られなくなった。だが、俺の脳は何時までも記憶している。


全ての風景を見終わったゴンは俺を見て再び微笑んだ。喜んでくれているみたいで俺はホッとした。


「俺も…ロウの事が好きだよ。自分でも、こんなに誰かを愛したいって思ったのはロウが初めてなんだ。」

そんなに澄んだ瞳で言われると、俺なんかがゴンと共になる事が罪に感じてしまう。けれど、俺は強欲でそれでもゴンを愛したいと強く思う。



再び抱き寄せれば耳元で「俺も初めてさ。」と小さく吐いた。異種にここまで心を奪われるなんて考えもしなかったから。

そのままソファに抱き合う形で座った。晩御飯ができるまで、ずっとこうしていても良いよね?
きっと、これがゴンも俺も幸せな一時を過ごせる時間なんだから。


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