「ええッ!?」
ほとんど一睡もできずに、迎えた朝。
朝一番にナホヤから届いたメールになまえは思わず素っ頓狂な声を上げた。
『おはよ。昨日の続きしたくて我慢できねーから、昼休み屋上な』
昨日の続き、という一文に、一気にかあっと顔が熱くなる。それはつまりアレの続きという事で、我慢できないって何これどういうことなの、と1人頭の中で妄想が進み、今にも床で七転八倒したくなるほど、恥ずかしくてこそばゆくて、いたたまれない。朝からまるで全速力で走ったみたいにバクバクうるさい心臓の音を聞きながら、なまえはどうにか学校へ行く支度を始めた。
「……」
昼休みのチャイムが鳴ると同時に、なまえは屋上へ向かった。そして、今屋上へ続く階段の前に立っている。朝のナホヤからのメールが気になって気になって、おかげで午前の授業は全く入って来なかった。多分、この扉の向こうにナホヤがいる。そう考えるだけで、胸がまたドキドキと高鳴る。そもそも、昨日の今日で一体どんな顔して会えばいいのかさえわからない。加えて、朝のメールの事もあるときている。
「なまえ」
「ひゃあッ……!」
限界を超えて、頭と心が同時にオーバーヒートしそうになったなまえの背後から、よく耳に馴染んだ声に呼ばれて、なまえは咄嗟に変な声が出てしまう。恐る恐る振り返れば、そこにはナホヤが立っていた。ぐるぐる一人で悩んでいるなまえとは違い、ナホヤはいつものナホヤだった。
「つーか、何そんな驚いてんだよ。ほら、行くぞ」
「……ッ、!」
まるでオバケにでも出くわしたかのように、目を見開いて身体を強ばらせているなまえの手を掴むと、ナホヤが屋上に向けて歩き出す。最初は握手するみたいに握った手は、いつの間にか指と指をしっかり絡めた繋ぎ方に変えられていて、ぴったりくっついたナホヤの温かい手のひらと、絡んだ指の感触に、なまえの心臓が大きく脈打つ。恥ずかしさとときめきで震える指先を悟られないように、なまえはきゅっ、と繋いだ指に力を込めた。
「……!」
連れ立って屋上に足を踏み入れ、背後でドアが閉まるやいなや、ナホヤが振り返って、なまえをドアに追いつめるように両手をついて挟み込む。太陽の光を浴びて、いつもより鮮やかなオレンジ色になったナホヤの髪が視界を埋め尽くす。
こうなる前からドキドキと高鳴る胸が、いよいよバグを起こしたかと言わんばかりに、早鐘を打つようにうるさく鳴り始めた。
「……ッ!」
至近距離にあるナホヤの顔を見る余裕などなく、肩を竦めて俯くなまえの額に、ナホヤの唇が触れた。びくん、と反射的に肩を震わせたなまえの反応を楽しむみたいに、ナホヤが今度はこめかみに口付けを落とす。そのまま、瞼、頬、耳朶、となまえを翻弄するのが堪らなく楽しそうに、ナホヤがキスの雨を降らせた。ナホヤの唇がれたところから、熱が伝播するみたいに、なまえの顔は真っ赤に染まっていく。どこもかしこも、すっかりピンク色に染まったなまえが眉根を寄せて伏せた睫毛を震わせる様子を見て、ナホヤが思わず喉を鳴らした。
「クソ、こんなん飛ぶワ……」
「ま、ッ………んッ、!!」
なまえの耳元で独り言みたいにナホヤが小さく吐き捨てるやいなや、些か性急になまえの唇を塞いだ。申し訳程度に小さく絞り出したなまえの制止の声ごと飲み込むように、ナホヤが何度も唇を食む。まるで柔らかく甘噛みするように、口づけられ、甘い快感と切ない痺れがなまえの背中をせり上がる。堪らず、なまえは縋るようにナホヤのシャツをキュッと握った。しかし、すぐにナホヤの大きな掌がなまえの手を上から掴み、固く握った指を解き、少し汗ばんだナホヤ自身の指をきつく絡ませる。そのまま、ナホヤの胸の上に縫い止められたなまえの手から、なまえと同じくらい早い鼓動の音が伝わってくる。
「ん……、ふ、ぁ……ッ」
角度を変え、絶え間なく何度も交わされる口づけに、息つく間もない。苦しくてどうにかなりそうなのに、どういう訳か止めて欲しくはなくて。自分でもよくわからない感覚に戸惑い、翻弄されながらも、無意識により深く口づけを交わそうと、なまえも自ら唇を押し当てる。それを、ゴーサインと受け取ったのか、ナホヤが舌先でなまえの柔らかい唇を押し開くように、一気に侵入させてくる。吃驚して思わず、舌を引っ込めようとするも、一瞬早くナホヤの舌がなまえを捕え、絡めとる。あとは、ナホヤのなすがまま、口内を優しく蹂躙され、味わいつくされる。初めての深い濃厚な口づけの甘美な感覚に、まるで酩酊したように、なまえは身も心もすっかり溶けてしまった。
「やべ……止めらんねぇ、止めたくねぇ……」
ようやく、ナホヤがゆっくり名残惜しそうに唇を離し、そのままなまえの耳元で、低く艶っぽく囁く。その一言に、ナホヤの熱と焦燥を直に感じて、なまえの心臓が一際大きく脈打つ。と同時に、居ても立ってもいられないほどの愛しさが込み上げてきて、なまえはナホヤの首に手を回して、つま先立ちでぎゅっとしがみつく。それから、小さく深呼吸して、溢れる気持ちの赴くまま、「止めないで……」と、ナホヤの耳元で消え入りそうな声で囁いた。なまえが言い終わらないうちに、ナホヤがなまえの背中を些か乱暴にかき抱くと、そのまま、再び、今度はもっと激しく口づけた。嵐のような口づけを交わしながら、なまえもナホヤの首筋に腕を絡める。気が遠くなるような快感に痺れる頭の隅で、昼休み終了のチャイムが鳴るのを聞きながら、2人がお互いを求めるのを止めることはなかった。
07 キスの温度
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