001. はじまりは歌とともに
息を吸い込もうとしても、させてはもらえず、代わりに塩辛い水が少し口の中に入ってきた。
そこでようやく、海へと投げ出されたのだ、頭が理解する。
無意識に、身体は空気を求め、真上の海面を目指す。
しかし、少し冷静になった思考が、身体を思い留まらせた。
───このまま顔を出せば、確実に命はない。離れなくては───
体内に残っている少ない空気を少しずつ吐き出しながら、静かに、沖を目指して泳ぎだした。
それでも、すぐに空気はなくなり、いよいよ絶体絶命の状態になった。
まだそんなに遠く離れてはいないから、まだ顔は出せないだろう。
むしろ、上がって来ない事を不審に思って、待ち構えていると考える方が普通だ
。
───このまま、死ぬの?
何も出来ないまま、止められないまま、私は死んでしまうの?
守らなければならない大事な人が、いるというのに───
最後の息を吐いて、視界は暗闇へと変わった。
真っ黒な世界の中で、一番最初に出てきたのは、最も敬愛する人だった。
その人は、もうすでに病で亡くなっているが、いつまでも心に残っている。
次に出てきたのは、欠けがえのない家族。
家族といっても、父、しかも"育ての"が前に付く養父だったが、それでも、本当の娘のように可愛がってくれた、大好きな父親だった。
本当の両親は、私が産まれてすぐ勃発した戦争で亡くなってしまったと、養父に聞いた。
そして養父もまた、老衰で既に亡くなっている。
二人共亡くなってしまったが、生前共に過ごした日々は、とても楽しかった。
時が経ち、職に就くと、大切な仲間にも巡り会えた。
功績を認められて、かなり良い地位にも就く事が出来た。
そして、今度は自分が親代わりとして面倒をみる子も出来た。
その子は今、きっと孤独だ。
思い浮かべれば、きりがない程、いろんな人に支えられて生きて来ていたのだと、今更ながらに思う。
まだ、こんな所で死ぬ訳にはいかない。
大事な人達を孤独にしてしまった償いや、まだまだやらなければいけない事がたくさんある。
地位なんかいらない。
・・・・・・ただ、生きたい。
───生きたい!
すると徐々に視界が明るくなっていった。
第1話 はじまりは歌とともに
キムラスカ=ランバルディア王国
バチカル ファブレ公爵邸
レムデーカン・レム・23の日
公爵邸に住んでいる赤く長い髪に緑色の瞳を持った少年、ルークは暇をもて余していた。
いつものように特にする事もなく、屋敷の中をブラブラしていると、執事のラムダスに呼び止められた。
「ただ今、ローレライ教団詠師ヴァン・グランツ謡将閣下がお見えです。」
「え? ヴァン師匠が? 今日は稽古の日じゃないだろ。」
「火急の御用とか。後ほどお坊っちゃまをお呼びするとの事でしたので、お部屋にてお待ち下さい。」
そうラムダスが言うと、ルークは気に食わなかったのか、
「いい加減、"坊ちゃま"はやめろよ。」
と言ったのだが、
「いえ、二十歳の御成人まではお坊っちゃまと呼ばせて頂きます。」
と反論され、更に言葉を続けて言われた。
「お坊っちゃま。くれぐれも庭師ぺールにお言葉をかけるのはお止め下さい。
あれはお坊っちゃまとは身分が違います。」
その言い方に、ルークはますます機嫌を損ね、ぶっきらぼうに怒鳴った。
「・・・・・・わかってるよ、うるせーなぁ。俺に命令するなっつってんだろ!」
ラムダスもこれ以上は言えなくなってしまい、
「失礼致しました。」
と一礼していなくなった。
ルークも呼び出しがあるまで部屋で待つ事にした。
部屋で待機していると頭の中に声が聞こえてきた。
《ルーク・・・・・・我がた・・・・・・
・・・・・・れよ・・・・・・
・・・・・・・・・・・・声に・・・・・・》
声と共に酷い頭痛に襲われる。
「・・・・・・いてぇ・・・・・・っ!
いつもの奴か・・・・・・っ!?」
あまりの痛さにその場にうずくまった。
そこにルークの世話係で親友でもあるガイが、窓から慌てて入ってきて声をかける。
「どうした、ルーク! また例の頭痛か!?」
「ガイ・・・・・・か・・・・・・。・・・・・・大丈夫。治まってきた。」
「また幻聴か?」
実は、この声が聞こえてくるのは初めてではなかった。
「・・・・・・何なんだろーな。うぜーったらねぇや。」
「この所頻繁だな。確かマルクト帝国に誘拐されて以来だから・・・・・・。もう七年近いのか。」
「くそっ。マルクトの奴らのせいで俺、頭おかしい奴みてぇだよ。」
忌々しげに言っているとコンコンッとドアをノックする音がして、
「ルーク様。よろしいでしょうか。」
と女性の世話係の声がした。
どうやら、呼び出しが来たようだ。
「おっとまずい。ここにいるのは秘密なんだ。見つかる前に失礼させてもらうよ。じゃあな。」
ガイはそう言うや否や、また窓から出て行こうとした。・・・・・・が。
「ガイ。貴方がいる事はわかっていますよ。」
とドアの向こうでまた声がした。
一瞬ギクリとしたガイだったが、その声色と口調でとある人物が浮かび、安堵する。
「何だ・・・、君だったのか。・・・・・・セリーヌ。」
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