日向はこの状況に困り果てていた。
建物の敷地内で、いつの間にか倒れていたが、倒れた記憶が全く無い。近くに門があったが、見えない壁のようなもので外には出られなかった。
そしてなんと言っても一番気になるのが、この建物の雰囲気が恐ろしく張り詰めており、人気は無いはずなのに、先程から冷たい視線を感じるのだ。
「どなたかいらっしゃいますか?」
と、試しに声を掛けるも、反応は無し。
‥‥さて、どうしましょうか。完全に手詰まりですよね。
とりあえず、この雰囲気をどうにか払拭しましょう。
後は、帰り道が見つかるまでの間、どう凌ぐか‥‥ですね。
そうと決まれば、やることは山積している。
幸いな事に、元は付けど軍人という事もあり、こういう状況の対処法は、心得ていた。
更に、ここは屋外ではなく建物の敷地内。設備は整っているだろう。
他人の家に勝手に入る事に躊躇う気持ちもあったが、この際背に腹は代えられないのだ。
意を決して、建物内へと足を踏み入れた。
入り口に入ると、一足の古い靴がぽつんとあった。
やっぱり誰かいるのでしょうか。
それにしてはかなり傷んでいますし、とても履けそうにはないですね‥‥。
靴をそっと戻して、先へと進んだ。
そして、進んですぐ、異様な匂いが鼻につき、そこから匂うであろう部屋の扉を開けてみた。
「!?」
そこは、辺りに酸化し固まった血液の匂いが充満し、その匂いの元である刀身の短い刀が何本も散らばっていた。中には傷だらけだったり、折れているものもあった。
ここは何とかしなければいけない所だが、とりあえず後回しにして、次の部屋へと進んだ。
その先も、血の匂いが濃くなっており、もう人が住んでいるとは思えなかった。
遠い昔に、戦争などで襲撃を受けた屋敷だと結論付け、探索を再開した。
そう思ってしまえば、気持ち的には大分落ち着いてきた。
一通り見て回れば、思わぬ収穫がたくさんあった。
まずは設備。トイレ、キッチンは勿論、あらゆる電化製品が揃っていた。お風呂に至っては、源泉掛け流しでとても広く、お湯の熱さも丁度良い。一番驚いたのは、未だに火が着いたり、電気が通っている事。蛇口を捻ればお水やお湯が出る事。
人が居ないのに、何故今も生きているのかは気になる所だが、生活面では困らなさそうだ。
この建物で囲うようにある中庭は畑もあり、野菜を育てるのに丁度良い。
種などは、道中でそれらしきものをみつけたので、後で撒くことにする。
唯一気になった場所が、鍛治場と道場。
道場はまだ分かるが、鍛治場があるのは珍しい。
でも、先程の部屋や、他の部屋にも大量の刀があったのは、ここで刀を作っていたからなのか。
何にせよ、ひとまずは探索を終え、次は清掃へと取り掛かった。
無人の廃屋とはいえ、帰るまではここで暮らすため、少しでも快適に過ごしていきたいと思うから。
最初に、散らばった刀を一箇所に集めようと、一番始めに入ったあの部屋へ向かった。
その部屋にあった刀の数は、十本。
短い物だけだと思っていたが、四本だけ他のと比べて長かった。
いずれにしても、刃こぼれが酷かったり、折れているのもあったりと、状態は最悪だった。
唯一、一番長い刀だけ、状態が良かったのが少し気になるが、考えても埒があかないので、次の部屋へと進んだ。
その後も、状態が悪かったり折れている刀等が二十本くらい、片や綺麗な刀は十本あった。
綺麗な刀に共通しているのは、皆長い物だということ。
かといって、長い刀全てが良い状態という訳でもなく、長い刀の中には状態の悪いのもある。
状態はともかくとして、四十本程の刀を全て並べてみると、圧巻だった。
自分自身も、武器の種類は違えど扱ってきた者として、どうにかして綺麗に直したいとさえ思い始めていた。
まずは、壁、床の水拭き。幸い、水はあるし、かなりボロボロだが布切れも見つける事が出来たので、掃除は可能。‥‥なのだが、ただでさえ部屋が広い上に、何年も前にこびりついた汚れは、そう簡単に落ちてはくれない。
とりあえずは寝床を確保するため、一部屋だけ綺麗にしようと、一番綺麗な部屋であった、二階に一つだけある部屋の掃除を開始した。
元々この部屋には血痕などは無く、溜まっていたのは大量の埃と塵だけで、水拭きや掃き掃除だけでも比較的簡単に綺麗になった。そして最後に窓を開けて空気を入れ替えれば、生活スペースはとりあえず確保出来た。
外を見れば、もうそろそろ日が傾き始めていた。
この涼しい時間帯の内に、畑でも整備しようと一階に下りた時、急にとても禍々しい気配を感じた。その数、六体。
さっき窓から見た時は、そんなもの感じる事はなかったのに――――
そう思いながら、慌てて気配の強い中庭へ向かった。
「っ‥‥!!」
向かった先に見えたのは、人ではない何か。蒼い炎を纏っているその者達は、日向に気付くと、いきなり襲い掛かってきた。
「私を歓迎するつもりではないようですね。」
日向は瞬時に戦闘態勢をとるが、相手は刀や槍を持っている一方、丸腰の日向にはかなり分が悪かった。
何とか格闘術で応戦するが、相手の頑丈さ故か、なかなか倒れてくれなかった。
「あ、あと三体‥‥!」
そして、一瞬気を取られた隙を突かれた日向は強烈な一撃を喰らい、建物の中へと吹き飛ばされた。
そこは刀を並べて置いた部屋で、日向は無我夢中でその中の綺麗な白い刀を一本取ると、敵へと向かっていった。
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