呼び起こされる感覚


 奥底へと沈んだ意識の中、誰かが触れた気がした。
それと同時に、ゆっくり呼び起こされるような感覚。それは、今までになく優しい力。
少しだけ意識が浮上して、感覚がはっきりしてくる。

―――これは‥‥、俺が誰かを切っている?
俺は今、刀として扱われているのか?

本来の感覚が戻ってきて、意識はとても浅い所まで戻りつつあった。



 刀を手にした日向は、再び敵へ向かい、今度は確実に急所を攻めながら、敵を倒していった。
刀剣を扱い慣れてないため、少し苦戦したものの、丸腰の時よりは比較的楽に倒せた。
最後の一体を倒せば、ようやく静かな空間が戻ってきた。
もうすっかり日は落ち、辺りは真っ暗になっていた。

「自分の武器が無いだけで、こんなに苦戦するなんて思わなかったです‥‥。
でも、あの強い敵を倒せたのはこの剣のお陰、です‥‥ね‥‥。」

 避けきれず出来た数々の切り傷に長時間戦闘による疲労困憊。
日向は、ぽつりと呟いた後、白い刀を掴んだまま、二階の寝床に倒れ込んだ。



ありがとう‥‥。

 そう誰かに言われた気がする。
そして、更に強く温かい力も流れ込んできて、意識は完全に浮上した。

久々に人の体を得た感覚。
ゆっくり目を開けると、綺麗な部屋に一人、少女が無数の傷を負って倒れていた。俺の本体を握ったまま。

「えっと‥‥。死んでない、よな?」

少し揺すって確認すれば、とりあえずは生きているようだ。

身体中にある切り傷が気になるが、今は真夜中。血も固まっているし、無理に起こすのも忍びない。

何故、ここに関係ない人間がいるのか。
何故、君は傷だらけなのか。
何故、俺はまた再び人の姿を持てるようになったのか。
聞きたいことはたくさんあるが、今はそっと、久しぶりに見る朝日を待っていた。



 翌朝、日向が目覚めると、白い髪に白い着物を纏った、ほぼ全身白で統一された見知らぬ男性が片膝を立てて眠っていた。思わず声が出そうになったが、眠っている彼を起こすまいと、必死に堪えた。

いつの間にここに人がいたのか気が付かなかったが、もしかしてここの住人の方なのか。それならば、勝手に入って寝ていたのが恐ろしく感じて、慌てて揺り起こす。さっきは、起こさないように、なんて考えていたのも忘れて。

「あの、すみません。起きて下さい。」

「ん? ん‥‥、ふあ〜ぁ‥‥。あ、寝ちまってたのか。なんだ、君を驚かすつもりでいたんだがなぁ。」

「‥‥え? 」

今この人驚かすって言わなかっただろうか。寝起きに驚かすつもりでいたとは、随分ユニークな方のようだ。

「‥‥えっと、あの、すみません。ここの住人の方‥‥ですか?」

「‥‥まぁ、そう、だな。もうすっかり様変わりしてるようだが‥‥。」

男性は辺りを見回しながら、感慨深く呟いた。

「ところで、君は誰だい?主ではない人間がこんな所で寝てるし、怪我も酷いし、かなりの驚きなんだが。」

「本当にすみません、実は‥‥。」

主、という単語が気になるが、日向は、とりあえず今までの事を全て話した。

突然ここに来てしまって帰れない事。
昨日の人成らざる者達の襲撃の事。

彼は、相槌を打ちながら話を聞いてくれて、日向が全て話し終わると、少し考えてから言った。

「元の世界に帰れない、というのは俺には分からないなぁ。そもそも、俺達もこの本丸からは出られないんだ。
けど、その敵の事なら知ってるぜ。“検非違使”っていって、どうやら歴史に深く関わると現れる厄介な敵さ。
本来は、主の結界で、本丸には入れないはずなんだが‥‥。恐らく、結界の効力が切れてるから、入り込めたんだろう。そして、その元凶ともいえる君を襲った‥‥という所かな。
結界の力が切れたのに、俺達は出られないのは、疑問が残るが‥‥。」

「そう、でしたか‥‥。」

「それにしても、君もやるよなぁ。たった一人で六体もの検非違使を倒せるなんて、そうそういないぜ。」

「私、これでも元軍人なんです。武術も習ってましたから戦闘には慣れているつもりでいたんですが‥‥。やはり、剣と拳じゃ、リーチやダメージの面で劣りますから。」

「あぁっと、すまない。“りーち”とか“だめーじ”ってなんだ?」

「えっと‥‥、攻撃範囲と、攻撃力‥‥ですかね?
‥‥それで、苦戦を強いられていたんですが、ある時敵に吹き飛ばされた場所が剣を並べておいた部屋で、運良く剣を手にする事が出来たので、それでなんとか倒す事が出来たんですよ。
私は武人ではないので、扱いは下手だったと思いますけど。
それでも、この剣は私の命の恩人ですね。あ、恩人じゃなくて、“恩刃”、ですかね?」

そういって日向は白い刀を優しく撫でた。

その様子を見ていた彼は、一瞬面食らったような顔をしたが、刀に目を向けている日向は気付かなかった。

「実は、俺も言っておかないといけないことがあるんだが‥‥。」

「あ、はい。何でしょう。」

急に声のトーンを変えて切り出してきた彼に日向は、わずかに身構えた。

「実は、その刀‥‥。俺の、なんだ‥‥。というか‥‥。俺自身というかなんというか‥‥。」

「え?」

いまいち歯切れが悪く、聞き取りにくかったが、肝心の所は聞こえた。
しかし、脳があまり理解出来ないでいると、彼は続けて言った。

「俺は、刀剣から生まれた付喪神なんだ。」

言葉を拾うのに、少々時間を要した。

「えっ‥‥と、付喪神、ですか。」

「ああ。‥‥そういえば、まだ名乗ってなかったよなぁ。俺は鶴丸国永。よろしくな。」


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